九十七話 雷光の力と元凶の魔物
街に非常事態を知らせる鐘の音が響き渡る中、俺たち《雷光》とルーヴォルを含めた冒険者たちは西門に集まっていた。
「準備はいいか、輝夜、スカハ」
俺は龍星と龍焔を腰から抜いて、輝夜とスカハに言った。
「整ってござる」
「問題無い」
輝夜とスカハは気負いなくそういった、俺はそんな二人に頷くと頭上から声が響いた。
「アレス!、見えたわ!」
城壁の上に立つメリアがテュリスの森の方角を指すと土埃を巻き上げて近付いてくる数多くの魔物たちが見えた。
俺たちと同じ前衛組の冒険者たちも各々の武器を抜き、戦いに備えた。
「作戦通り魔法師が魔法で敵を蹴散らして前衛組が切り込め!」
ギルドマスターバレンの声が聞こえて、城壁に立つ多くの魔法師たちが詠唱を紡ぎ始め、魔力が高まっていくのを感じた。
多くの魔法師が詠唱する中で一際別格の魔法を放とうとしている者がいた。
「私も本気で行くわ!」
メリアは銀光剣クレセントを抜き、六枚の天使の翼を広げ光輪を頭上に顕現させ全身から莫大な魔力が発せられた。
「"光よ集え・今こそ・我が手に光を灯せ・天を照らす銀光よ・我はここに現れた…」
メリアの銀翼から六つの光球が現れメリアの周囲を旋回した、その速度は魔力が高まるにつれて増していく。
六つの光球はメリアの輝く翼に呼応するように姿を変え、龍の顔を形作った。
「…空を裂き・その顎で敵を喰い破れ・銀の六龍たちよ・銀轟天龍吐息”!!!」
六体の銀龍から放たれた六条の吐息が近くまで迫ってきた魔物たちを一息で殲滅した。
同じく城壁に居る魔法師たちも思わず唖然とするほどの威力である。
「ほんとーにメリアの魔法の威力はぶったまげてるわねー」
近くに立っていたアリスが呆れたように言い、その隣立つルーヴォルはホホホとおかしそうに笑った。
「驚いたのう、これ程とは…、しかし天使ならば納得なのじゃ」
扇子で口元を隠してルーヴォルが言う、城壁の下にいた前衛組の冒険者たちが一斉に走り始めた。
「油断しないで!、今倒したのは低級危険種たちよ!」
メリアの言葉に魔法師たちは詠唱を再開した、メリア自身も再び銀光剣を構えた。
「おい!、ファフニール!、あの規模の魔法を連発出来るのか!?」
「そうよ!」
メリアはバレンの言葉に背中越しで返して詠唱を唱え始めた。
◆◆◆◆
メリアの魔法が低級危険種たちを消し飛ばしたが、魔物の勢いが衰えることはなく俺たちは各々の武器を構えて突撃した。
「スカハ、輝夜、魔物の相手は他の冒険者に任せて俺たちはテュリスの森へ向かうぞ」
俺は言いながら龍焔を鞘に収め、身を捻りながら龍星を肩に乗せた。
「アレスが切り開く?」
「ああ!」
俺はスカハの問いに元気良く頷いて、龍星の魔力と俺の闘気を龍星自身に纏わせた。
蒼色の魔力が龍星の刀身を染め上げ、凄まじい剣気がアレスから発せられた。
「"魔刀技 龍呀乱刃・滅”!」
帝国で一度使用した技だが今回は規模が違う、竜巻を横倒しにしたような勢いを持って龍の幻影が数多くの魔物を地面ごと削り取った。
それにより一直線上の隙間ができ、アレスとスカハ、輝夜はそこを駆け抜け森を目指した。
「おいおい、なんだ今のは…」
声がした右側を見ると大きな戦鎚を担いだ大男が居た、《雷の戦鎚》のガンツである。
「俺の剣技だよ」
「剣技という枠組みを逸脱してると僕は思うよ」
俺が返した言葉に左側からそんな声が聞こえた、《疾風》のマークだ。
「各々方、歓談は後にするでござる」
輝夜の言葉に前を見ると魔物が俺が作った隙間を埋めようとこちらに向かってきていた。
「ここは俺に任せな!」
言いながらガンツは背中の戦鎚を取り出し、思っきり地面に叩き付けた。
地面が爆発したように弾け、瞬間放射状に雷が駆け抜け魔物を蹴散らした。
「僕の実力も見てもらうよ!」
マークは二本の曲剣を左右に振った、すると複数の風の斬撃が半円状に飛び魔物たちを斬り刻んだ。
「魔鎚に魔剣か、流石は高ランク冒険者なだけはある」
俺が心からの賞賛を送ると同時にテュリスの森が見え始め、その前に多くのイビルトレントが陣取っていた。
「ここは拙者とスカハが!」
輝夜とスカハが飛び上がり刀を鞘に収め、二槍を構えた。
二人の全身から魔力が吹き上がり武器に収束した。
「"拾ノ太刀 天華峻烈”!」
「"幻槍流 刺烈驟雨”!」
輝夜が抜刀した白夜から多くの煌めく白刃が放たれ、スカハが放った刺突の雨と共にイビルトレントたちに降り注ぎ、バラバラに砕き斬り刻んだ。
俺たちはその屍を踏み越えてテュリスの森に侵入した。
「空気が重いな」
森に入って最初に感じたのは体にのしかかるような圧だ。
「昨日入った時よりも増してる」
「これは元凶の魔物が森の奥から出てきてるんだな」
スカハが咄嗟に出てきた魔物を貫きながら言って、ガンツが推測を口にした。
「元凶の魔物だけど僕はおそらく"変異種”だと思うんだ」
マークが走りながら唐突に口を開いた。
「"ぞでぃあっく”とは何でござるか?」
「異常な進化を遂げた魔物のことだ、確かにマークの言う通り"変異種”が居るなら今回のも説明がつくな」
魔物暴走は強大な魔物に追いやられた魔物が大挙で押し寄せることを指し普通の環境下では起きない、ゆえに元凶の魔物は"変異種”の可能性が極めて高いと推測出来た。
「止まって皆」
「どうしたんだ?」
静止の声を上げたスカハにガンツが訝しむような視線を向けたがスカハは周囲を見回して言った。
「魔物が少なすぎる、森に入ってから数匹しか倒してない」
スカハの言葉に俺たちは弾かれたように動き、五人背中合わせになり全周囲を警戒した。
「近くに居るのか?」
俺は警戒心を保ったままスカハに視線を向けて話すとスカハは首を振った。
「可能性は否定出来ないけど分からない」
「警戒しとけ、何が出てくるか、分かったもんじゃねぇぞ」
ガンツが戦鎚を両手で構えて、鋭く言った。
「居ないのか?」
しばらく警戒を強めていた俺たちだったが敵が来ず、マークが思わず気を緩めた。
「避けろ!!」「躱せ!!」
俺と輝夜は瞬時に感じた直感に従い大声で叫び、先程居た場所から跳び去った。
警告に従いスカハとガンツ、マークも跳び去った。
瞬間俺たちが先程まで居た場所が森から飛んできた小さい漆黒の針のむしろになった。
「「「!!!??」」」
俺たちが驚愕に目を見開く中、空間を震わせるような咆哮が轟き木々を薙ぎ倒し魔物が現れた。
その魔物は端的に言って漆黒の獅子だった、刹那の間にこの魔物を知識から探すが漆黒の体毛を持った獅子の魔物を俺は知らない。
俺は瞬間この魔物のこそが元凶の"変異種”だと確信した。
「散開しろ!」
未知の魔物を相手にする時は不要に近づいてはならないという鉄則に従い、俺は叫び歴戦の冒険者であるガンツとマークも漆黒の獅子から距離を取った。
「グルァァァァァ!!!」
漆黒の獅子が咆哮した瞬間、体毛が逆立った。
そして逆立った体毛が俺たち目掛けて飛んで来た。
俺たちは迎撃よりも回避を選んだ、飛んでくる体毛が一体どんなものか分からなかったからである。
「ぐっ!!」
広範囲の体毛の攻撃を避けきれず輝夜がかすり傷を負い、ガンツやマークもかすり傷をつけられていた。
運良く無傷だった俺とスカハは地面を蹴り、斬撃と刺突を首と喉笛目掛けて放った。
ガキィィィィンという金属がぶつかるような音が響き渡り、俺とスカハの攻撃は漆黒の体毛に防がれた。
すぐさま跳び去り、前足の追撃を避けた俺たちだったが内心では驚愕していた。
(俺とスカハの攻撃を防ぐだと!?)
俺の闘気を纏った斬撃とスカハの幻槍流の刺突を防ぐとは尋常な防御力ではない。
「グルァァァ!!」
漆黒の獅子はそんな俺たちから視線を切り、負傷していた三人の内一番弱そうに見える輝夜に向かって飛び掛った。
無論輝夜は避けたが、避けざまに斬りつけた輝夜の攻撃もやはり硬質な音を立てて防がれた。
「俺たちの攻撃が効かない魔物か」
事実を認める意味で呟くも背筋に冷や汗が流れる。
「とりあえず本当に私たちの攻撃が効かないか、試してみる」
「それしかないな」
俺はスカハの言葉に頷き、厳しい戦いになると覚悟を決めるのだった。




