九十六話 神狼とギルド会議
翌朝、俺は予定を変更して"魔物暴走”のことをメリアと輝夜に話した。
「"魔物暴走”かー、デートは中止ね」
「何やら大変な時期に来てしまったようでござるな」
二人は話を聞いてそんなことを言って各々の武器を整えた。
「それはそうと二人は大丈夫なの?、昨日は遅く帰ったみたいだけど?」
「全く問題ないわ!、ね、スカハ!」
「アリスに同意」
チラチラとアレスを見て頬を赤くするアリスが恥ずかしさを誤魔化すように言い、スカハも素早く同意した。
「と、とりあえずだ、冒険者ギルドに行こう」
俺は何かと勘の鋭いメリアに悟られる前にそう言うのだった。
「えぇ!」
俺は一階に降りると驚きのあまり大きな声を出してしまった。
「昨日ぶりなのじゃ」
椅子に座り扇子を広げて言ったのは金糸の狼少女ルーヴォルだ。
「あ!、昨日ぶりねルーヴォル!」
「何故この宿に?」
メリアが挨拶を返して輝夜が首を傾げて聞いた。
「アレスの匂いを辿ってきたのじゃ、何やら不穏な空気が街を覆ってるのでのう」
そう言ってルーヴォルは椅子から下りた。
「…してハーフエルフのそなたと魔族のそちが残りのアレスの恋人かの?」
ルーヴォルはアリスとスカハを見て言った。
「そうだけど…貴方はアレスの知り合い?、初めまして、よね?」
「そう、私はアレスの恋人」
アリスは困惑気味に聞き返し、スカハは胸を張って言った。
「アレスの知り合いだの、メリアと輝夜とは昨日会ったのじゃ、よろしくなのじゃ」
「う、うん」「よろしく」
アリスは若干困惑しながらもルーヴォルの手を握り、スカハは相変わらずの無表情で交わした。
「それで何でここに来たんだ?、さっき街が不穏な空気に覆われているとか言ってたけど?」
俺は自己紹介を終えたルーヴォルに聞いた。
「これだけは長生きして会得した勘だのう、何かこの街に危機が迫っていると思ったのじゃが…」
それを聞いてアリスがビクンッと肩を震わした。
「…どうやら外れてなかったようだのう」
そんなアリスの反応を見てルーヴォルは扇子で口元を隠した。
見透かされたアリスは諦めて"魔物暴走”の事を話した。
それを聞いたルーヴォルは扇子を閉じて納得の表情になった。
「"魔物暴走”、納得なのじゃ、アレスたちはどうするのかえ?」
「俺たちはこれからギルドに行って防衛戦に参加するつもりだ」
俺の言葉を聞いたルーヴォルは考えるように俯くとすぐに顔を上げた。
「妾も手伝おうなのじゃ、この街は好きじゃしのう」
再び扇子を広げて言ったルーヴォルに俺は驚きつつも聞いた。
「それはありがたいが大丈夫なのか?」
俺が戦えるのか?という意味で問うとルーヴォルは獣人特有の犬歯を見せて笑った。
「一緒にギルドに行けば自ずと分かるのじゃ」
そう言って身を翻したルーヴォルを疑問に思いつつも俺たちはその背中を追うのだった。
◆◆◆◆
ルーヴォルを加えた俺たち六人が冒険者ギルドに入ると多くの冒険者が集い、物々しい空気が立ち込めていた。
「あれ?、アレスさんじゃないですか?」
「お?、お前はベリルか、二日ぶりだな」
集まる冒険者たちの中にダリス来た初日に会ったベリルとその仲間たちが居た。
「はい!、それにしてもこの物々しい空気なにかあったんですかね?」
俺がベリルの質問に答える前に二階へ続く階段からダリス冒険者ギルドマスター、バレンが下りてきた。
冒険者たちの視線が集まる中、バレンは口を開いた。
「ダリスの西に広がるテュリスの森で"魔物暴走”の前兆が確認された」
その一言で冒険者たちが一気にざわめいた。
「昨日冒険者ギルドから出した調査依頼の結果を鑑みてギルドは"魔物暴走”は起こると確信している」
確信しているという言葉に冒険者たちは各々驚きの顔を浮かべた。
「この温泉の街ダリスに未曾有の危機が迫っている、だが冒険者は自由だ、別にダリスが無くなろうが関係ない、魔物暴走が起きる前に逃げればいい、俺はそいつらを臆病者とは言わねぇ」
バレンさんはここで一拍置いて声を張り上げた。
「俺はこの街を愛してるんだ!、魔物ごときに奪わせはしねぇ!、だが俺一人じゃ無理だ、ここに居る冒険者全員の力が必要だ、頼む!、冒険者の力を貸してくれ」
ギルドマスターが頭を下げて懇願するという光景に皆が呆気に取られる中、俺は声を上げた。
「ギルドマスター!、冒険者が求めてるのはそれじゃないぞ!、冒険者に頼み事をする時は報酬を約束しろ!、冒険者への対価はそれだけだろ!」
俺の言葉に他の冒険者たちが次々声を上げた。
「そうだぞ!、ギルマス!、ダリスを守った報酬を提示しろ!」
「俺たちに助けを求める前にどれくらいの金貨を報酬にするか数えとけ!」
「あんたの頭より報酬を提示しろ!」
冒険者たちは口々にあんたの頭は要らない!、報酬を提示しろ!、と叫んだ。
そんな冒険者たちを見てアリスがクスリと笑いを零した。
「ふふ、これが冒険者よ、仁義なんて湿っぽいもののためじゃなくただ自分のために戦うのが!」
「アリスが珍しく好戦的に笑ってるわー、それに冒険者たちも報酬を提示しろって…」
呆れたように言うメリアにルーヴォルがホホホと笑った。
「冒険者は時が経とうが変わらぬものじゃ、自分のために戦う、今の昔も変わっとらん」
「うん、でもそういうのは嫌いじゃない」
「拙者もこういう空気の中に居ると滾ってくるでござる」
スカハに輝夜も好戦的な美しい笑みを浮かべた。
そんな冒険者たちの反応を見てバレンは懐から一枚の依頼書を出した。
「てめぇらなそういうと思ってたからな!、低級危険種は一体につき銀貨十枚、上級危険種は一体につき金貨十枚を報酬として約束するぞ!」
ギルドマスターの報酬額提示で冒険者たちはさらに沸き立った。
冒険者たちがある程度落ち着いたところで作戦会議が始まった。
「作戦を説明するぞ」
酒場の長テーブルの上に城壁とテュリスの森の文字が書かれたた地図の上に魔物の模型を受付嬢たちが準備した。
「テュリスの森から溢れ出てくる魔物を地上で前衛組、城壁の上から魔法師組に分かれて食い止める、その間に《雷の戦鎚》、《疾風》、《雷光》のお前たちに"魔物暴走”を引き起こした魔物の討伐を頼みたい」
バレンの真摯な瞳が戦鎚を担いだ大柄な男と双剣使いの男、そしてアレスを貫いた。
頷く二人を見つつ俺は手を挙げた。
「どうしたバハムート?」
「さっきの依頼は勿論了解したが、魔物の数がそこまで膨大ならメリアとアリス、スカハは街を守る方を頼みたいんだ」
俺の意見に冒険者たちが首を傾げた、俺は理由を察して付け加えた。
「メリアは一般的な魔法師を逸脱するレベルの魔法師なんだ、詳しい詳細は省くが絶対にこの戦いには必要だ、アリスは魔弓を用いて範囲攻撃が出来るし弓師だから的確な援護も出来る、スカハは前衛も後衛もこなせるから一人居ると安心だと思うぞ」
俺の言葉に半信半疑な冒険者たちにさらになる声が掛けられた。
「それは俺が保証する桃色髪の嬢ちゃんはあの《白仮面》だし、魔族の嬢ちゃんも実力は突出してた、銀髪の嬢ちゃんは初対面だが只者ではないのは分かるぜ」
銀鉄級パーティーである《雷の戦鎚》のリーダー、ガンツの発言と《白仮面》という単語に冒険者たちは驚きを浮かべた。
「…ということは参加するのはバハムートとアマツキの二人か?」
「いや、スカハは連れてけ、その穴は妾が埋めてやる」
ギルドマスターの発言を遮るように一人の金糸の狼少女が現れた。ルーヴォルである。
ルーヴォルを見てギルドマスターは目を見開いた。
「神狼様!?」
「妾にかかれば魔物など塵芥に過ぎん、未知の魔物と戦うのなら魔法を使える者を連れて行った方が良い」
ギルドマスターを無視してルーヴォルは続けた。
「なるほど、一理あるか」
顎に手を当てて考えるアレスにギルドマスターバレンは声を上げた。
「おい!?、バハムートお前、神狼様と知り合いなのか?」
「ルーヴォルのことか?、そうだぞ」
ごく自然に答えるアレスにバレンは呆気にとられ、冒険者たちの目が自分に集まっているのを感じて頭を振った。
「兎に角だ!、原因の魔物の討伐を頼んだぞ、お前らに掛かってるからな」
ギルドマスターの念押しを経て俺たちは戦うためにギルドを出てテュリスの森が広がる西門へ向かうのだった。
戦いが始まる――




