六十九話 顔合わせ
「なぁ、アリス、矢を向けるのを止めて欲しいんだけど…」
「ふっ!」
一呼吸で矢が飛んで来た、俺は首を捻って避ける。
「危な!?、本当に何すんだよ!?」
「何で当たらないのよ!?、むうう!!」
アリスは更に矢をつがえて放とうとした。
「ちょっとアレスのことが気になってちょっかい出したい気持ちは分かるけど、そろそろカリスの街に入るんだから止めてよね」
メリアが呆れ気味に言った。
「べ、別に気になってないし!?」
アリスは弓を霧散させて食い気味に言った。
「んーん、凄い動揺の仕方ねー、アリスって結構面白いわね」
メリアが腕を組んで微笑んだ。
「むうう!?、少し髪が綺麗で容姿端麗なだけの女が失礼ね!」
「失礼ね、私はこれでもアレスの隣に立つ女よ、弱くはないわ」
アリスはなんと言えばいいのか、とても面白い性格をしているのがこの短時間で分かったが矢を飛ばしてくるのは心臓に悪いので止めて欲しい。
◆◆◆◆
傍から見ると奇妙な格好の白い仮面を着けた少女アリスと俺とメリアは依頼の達成報告をする為にカリス冒険者ギルドに戻って来た。
「おい、あの《白仮面》が他の冒険者と一緒に居る所なんて初めて見たぞ?」
「まじだ、あの二人は確か…、あれだ、王都に出たっていう超級危険種を倒した奴らだよ」
受付で素材を提出しているとそんな周囲の声が聞こえて来た。
(やっぱりアリスは有名な冒険者なのかな?)
俺は隣の受付で達成報告をしているアリスを見た。
「ーー」
何故か仮面のせいで見えない筈なのにこちらを振り返ってきた。
(え?、仮面越しで見えるのか?)
俺が少し右に動く、アリスの顔もそちらに移動し、俺が左に動くとアリスも顔を動かして俺を見続けた。
明らかに俺のことが見えていた、何故見えるのか疑問に思わないでもなかったが達成報告をしていたメリアが戻ってきたので思考をやめた。
「アレス、さっきエレンたちが冒険者ギルドの会議室に来たって受付の人から聞いたわ」
「おう、分かった、いつもの報告会だな、先に行っててくれ」
俺は横目でアリスを見てメリアに言った。
「分かったわ、エレンたちには私から説明しとくから、なるべく早く来てね」
そう言い残してメリアはギルドの上階へ行く階段を軽やかに上がって行った。
俺は丁度達成報告が終わったアリスに話し掛けた。
「アリス、俺の仲間が上の会議室に居るだけど紹介したいから一緒に来てくれるか?」
「構わない、依頼は受けることにしたし、バハムートのパーティーメンバーにも会ってみたい」
ギルドの中だからなのか男口調でアリスはそう言った。
「ま、魔族!?」
アリスは会議室に入った瞬間二本の槍を背負うスカハを見たのかそう叫んだ。
「ん?、、アレス、そこの仮面は誰?」
スカハはアリスの声に反応して振り向きアリスを一瞥した後俺に聞いてきた。
一緒に居た輝夜と王女様はメリアから出会った時の話を聞いたのか、若干の咎める視線を俺に向けている。
「彼女はアリス、幻鋼級の冒険者でかなりの弓の腕を持ってるから今回の依頼の協力を求めたんだ」
アレスは毅然と言った。
「ふむ」
「な、何よ?」
スカハはアリスの周囲を観察するように三周ほど回った。
「最高クラスの魔弓にその仮面は何かを隠すため?」
「!?」
スカハの言葉にアリスは驚きを浮かべた。
「貴方、只者じゃないわね」
「うん、私はスカハ、スカハ・レヴィアタン、アレスの恋人」
恋人という言葉にアリスは弾かれたように俺を見た。
「拙者は天月輝夜と申すでござる、アリス殿」
「私はアドモス王国第二王女エレネシア・スレイ・フォン・ファウルーナ・アドモスですわ」
輝夜と王女様も自己紹介した。
「まさかこの二人も…」
「輝夜は恋人だけど王女様は違うからな!?」
俺はアリスの言おうとしていることを何となく予想して言った。
「私としてもこのパーティーの女性全員がアレス様の恋人というのは驚きましたのよ」
「まぁ、貴族は一夫多妻が普通だけど平民は普通は一人よね」
メリアが王女様に同意するように言った。
「あんた何者よ、女の私から見ても美人の三人が恋人なんて…」
「アレス様は超級危険種アースドラゴンを倒した、王国の誇る英雄ですのよ」
「えぇ!?、あの王都に出た超級危険種を討伐したのは貴方だったの!?」
「違う、俺とメリアとスカハで倒したんだ」
俺はメリアとスカハ、二人を指して言った。
正直に言うがアースドラゴンは俺一人では絶対に倒せなかった、真面目な話で二人が居ないと死んでいた。
「たった三人で倒したことも十分凄いけどね」
「アレス様たちが何者か分かったところで《白仮面》のアリス様、闇ギルド《暗黒の空》壊滅に協力してはくれませんか?」
王女様は改めて白い仮面を着けたアリスを見て言った。
「さっきファフニールにも言ったけど私はバハムートに興味があるのだから協力する」
「アリスもアレンが好き?」
スカハが純粋な眼差しでアリスを見て言った。
「ち、違うわよ!?、何言っての!?、気になるだけだしバハムートは混血を嫌わなかったし」
「アレスは種族どうこうで人を見ない、見るのは心、そうでしょアレス?」
「え?、まぁ、種族どうこう言われても俺には分からないからな、知識としては知ってるけど実際見るのは初めてのものばかりだし、スカハの角だって最初見た時はびっくりしたんだぞ」
俺はスカハの双角を撫でながら言った。
「世間一般の価値観を持っていないというのはアレスの美点でもあるでござるよ」
輝夜の言葉にメリアが深く頷いていた。
「あ、あのメリアたちがアレス様が好きなのは十分伝わったのでそろそろ話を始めてもいいですか?」
やいのやいのとアレスの好きなところを言うメリアたちにエレンは若干頬を引き攣らせて言うのだった。
「ではここ三日間で集めた情報を整理しますわ」
俺たちは王女様の言葉に耳を傾けた。
「まずこの街、カリスの裏を支配する《暗黒の空》のリーダーは【怨羽】のダリス、そして幹部が三人いますわ」
王女様はカリスの地図を机の上に広げた。
「スカハ様が集めた情報では《暗黒の空》の本部はここにあり、多くの戦闘員が四六時中詰めていることが分かっています」
王女様は地図の東側を指して言った。
「そこで陽動作戦ですわ、この中で最も目立つのは王女である私と銀色の髪を持つメリアですから、私とメリアで敵を誘い出します」
王女様は俺の隣にいるメリアを見て言った。
「陽動された戦闘員をメリアたちが相手している間に俺たちはそのリーダーと幹部を斬るのか?、それとも捕まえるのか?」
「生け捕りが好ましいですが無理には言いませんわ、何せ戦いは命のやり取り、私の目的は組織の壊滅ですからアレス様たちには遠慮なく戦って頂きますわ」
「私の役目は何だ?」
既にやる意味は無い男口調で言うのはアリスだ。
「敵とて阿呆ではないですわ、だから私とメリアが囮だということにはすぐ気付くでしょう、そこでアリス様には"狙撃”をしてもらいますわ」
「"狙撃”か、了解した、ファフニールと王女殿下、そしてバハムートたちを援護射撃すればいいだな」
「は?、でもアリス、《暗黒の空》の本部の周りには高台は無いけど?」
俺は地図を指して言った、《暗黒の空》の本部の周囲には弓を上から撃つ為の高台が無かった。
「ここにあるだろう、お前の目は節穴か」
「はぁ!?、ここは《暗黒の空》の本部から二百メートル近く離れてるけど!?」
「問題は無い」
自信も持って言い切るアリスに俺は頼もしさを感じた。
「決まりですわ、襲撃の日時は明日の夜、アレス様たちの力を見せて貰いますわね」
微笑みを浮かべて言う王女様に俺達も各々の返事を返すのだった。




