六十五話 斡旋依頼
「アレス、起きるでござるよ、朝でござる」
万物を慈しむような声が聞こえて俺の意識を浮上させた。
「んん、ん、朝?、、輝夜か」
俺は明瞭になった視界に映る一糸まとわぬ輝夜を見て頬を緩めた。
「うむ、アレスの恋人、輝夜でござるよ」
「そうか、昨日王都に着いたんだったな」
確認するように言った俺に輝夜は頷いた。
ターズを出て王女様と共に度々野営をしながら一週間半程掛けて王都に着いた俺たちは一度計画を陛下に報告するとして別れた王女様を王都の宿屋で待っているのだ。
予定では帰ってくるのは今日の夜だ。
「そうだ!、輝夜、確か冒険者の依頼をまだ受けた事が無かったよな?」
「へ?、確かにターズで冒険者登録はし申したがまだ"くえすと”は受けてなかったでござるよ」
「なら今日は一緒に冒険者ギルドに言って依頼を受けよう、メリアとスカハは今日は鍛錬に勤しむって言ってたしな」
俺たちは四人で居ることが多いが輝夜は仲間に入ったばかりだし二人も譲ってくれるだろう。
俺は輝夜の濡羽色の髪を撫でながらそんなことを思った。
予想通りメリアとスカハは己の鍛錬に集中するようで簡単に輝夜と二人で依頼を受けることを許してくれた。
けれど
「その代わり今日の夜は私だからね!」
「ううん、メリアは今日アレスと寝てた、だから私」
「え!?、何で知ってるの!?」
「知らなかった、カマをかけただけだけど本当だった」
スカハはメリアを睨むように見た。
「どうしようもないことだってあるんだからーー!」
「それとこれとは話が別!」
メリアは何故か情けない悲鳴を上げてスカハと喧嘩を始めたが何だかんだいって二人は仲が良いのですぐに仲直りするだろう。
「しかし大丈夫でござろうか?」
俺の隣を歩く輝夜が心配の声を上げた。ちなみに心配しているのはメリアたちの事ではなくメリアたちが居た宿屋と隣接していた訓練場のことだ。
「大丈夫、流石に二人も本気ではやらないと思うからな」
「うむ、二人が本気を出したら訓練場どころか、王都も危ういでござるよ」
「ははは」
神妙そうに言う輝夜にアレスはただただ乾いた笑みを浮かべるのだった。
しばらく活気に溢れる大通りを歩くと三階建ての建物、王都冒険者ギルドが見えた。
ギルドに入るとまだ朝方なので多く冒険者が居り依頼板に群がっているのが目に入った。
俺はそちらには向かわず受付の方に向かった。
「今日中に終わる依頼を斡旋してくれませんか?」
俺はミスリルの冒険者カードを見せて受付嬢に向かってそう言った。
冒険者が依頼を受ける方法は二つある、一つは依頼板に貼ってある依頼書を受付に持っていくこと、二つ目は銀鉄級以上の冒険者しか利用出来ないがギルド自らに依頼を斡旋をお願いすることだ。
だが二つ目の方法を利用する者は少ない、何故ならギルドから斡旋されるよりも依頼板にある依頼の方が基本的に報酬が高く比較的冒険者が得意な魔物の討伐依頼が多いからだ。
俺自身というか《雷光》はアースドラゴンを討伐したことで莫大なお金を持っているので報酬は特に気にしていないし今日は輝夜と一緒に依頼を受けることが大事なのでこの方法を選んだ。
受付嬢は俺の顔を見てギョ!とした表情を浮かべたが輝夜がターズで手に入れた銀色の冒険者カードを見せてこの人と一緒に依頼を受けたい旨を伝えたら、
「か、かしこました!、すぐにお持ちします!」
と言って奥に引っ込んだ。
輝夜と今日の食べた朝ご飯の話をしていると受付嬢が戻って来た。
「あ、あの!、これがギルドとしては優先的に受けていただきたい依頼なのですが…」
俺は受付嬢が持ってきた依頼書を幾つか見たがその内容は端的に言うと王都に住む人達の雑用依頼という感じだ。
普通の冒険者なら渋面を作るところだが俺としては別に問題は無い。
「アレス、拙者はこれが良いでござる」
輝夜は一枚の依頼書を手に取った。
「これは"王都治療院”の壊れた外壁修理の手伝いか、構わないが何でこれに?」
何故かあたふたとしている受付嬢を横目に輝夜に聞いた。
「この"くえすと”は他のものに比べて報酬が少ないでござる、それが少し気になるのでござる」
輝夜の言う通り、この依頼は他の雑用依頼に比べて報酬が二割程少なくおそらくだがギルドの依頼と認められる規定額ギリギリなのだろう。
「確かに少し気になるな、この依頼を二人で受けます」
「ええ!?、受けてくれるんですか!?」
受付嬢は大声を上げて驚いた、そのせいで正面から大音量を食らいアレスと輝夜は顔を顰めた。
「し、失礼しました!、まさかベテラン冒険者がこの依頼を受けてくれるとは思わず、すぐに受注承認を出します」
受付嬢は大声が聞こえたので思わず視線を向けてくるギルド内の冒険者たちに身を縮ませつつ再び奥に引っ込んだ。
◆◆◆◆
王都アドモスは幅広い領地も持つアドモス王国の中心都市であり王城を中心に東西南北に地区が分かれている。
そして依頼書にあった王都治療院は東区にあった。
「えっと、ここの路地を曲がって左か、かなり入り組んでるな」
俺は依頼書に書いてある案内地図を見て呟いた。
「しかし王都の街並み自体は理路整然としているでござるよ、ここはおそらく急造で造られた場所なのでござろう」
輝夜が建物の壁や路地を見ながら言った。
「へー、輝夜はそんなこと分かるのか?」
「これでも拙者は大和の武家の娘でござる、ずっと剣を振っていた訳ではないでござるよ」
そんな会話を交わしながら俺たちは路地を進み地図通りに歩くと二階建ての大きな建物とその前で言い争う男女の二人が目に入った。
「だから!、税金は払ったはずです!、言い掛かりは止めてください!」
「しかしですね、実際納められていないのですよ」
歩いて近づくと女性は毅然と言い対照的に男はニヤニヤと笑みを浮かべて言うのが聞こえてきた。
「先週納めたはずです!、もう一度確認してください!」
「もう無理ですよ、納金期限は今日なのですから」
男はニヤニヤとした笑みを携えたまま言葉を続けた。
「しかし納める方法はありますよ…「すいません!」ん?」
男が言葉を続ける前に俺が声を掛けて遮った。
「何だ貴様ら…」
「ここは"王都治療院”でしょうか?」
男を無視して俺は女性に話し掛けた。
「えぇ、そうですがあなた方は…」
「拙者たちは冒険者でござるよ!、この依頼を受けに参ったのでござる」
俺は依頼書を女性に見せた。
「あぁ、私が書いた依頼書、この依頼を受けてくださるのですか?」
女性が不安げに俺と輝夜を見た。
「ええ、ギルドではもう受注承認は貰いましたよ」
「ええい!、貴様ら私を無視するな!」
男が地団駄を踏み吠えた。
「ん?、誰だ、お前は?」
俺は今初めて見たという意味を込めて言った。
「な!?、貴様!「用はあるのでござるか」ひっ!」
俺にバカにされた怒りで拳を振り上げた男に輝夜が殺気を込めて睨んだ。
態度には出ていないが密かにアレスとの二人きりで依頼を受けることを楽しみにしていた輝夜はそれを邪魔する目の前の男に思わず殺気をぶつけてしまった。
「用が無いのなら去るでござる!、去ね下郎!」
輝夜は烈火の如く吠えて男を追い払った。
「んん、失礼仕ったでござる」
輝夜は小さく頭を下げて女性に謝った。
「い、いえ、朝からしつこかったので助かりましたが、あの男は王都の役人ですよ、喧嘩を売って大丈夫なのですか?」
(あの男、役人だったのか、王女様が帰ってきたら少し言ってみるか)
「大丈夫ですよ、俺たちは結構強いので、それよりも依頼を実施したのですけど案内を頼めますか?」
「すぐに案内します!、私に着いて来てください!」
女性に導かれて俺と輝夜は"王都治療院”の建物に入るのだった。
7/30追記 輝夜が怒った描写に文章追加。




