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六十四話 王女様の提案

「"光よ・我に集い・羽ばたけ・光の鳥(ライトバード)”!」

メリアの詠唱が響き周囲に浮かんでいた幾つもの光球が姿を変えて光の鳥に変わり突撃した。


「"風よ・我に集い・吹き荒れろ・天旋風(てんせんぷう)”!」

緑髪王女様が杖を掲げて詠唱すると王女様の前に風が集い荒れ狂う風の盾となりメリアの魔法を粉微塵にして防いだ。


それと同時にメリアは地面を走り接近し銀光剣を振り下ろした。


「甘いですわ!」

王女様がそう言い放った瞬間王女様の体を風が吹き上げて上に上がる形でメリアの斬撃を避けた。


「空を飛べるのはエレンだけじゃないのよ!」

メリアは光と銀の翼を顕現させてエレンを追い飛び上がった。


「はぁぁ」

俺は上空で激しくぶつかるメリアたちを見ながら溜息を吐いた。


「溜息など吐いてどうしたのでござるか?」

大和から持ってきた黒色のエプロン姿で鍋を持ち料理をしていた輝夜が俺を心配したのか声を掛けてきた。

「輝夜か、いやまさか王女様と一緒に行動することになるとは思ってなかったからな」


「それに関しては拙者も驚いてるでござるよ」


俺たち《雷光》とアドモス王国第二王女エレネシア殿下が一緒に行動することになったのは昨日の朝ターズの領主の館に向かったところまで遡る。


◆◆◆◆


「お、美味しいな、このサンドイッチ」

俺は手に取ったサンドイッチを食べて思わずそんな言葉が出た。


「本当でござるな、このパンの方に何かあるでござるな、具材の味に負けてないでござる」

「本当だわ、流石は貴族が食べる朝食ね、良い料理人を雇ってるわ」

「うん、美味しい」

輝夜はサンドイッチを観察するように食しメリアは元貴族の癖なのかパクパクと少しずつ食べスカハはお腹が空いていたのか一瞬で食べた。


「気に入って頂けて恐縮でございます」

部屋の隅に居るメイドさんが頭を下げて言った。


「これは貴殿が作ったのでござるか?」

「いえ、それは主人…料理長が作ったものでございます」

「貴殿の良人でござるか、とても美味しかったと伝えて欲しいでござるよ」

輝夜は満面の笑みを浮かべてメイドさんに言った。

「かしこました」

メイドさんは輝夜の言葉に嬉しそうに微笑んだ。


現在、王国騎士に連れられてこのターズ領主の館の応接室に通されており王女様が来るのを待っているのだ。

会いたいならさっさと会うべきだと思うがメリア曰く王女様にも礼儀作法の問題でいろいろあるそうだ。


サンドイッチを食べ終えて食後の紅茶を飲んでいると応接室の扉が開き人が入ってきた。


「改めてお久しぶりですね、アレス様」

「そうだな、大体一月くらいか?」

俺たちに向かい合う形でソファーに座った緑髪王女様に俺は言った。


「メリアもスカハも久しぶりです」

「久しぶりって程じゃないけど、こんなところで会うと思わなかったわよ」

「久しぶりエレネシア」

メリアは王女様のことを驚き目で見てスカハは軽く王女様に頭を下げて先程追加で出されたサンドイッチを食べた。


「それで貴女は…」

王女様は俺の右隣に座る輝夜を見て言った。


「初めましてござる王女殿、拙者は大和の国将軍義敏の家臣天月正信の娘、天月輝夜と申すでござる」

輝夜は凛とした口調で言い手を差し出し握手を求めた。


「何と!、噂に聞く大和の国出身の"サムライ”とは驚きましたわ、私はアドモス王国第二王女エレネシア・スレイ・フォン・ファウルーナ・アドモスですわ」

王女様はわずかに身を乗り出し輝夜の手を取り微笑みを浮かべて自己紹介をした。


「よろしくでござるエレネシア殿」

輝夜もそんな王女様につられて微笑んだ。


二人の自己紹介が終わったところで俺は本題に入ることにした。


「王女様は何故あの建物に居たのですか?」

俺と輝夜が戦っていたのは正面入り口、つまり王女様があの建物に侵入するにはメリアたちと同じように裏から入ったという事だ、俺はコソコソと侵入した理由を知りたかった。


「順を追って説明しますわ、まず私は一月程前に陛下に何故アースドラゴンが目覚めたのか、その調査を(わたくし)に命じられましたわ」

そこで王女様は一度言葉を止めてメイドさんが置いた紅茶が入ったカップを手に取り紅茶を飲んだ。


「調査の過程でアースドラゴンは王都北の森に封印されていたのですが、その封印が何者かに壊されたことが分かりましたの、そして封印を壊したのがどうやら《暗闇の空》という組織だと突き止めたのです」

「それでエレンはターズまで来たのかしら?」

俺の左隣に座るメリアが聞いた。


「ええ、元々《暗闇の空》は王国の裏に巣食う組織でかの組織の本拠地があるのは北の要塞都市カリスというのは有名な話なのですが…」

王女様はここで言葉を濁した。


「王女様、何かあるなら話して欲しい、アースドラゴン関連なら俺たちだって無関係じゃないし既に俺たちは首を突っ込んでるわけだしな」

俺は悩む王女様にそう諭した。


「ふふふ、ありがとうございます、実は《暗闇の空》はどうやらターズ周辺の村々から子供や亜人族を誘拐していると情報があって来たのです、何故かメリアたちが先に居たのには驚きましたが、ともあれここで会ったのも何かの縁、一つアレス様たち《雷光》に依頼があります」

王女様は佇まいを正して僅かに微笑んだ。

何故か俺にはその笑顔から嫌な予感を感じた。


「《雷光》のメンバーに私を加えて一緒にカリスまで行き《暗闇の空》を壊滅させましょう!」

高らかな王女様の宣言と共に俺は嫌な予感が当たるのを確信した。


◆◆◆◆


「アレス!、魔物を狩って来た、解体手伝って」

数日前の出来事を思い出していた俺はそんなスカハの一言で現実に引き戻された。


見ると森から出てきたスカハが自分よりも遥かに大きい猪の魔物を抱えていた。

片手に持つ金色の槍から滴る血から察するに急所を一撃で穿き倒したようだ。


「分かった、そこに置いてくれ」

俺はスカハに指示して魔物を置かせた。


「これは二級危険種の大巨猪(ヒュージボア)だよな、もう王都に近いのにこんな魔物が居たのか」

俺は解体用のナイフを使い腹を開きながら言った。

開いた箇所から血がどっと溢れてきたが下に氷の桶が現れて溢れ出る血を受け止めた。


「うん、でも森の奥に居たし多分こいつしか居ないと思う」

両手から冷気を吹き出し血を受け止める桶を魔法で作るスカハが言った。


「そうか、なら今日はご馳走かな、輝夜にこいつの丸焼きを頼むか」

俺はあらかた血が抜けたのを確認してから縦に魔物を切り裂き新たにスカハが作った氷の桶に切り取った臓物や魔核を置いた。


普通は一時間以上掛かる魔物の解体もスカハの補助があればものの数十分で終わる。


「アレス、手出して、、フゥー」

魔物の血に汚れた俺の両手もスカハの氷の魔力を含んだ吐息で凍てつき瞬く間に凍った血が剥がれ落ちた。

そして冷たさを俺に感じないのはスカハの実力ゆえだ。


「ありがとうスカハ、魔力操作力前より上がったか?」

「よく分かった、魔槍の魔力を完全に引き出すには私の魔力を更に研ぎ澄ます必要があるから日々鍛錬してる」

スカハもスカハなりに二本の魔槍を使いこなそうとしているようだ。


「まだまだ使いこなせる領域じゃないけどこの二本の槍の名前は分かった"アスール”と"カラドボルグ”」

スカハは背中の鞘に差す金色と赤色の槍に触れて言った。


「それは神魔大戦の英雄"双槍”のアジェクが使っていた槍と同じ名ですわね」

「そうなのか?」

俺は模擬戦が終わったのか、全身に翡翠色の魔力を纏って空から降りてくる王女様の隣で銀翼を羽ばたかせて降りるメリアに聞いた。。

「ええ、エレンが言ったことは本当よ、神魔大戦に出てくる流浪の英雄、アジェク、詳しいことは知らないけどアスールとカラドボルグという名の魔槍を操った二槍使いらしいわ」


「何でそんな代物が迷宮で手に入ったんだ?」

アレスは思わずと言った風に呟くがそれに答えられる者は居なかった。

「迷宮は何で現れるのか?、宝箱はどういう仕組みなのかとか一切分かって無いし考えるだけ無駄だと思うけど?」

メリアが地面に降り立ち銀翼を消しながら言った。


「メリアの言う通りか、その槍は今やスカハのものだしな」

「んん、これは私の槍」

「分かってるよ、別にとったりしないから」

槍を守るように背中に手を回すスカハに俺は苦笑した。


「アレスー!、メリアー!、スカハー!、王女殿ー!、夕餉の支度を手伝って欲しいでござるよー!」

「今行くよ!」

俺たちは輝夜の料理を作るのを手伝い焚き火を囲みながら食事をして要塞都市カリスに向かって進むのだった。

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