四十話 大和のサムライ
「街は天使が降臨して魔物を倒して船を救ったって噂で持ち切りか」
俺は通りを歩きながら一人呟いた。
現在俺たち《雷光》は別れて行動していた。
メリアは宿の一室で光魔法の思考実験を続けると言って一緒じゃない、スカハはギルドで依頼を受けるらしい、そして俺は街で天使の噂を集めていたのだ。
その中には天使が降臨したと噂と共に冒険者が空を飛んで船を救ったというものもあった。
(まぁ、事実なんだけどな)
「天使の噂のお陰で《雷光》の活躍は一部の人しか知らないのは好都合だったな、メルクさんが箝口令をしいた可能性もあるか」
俺はあまりメリアを外に出さないようにしようと思っていたがこの噂の広がり方だと銀色の髪を隠して見えないようにすれば大丈夫そうだ。
「ならギルドに行ってスカハと合流だな」
「スリでござるー!」
突如そんな声が通りに響いた。
俺が反射的に声がした方を向くとこっちに近づくみすぼらしい格好の男とそれを追いかける人が見えた。
「退けガキ!」
俺に向かってそう言ってきた。
(泥棒か?)
俺は横に一歩ズレて片足を出して男を転ばせ体勢を崩させ片腕を掴み捻りあげた。
「痛ててて!」
俺は男の手から握っていた革袋を取った。
「「「おーーー」」」
アレスの手際の良さに通りにいた人達は拍手を送った。
「おー、中々の身のこなしでこざるな」
「あんたのか、これ」
俺は革袋を声がした方に投げた。
「おっと、感謝するでこざるよ」
「っ!?」
振り向いて俺は驚いた、そこに居たのはラース大陸では珍しい長い黒髪を後ろに結び腰に白い鞘の刀を差し"袴”を着た美少女だった。
("袴”はイザナギ大陸にある国の衣服だ、この少女は…)
「拙者の顔に何かついているでこざるか?」
「いや、違うんだ、その袴、君は大和の国出身なのか?」
俺は少女の衣服を指さして言った。
「よく分かったでこざるな、いかにも拙者は大和将軍義敏様の家臣が一人|天月正信の娘、天月輝夜でこざる、貴殿は?」
「俺はアレス、アレス・ババムートだ」
俺は冒険者ギルドに用事があると言った輝夜と一緒に通りを歩いていた。
「なるほど、輝夜は貿易船の護衛で大和の国からターズに来てたのか」
「そうでござるよ、いつも護衛をしていた兄上が怪我をしたらしく拙者はその代わりとして来たのでこざるが、江戸と違う街並みに驚いていたところに財布をスられたのでこざるよ」
「それは災難だったな」
げんなりとして言う輝夜に俺は思わず苦笑した。
「そう言えばアレス殿は何やら我が国について興味がある様子だったでこざるが…」
「ああ、そうなんだ、コレを直そうと思ってな」
俺は腰に差す月夜を鞘から刀身を少し出して言った。
「それは…刀でこざるよな?、銘は?」
「月夜だ」
「ーーー」
輝夜は驚き顔のまま固まっていた。
「どうした?」
俺はその様子に心配になり声をかけた。
「な、何故アレス殿がその刀を!?、それは亡き祖父がある剣士の為に打った刀でごさるよ!?」
輝夜は俺の胸ぐらを掴んで言った。
「こ、これは俺が父さんに貰った刀だ」
俺は輝夜の腕を掴んで反論した。
「父?、アレス殿はまさかガラン様の息子殿か!?」
「何故お前が父さんの名を!?」
俺は輝夜の口から父さんの名前が出たことに驚いた。
「なんという奇縁、父上と母上が聞いたら喜ぶでこざる!」
「おい、なんで輝夜が父さんの名前を知ってるんだ?」
俺は何故か喜んでいる輝夜に聞いた。
「貴殿の父上ガラン様は大和の国を救った英雄でこざるよ」
衝撃の事実に俺はしばし硬直するのだった。
今から約三十年程前に大和の国で起こった将軍の跡目争いとそれに付け込んだ他国の謀略、それを阻止したのが刀が欲しくて訪れていた俺の父ガランと母のミリアだったそうだ。それで今でも父さんは英雄扱いを受けているそうだ。
(父さんは一体何をしたんだ?)
どんな事をして英雄扱いを受けたかは気になったが輝夜も産まれる前の事なので詳しいことは知らないらしい。
「そういうことなら拙者が大和の国を案内するでこざるよ」
「いいのか?、俺には仲間があと二人いるけど」
「構わないでござるよ、ガラン様の息子殿のアレス殿の仲間ならば父上と母上も大歓迎でござる」
「そうか、ありがとう、あ、そうそう、あれが冒険者ギルドだぞ」
俺は通りの一角を占める四階建ての建物を指さした。
「あれでこざるか、ならば"くえすと”とやらの報酬を貰わねば」
そう言って俺と輝夜はギルド内に入ろうとした。
「お前ら!、許さない!」
俺は烈火の如く怒るスカハを見て再び硬直した。
スカハが前にいる十数人の男たちの一人を拳で殴ろうとしていたのだ。
瞬間風が吹き抜けた。
「理由存ぜぬが、止めるでござる」
一瞬で輝夜がスカハの前に移動して手の平で拳を受けて止めていたのだ。
(早い!、あれは魔力体術の"縮地”か?、凄いな)
「誰か知らないけど退いて、私はコイツらを許さない!」
「スカハ!」
どうやったらあそこまでスカハを怒らせられるのかは知らないがとりあえず俺は止めることにした。
「アレス」
スカハは俺を見た瞬間纏っていた怒気が収まった。
「なんだお前ら"角あり”の仲間か?」
角あり…それは角を持つ亜人族に対する蔑称だ。
今度はアレスが怒る番だった。
「てめぇ、俺の恋人をなんと言った?」
自分でも驚く程低い声が出た。
「ぐわぁ!?」
俺は男の首を掴んで持ち上げた。周りから見ても体格差のあるアレスが男を持ち上げるのは異様な光景に見えた。
「てめぇ、リーダーを離しやがれ!」
「分かったよ」
アレスはリーダーの男を叫んだ男に投げた。
「うぉ!?」
叫んだ男はリーダーの下敷きになった。
「何があったスカハ?」
俺は振り向きちょっと呆然としている輝夜を横目に聞いた。
「依頼を選んでる時にあいつらが絡んできた、無視してたらあいつら父上と母上を馬鹿にした、許さない」
スカハが怒るのは初めて見たがスカハが怒ると周りの温度が一段下がるような気がする。
「同感だ、あいつら全員ぶちのめす」
「喧嘩でこざるか?、拙者も混ぜるでこざる」
「貴方誰?」
「これは失敬、拙者は天月輝夜、アレス殿とは大通りで知り合ったのでこざる」
「うん、貴方強い、私はスカハ、スカハ・レヴィアタンよろしく輝夜」
スカハは輝夜の全身を一往復して見た後、微笑を零した。
「おい、お前ら俺たちと決闘しろ、俺たちが賭けるのは王金貨一枚だ」
俺はアイテムボックスから王金貨を一枚だした。
「へへっ、本気で言ってんだな、お前?」
リーダーの男は立ち上がりニヤニヤとしながら言った。
「その代わりお前らは何も賭けなくていい」
「「!!?」」
周りにいる人たちが驚くのを感じた。
「なんだと?、俺たち《海風旅団》を舐めてんのか?」
「よく分かったな、その通りだ」
「!!!」
俺の言葉に男が苛立ったのを感じた。
(コイツらは徹底的にぶちのめす)
俺は既に心に決めていた。
「おい、お前!、魔法師を呼んでこい!、このガキども徹底的にぶちのめすぞ」
リーダーの男はキレて大声でそう指示するのだった。
「俺は呆れたぞ、この街有数の冒険者クランを敵に回すなんてな」
メルクさんが呆れるように言った。
「俺の恋人を"角あり”なんて呼んだんだぞ、怒らない方がどうかしてる」
俺たちは現在練習場の一角で《海風旅団》が集まるのを待っていた。ちなみにクランとはいくつかの冒険者パーティーが集まった集団を表す言葉だ。
「はぁ、あんたはいいのか?」
メルクさんは諦めて特に緊張もせずに佇む輝夜を聞いた。
「喧嘩は上等でござるよ、何より面白そうでござるからな」
輝夜はそう言って笑った。
「待たせたな!、ガキ共」
しばらくすると練習場に四十人程の冒険者が入ってきた。
「双方、出来るだけ死者は出すなよ、決闘開始!」
メルクさんの号令にしたがって俺とスカハ、輝夜は駆け出すのだった。




