三十五話 槍の腕前
「なぁ、メリアさっきのはなんだったんだ?」
俺はスカハと近衛騎士団団長が素早く動き回り時折模擬槍と模擬剣がぶつかり合う音を聞き流しながら隣に立つメリアに気になったことを聞いた。
「さっき?、ああ、あれのこと?、あれは光装ルナリアよ」
メリアは身につけている額当てを指さして言った。
「え、その額当ての力なのか?」
「うん、前に宝物庫に行った時にこの額当てから銀光剣と同じような魔力を感じて不思議に思って王都大図書館に行ってラミエル様について調べたのよ、そして分かったのがどうやらラミエル様の持ってる三つの武器ね」
「三つということは一つは銀光剣クレセント、二つ目がさっきの光装ルナリアで、後一つはなんだ?」
俺は右手の指を一本ずつたてながら言った。
「三つ目は光盾ムーンよ、どんな力があるかは分からないけどね」
「分からない?、それじゃあ何で鎧が召喚出来るって分かったんだ?」
「それは…声が聞こえたの」
メリアが俺の耳に口を近づけて小声で言った。
「声?」
「額当てを着けた時に女の人の声で"光で呼んで、光装ルナリアを”って聞こえて何となく召喚の仕方が分かったのよ、まるで元から召喚の仕方を知ってたみたいにね」
「有り得る話だ、メリアはラミエルの転生体、直感的に分かったのかもしれない」
俺は不安そうに言うメリアの頭を撫でた。
「ありがとうアレス、もう大丈夫だから」
メリアは普段は色白な頬をやや朱に染めて言った。
俺はそんなメリアを見て満足しながら戦うスカハに視線を戻した。
◆◆◆◆
(彼は近衛騎士団長に相応しい実力がある、生きている年が違うし実践経験も上、普通に考えれば五歳から槍を握ってきたとはいえ十数年分の経験しかない私は彼には勝てない)
スカハは模擬槍で騎士団長レムスの剣を打ち払いながら冷静に思考した。
現実問題今のスカハの槍は彼には届いてない。
「けど私が負ける理由にはならない」
スカハは槍の握り方を少し変えより力を乗せやすくなる握り方に変え十字に払った。
「!!」
レムスも十字攻撃に対応するように模擬剣で防いだが力を上手く逃がしきれず後方に下がらされた。
「その歳でその実力、アースドラゴンを討伐したは疑いようのない事実だな」
レムスは賞賛するように言った。
「その賞賛は素直に受け取る、でも勝つのは私」
スカハは今まで槍の払い攻撃で対応してきたが突き主体の構えになった。
(今まで防戦一方だったのは私の実力を測っていたということか、彼女には我が国の近衛騎士では敵わないな)
レムスは内心スカハの実力は王国近衛騎士より上だと直感的に分かった。
「ふっ!」
スカハは短く呼吸し地面を滑るように移動して槍で攻撃した。
「ーーー!?、がは!?」
レムスもスカハに接近し模擬剣で槍を打ち払いカウンターをキメようとした、が視界に映る槍の先が曲がったように見えたのだ。
レムスは咄嗟に曲がった方向に剣の腹を向けたが衝撃が来たのは元々の槍が進んでいた軌道だった。
「幻槍流 流水」
スカハは槍を両手で巧みに操り連続でレムスが着ている騎士鎧の防御の隙間を突くように攻撃した。
「くっ、はぁ!」
レムスも受け続けるのを嫌い強引に剣でスカハに攻撃しようとした。
(それを待ってた)
スカハは実践経験で劣る相手に勝つために手首の捻りを利用して相手に槍が曲がったように見せる"流水”を使い連続で攻撃し相手の焦りを誘ったのだ。
スカハは攻撃を止め鼻先ギリギリで剣を躱した。
(しまった!?、誘われた!?)
ここでレムスはスカハに一連の行動を誘われたのだと理解した。
「一ノ槍 螺穿」
スカハは槍を限界まで後ろに戻し顔に向かって攻撃した。
だがそこは歴戦の近衛騎士団団長上手く上体を逸らしスカハの槍の刺突を避けたと同時に剣を下段から振りスカハを攻撃しようとした。
「ーー」
スカハは槍の刃がない方の先を地面に付けて体を半回転させて攻撃を避けて地面を蹴り後方に下がった。
「恐ろしい槍使いだ!」
レムスはすぐさま体勢立て直しスカハが着地する瞬間の隙をつきスカハの腕を狙い剣の突きを放った。
「ん!」
スカハは槍の刺突を繰り出し模擬剣の先とぶつけ止めた。前にアレスとの模擬戦した時にも使った技だ。
「なぁ!?」
レムスが驚いた一瞬の隙をつきスカハは剣をはね上げ鎧に思いっきり突きを食らわせた。
「ぐっ!」
いくら刃がないとはいえ衝撃は伝わる、スカハ渾身の突きを食らったレムスはあまりの威力に思わず片膝をついた。
「そこまで!、勝者冒険者スカハ!」
決着の呼び声がかかった。
◆◆◆◆
流石近衛騎士団団長といったところでスカハも始めは中々に苦戦していたが一度団長の行動を誘った時点でスカハが戦いの主導権を握っていた。
(中々に見応えのある模擬戦だったな、団長の扱う王剣流は正道の剣術だからスカハの幻槍流の技に上手く乗せられた感じだな)
俺は改めてスカハの槍の腕に感心するのだった。
「見応えのある試合だったぞ、我が国の近衛騎士団団長を破るとはスカハ殿は素晴らしい槍の腕前だ」
「感謝致します」
王様のお褒めの言葉に小さく頭を下げてから俺とメリアがいるところに戻ってきた。
「アレスどうだった?」
「流石スカハだなかっこよかったぞ」
俺はスカハの頭を撫でた。
「♪」
スカハはどうやら満足したようだ。
「アースドラゴン討伐報酬授与式はこれにて終わりとする」
王様の号令がかかった後興奮冷めやらぬまま貴族たちは王城を後にした。
謁見の場での授与式が終わった後は迎えに来てくれた馬車にもう一度乗り宿まで帰ってきた。
食堂で昼食を食べた後部屋に戻ってきた。
「よし、二人共お疲れ様」
俺は部屋に入って早々ベッドに突っ伏したメリアとベッドに座るスカハを見て言った。
「やっぱり貴族共の前で笑顔の仮面を被るのは疲れるわ!」
「確かに堅苦しいのは苦手だけど槍を振れたのから満足」
スカハは兎も角メリアは疲れたようだ、俺自身も多くの貴族の視線に晒されて精神的に疲れた。
「メリア、寝るんだったら着替えてからにしろよな、、さてと大和の国に行く旅の経路を確定させないと」
俺はメリアに釘を刺してから自分のベッドに座りアイテムボックスから簡易的なアドモス王国の地図を出した。
「どうやって行く予定?」
暇してたスカハが横から覗き込んできた。
「今考えてるのは貿易都市ターズから船で海を渡ろうと思ってる」
貿易都市ターズとはアドモス王国の南にあるファリスと並ぶ大都市でアドモス王国の海の玄関口と言っていいほど栄えている都市だ。
「それは定期便?」
「いや、アドモス王国とはイザナギ大陸には正式な国交はないから貿易船にお金を払って乗せて貰おうと思ってる、注意点としてはイザナギ大陸にある国は大和の国だけじゃないから間違って違う船に乗らないように気をつけないといけないくらいだ」
「海……楽しみ」
スカハの気持ちは分かる、俺も父さんから聞いた冒険譚には興奮したものだ。
「アレスのお父さんは大和に行ったことがある?」
「多分行ったことあると思うぞ大和の国についていろいろ教えてくれたのは父さんだからな」
毎日の鍛錬の合間に刀について学んだことを思い出した。
「絶対に直してやるからな」
俺は鞘から折れた月夜を抜き再び強く決意するのだった。
「ーー」
そんなアレスをスカハは愛おしそうに見つめるのだった。




