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後半戦への決意

 ガリバー大阪との交渉は、アガーラ側から突っぱねるような形で収束した。当事者だった剣崎と竹内は、気持ち新たに練習にはげんだ。

 今回の騒ぎは、チームにはカンフル剤的な効果をもたらした。というのも、今石監督が、

「結果を残せば誰にでもオファーがくる。あと22試合、『俺はこいつらよりもいいオファーもらってやるっ!』ぐらいの気持ちでやってやれっ」と、選手たちを煽ったのである。

 特に目の色が変わったのは、出番の限られたDFの選手たちだった。

 木曜日、JFLのさぬきFCとの練習試合。この日センターバックを組んだ平野と堀井は、試合勘不足を感じない動きを見せたし、後半出場した大森と園川は攻撃と守備で空中戦の強さを披露。左サイドバックでフル出場した根木は、なれないポジションながら、村主を彷彿とさせる安定感を見せた。

「こりゃ思った以上に選手がぎらついてんな…はじめからそうしろって言いたいとこだが、まあチームに活気が出るならいっか」

 今石監督は、苦笑しながらつぶやいた。




 日曜日の桃源郷運動公園陸上競技場は、6月とは思えない、心地よい天候に恵まれた。ホームチームのゴール裏には、新作の段幕がずらりと並んだ。

ダンサーの金融業を彷彿とさせる「TENショップ 竹内」、「村主は章枝より文博」「栗栖ティアーノ将人」など有名人とのパロディー、そのほか「電光石火 桐嶋和也」「蹂躙セヨ!西谷敦志」など個人名の横断幕がちらほら。

 だが一際目を引くのは一色の旗だった。黒が1本、赤が2本あり、黒は剣崎、赤は友成と天野の旗だ。

 赤の旗には黒の楷書体が書かれていて、友成のは四隅に一文字ずつ「国」「士」「無」「双」、中央に縦に「友成哲也」とプリントされている。対して天野のはど真ん中に「壹」とでかく書かれ、そのまわりに上から時計回りに天、野、大、輔というデザインだ。

 そして剣崎のは、左上隅に剣、右下隅に龍と銀で文字が書かれ、斜めに龍の絵が描かれているという奇抜な作品。「まるでスカジャンですね」という声も出た。

 因みに剣崎が中央、友成と天野が両脇に配置され、さらにクラブのエンブレムが入った緑色の旗が配置されているのがいつものゴール裏である。

「さあて皆さん、今日でJ2の前半戦が終わりますがあ…」

 アガーラサポーターのコールリーダー・ケンジは、真剣な面持ちで言いはじめた。

「正直、ことしのアガーラの力は予想外ですっ!今の調子なら、昇格プレーオフどころか、自動昇格も夢ではないかと思いますっ!」

 そこで周りが盛り上がる。ただ、ケンジはそれを制して続ける。

「ですがっ!間違ってはいけないのは、これはまだまだビギナーズラックであり、仮に今年J1に昇格したところで、返り討ちに絶対にあいます。我々サポーターは、チームを勝たせるために存在しますが、チームを自惚れさせない使命もあるのですっ!」

 一つ息を吐いて、ケンジは叫んだ。

「昇格するということは、俺達が思う以上に大変だし、後半戦からは相手も万全な対策を敷いてきますっ。負け試合を沢山見るハメになるかもしれないし、逆に快進撃が続くかも知れませんっ!ですが、俺達は変わることなく、選手を鼓舞し、叱咤し、アガーラ和歌山のために声を出しましょうっ!!!」

 ケンジの演説に喝采が起こった。



 同じような事を、ロッカールームで今石監督も言っていた。

「昇格争いってのは、『昇格』を意識したら負ける。もっと言えば、先に意識したほうが負けるんだ。やる気を削ぐようで悪いが、今のうちにはその力はない。できたとしてもJ1では通じない。今はこの空気を楽しめるようになれっ!来年J2で優勝して昇格するためになっ!」

 おうっ!!!


 今石監督のゲキに、選手たちは力強く頷いた。








 この日は前半ラストの試合ということで、メインスタンドには、スポンサー関係者が足を運んでいた。

 選手のユニフォームにプリントされているスポンサーロゴをここで一通り説明しておく。

 胸は去年から契約している吉宗ホールディングスの吉宗銀行、背中は衿元に南紀飲料、腰に勝浦水産、右肩に紀北交通、パンツにインターネットサービス会社、Keyネットワークがプリントされている。

 そうしたユニフォームにロゴがプリントされた企業だけでなく、県の商工会議所のメンバーが結構来ていた。中でも胸スポンサーの吉宗銀行から次期頭取(いわゆる次期社長)の木原常務が来ていることが、竹下GMはじめ和歌山関係者を戦々恐々とさせていた。

「GM〜。木原さんが来たってことは、来年の契約の判断材料に…」

「うーん、その可能性はあるなあ。2年契約の2年目だからねえ…」

 広報の三好が不安そうな表情を浮かべながら耳打ちすると、社長業を兼業する竹下GMはそれ以上に表情を暗くした。今シーズン、入場者収入がアテにならないアガーラがなんとかシーズンを戦えているのは、去年から吉宗銀行との間に2年2億円という、地方クラブとしては破格の契約が結ばれたからだ。今年はここまで好成績を残しているとはいえ、去年の失態を拭えたわけではない。

 来年の契約を取り付けるなら、恐らく今日の試合が判断材料になるだろうと、竹下GMはヒヤヒヤしながら見ていた。

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