オファーへの返答
「行きたいわけないだろ。俺はここで死ぬまでプレーするつもりっすよ!」
「…興味、なくはないですよ。オファーをもらえるのはうれしいんで。ただ今は目の前の試合でいっぱいいっぱいなんで、移籍する気にはなりません」
翌日もつめかけたマスコミの取材に応じた剣崎と竹内は、対照的な口調で移籍の意志がないことを言いきった。
なおも聞こうとした記者に対して剣崎が「これ以上言うことはないっすよっ!」と強引に切り上げた。
逃げ込むようにクラブハウスに入った二人に、栗栖は冷やかすように話し掛けた。
「大変だねえお二人さん。ずいぶんと記者にモテモテだなあ」
「他人事見たいに言わないでくれ。正直集中できないよ」
竹内が憮然とした表情をすると、栗栖も同調するようにため息をつく。
「まあ…確かに練習中もウロウロされたら嫌だね」
「それぐらいでグダグダ言うな。プロなら仕方ねえだろ」
そのやり取りを見ていた友成は、叱るように言う。
「しかし俊也はともかく、お前みたいなバカにオファーが来るとはな…」
「んだとぉっ?俺は得点王だぜっ!来たって不思議じゃねえだろ」
「お前のゴールは100%他力本願だろ。ドリブルもまともに出来ねえのに偉そうに言うな」
「俺はどんなパスでもゴール出来んだよっ!オファー来てねえくせに生意気言ってんじゃねえよ」
そしていつもの喧嘩。変わらないやり取りに、栗栖と竹内は笑った。
水曜日。ガリバー大阪の強化部長がクラブハウスを訪れ、竹下GMが応対した。練習場の選手たちは、どこか気が気ではなく、今石監督は自主練を指示。竹下GMからの報告を待つことにした。
「GM。我々はおたくの選手を高く評価しています。二人合わせて一億以上の移籍金を考えております。ぜひ、剣崎、竹内両選手を頂けませんか」
そう言って頭を下げる強化部長に対し、竹下は申し訳なさそうに口を開いた。
「…ガリバーさんが二人を評価していることは理解しました。しかし、二人には移籍の意志はありませんし、うちの戦術上これ以上FWを出すわけにもいかないんです。すみませんが、お引き取り下さい」
「では、選手には複数年契約を用意し、移籍金をさらに…」
「お金の問題ではないんです。私たちには二人を手放すつもりはありません」
「し、しかし、選手の今後を考えれば、このままここにいるより、ビッグクラブに移籍したほうが…」
その強化部長の一言に、竹下は眉をひそめた。
「…とにかく、お帰り下さい。これ以上話すことはありません」
そう言って、竹下は席を立った。
「一度、彼らの口からはっきりと言ってもらいましょう。そうすれば諦めるはずだ」
しかし翌日。ガリバー大阪側も強気に出た。なんと社長自ら足を運んできた。さすがに竹下GMも驚いた。
「社長の金山です。今日は我々の誠意を感じてもらいたく、来させていただきました」
「これはこれは。ご足労おかけしました」
「今日はよい返事を頂けると、確信しております」
「はあ…そうなるとは確信は出来ませんが。どうぞ」
やや高圧的な物言いにたじろいだが、竹下はミーティングルームに二人を通した。
そこには、先に呼び出されていた剣崎と竹内がいた。二人は立ち上がり、一同にあいさつした。
和歌山の三人と、大阪の二人が向かい合うように座った。先に口を開いたのは、金山社長だった。
「剣崎君、竹内君。君達の要望には、できるかぎり答えるつもりだ。ぜひ我がクラブを降格の危機から救い出してくれ」
金山はそう言って頭を下げた。続いて強化部長も言う。
「最低3年間の複数年契約に加え、2年目以降の海外移籍の自由も盛り込みました。移籍金も一人7千万を用意しました。この条件でどうでしょうか」
金山社長も強化部長も、可能なかぎり誠意を見せようとする。さらに金山社長はこう言いきった。
「君達はここに収まるような選手じゃない。少しでも世界に近づくべきだ。うちのクラブならその支援は出来る限りつくそう」
言いきった金山社長は、心の中はドヤ顔だった。
ここまで言い切れば大丈夫だ。そんな自信がうかがえた。
だが剣崎は立ち上がると、怒りに近い感情で言い放った。
「あんた。俺達のアガーラをなめてんのかぁっ?俺はこのクラブに命賭けてんだっ!金だの世界だの興味ねえっ!つーか、アガーラを見下す野郎のチームに行くなんざ、こっちから願い下げだっ!」
「な…」
たじろぐ金山に、竹内が一つ息を吐いて話し出した。
「今回オファーを頂いたときは、率直にうれしかったし、わざわざ僕達のような若手のために社長自ら足を運んでくれたことは、素直に感謝しています」と前置きし、毅然とした表示を見せ、
「でも、あなたの言いようでは行く気にはなれませんし、僕はこのアガーラ和歌山でも成長を実感しています。これからはあなたの価値観を見返すようにアガーラを強くします」
立ち上がった二人の口からは、言葉こそ違えど「移籍の意志なし」「交渉の予知なし」とはっきりと言い切り、改めて竹下GMが交渉の打ち切りを伝えた。




