表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/100

自分を信じて走りきれ

「よう栗栖」

「お、小宮。元気そうだな」

 選手入場前、整列した両チームのスタメンの11人。その中で、東京のボランチ、小宮榮秦こみやえいしんが栗栖に声をかけてきた。二人はU−18の日本代表でボランチを組んだ間柄だった。さらに小宮は、五輪代表の中心的存在で、ロンドンオリンピック出場を決めた試合でも、攻撃の軸として結果を残した。

「今さらだけど、オリンピック出場おめでとう」

 栗栖が笑顔で手を差し出す。しかし、小宮はこれを一笑に付した。

「別にいいよ。クズに祝福されたからって嬉しくないから」

 場の空気が凍りつく。あっさり怒りの声を上げたのは剣崎だ。

「…てめえ今なんつった、あぁ!?」

「いいよ剣崎。いつものこいつらしいところさ」

 つかみ掛かりかけた剣崎を、栗栖はなだめた。そのまま笑顔で小宮に話す。

「クズかどうかは、実際のプレーを見てくれれば分かるよ。少なくとも、このチームメートは、お前が思ってる以上にすげえし、楽しませてくれるよ」

 満足げな栗栖を、小宮は嘲笑を浮かべたまま、

「その台詞。試合が終わったら撤回しているさ。お前は既に一流への道を踏み外しているからな」

「変わらないね、お互い」



スタメンは次の通り。


アガーラ和歌山


GK20 友成哲也

DF6 川久保隆平

DF15 園川良太

DF3 内村宏一

DF13 村主文博

MF2 猪口太一

MF16 竹内俊也

MF7 桐島和也

MF8 栗栖将人

FW9 剣崎龍一

FW18 鶴岡智之


 西谷、チョンが負傷欠場。4バックはバランスを重視した。中盤は猪口がアンカー、栗栖がトップ下に位置したダイヤモンド型。



AC東京ヴィクトリー


GK1 市原拓也

DF2 二村和志

DF3 サンドロ

DF5 五十嵐佳久

DF8 八木沼秀喜

MF10 小宮榮秦

MF15 生駒亨

MF6 武藤達朗

FW9 窪山隆三

FW11 飯塚健二

FW25 ニコルスキー




 開幕は出遅れたが、この布陣になってから5連勝中。小宮だけでなく、ウイングの窪山、飯塚も五輪予選に出場経験あり。



「肩書だけなら、和歌山の完敗だな」

 記者席で玉川がぽつりと呟く。隣に座る浜田も、東京の布陣に感嘆している。

「小宮、窪山、飯塚の3人は五輪、市原と生駒はA代表経験者。さらにニコルスキーはバリバリのブルガリア代表FW。J1でもなかなかない豪華さですね」

「開幕で当たった奈良の場合と違って、鮮度は格段に違うからな。正直、和歌山には荷が重い相手だ」

「でも、彼らなら、多分大丈夫ですよ。結構怖いもの知らずの集まりですから」

 自信のある浜田の一言に、玉川は「確かにな」と苦笑した。

「そういやあ、こないだJペーパーで面白い特集してたね。浜ちゃんも、結構大きな記事書いてたね」

「あら、見てくれたんですか?」

「ああ。随分といきいきしてたな、文章が。まあ、俺も彼には興味あったからね」

 玉川が言うのは、20日発売のJペーパーに記載された「第2GK」特集。浜田は、和歌山の天野大輔を取り上げたのである。

「天野選手を取材しているうちに、どうして友成選手がレギュラーでいられるかが見えてきて、やっていてすごい面白かったですよ」

「羨ましいねえ。Jペーパーは原則Jリーグオンリーだからな。そういう特集も組みやすくてやりがいありそうだねぇ」

「まあ、お金はちょっときついですけどね」



 浜田が寄稿するJペーパーは、Jリーグ専門の新聞で、毎週月曜と金曜に発行される。月曜日はマッチレポートと海外日本人情報、金曜日はプレビューと特集で構成されている。

 この特集がなかなかくせ者であり、クラブ単体や順位予想、アンケートなど多岐にわたり、同誌の売りの一つだ。 今回の「第2GK特集」の天野のインタビューは、またのちほど読者のみなさんに披露する予定である。



入場した選手たちは、肩を組んで輪を作った。

「今日の俺達は万全じゃないし、実力的には『胸を借りる』のもおこがましかもしれない。だがだからこそ走ろうっ!そして自分を信じるんだっ!行くぞおっ!!」

『おおぉっ!!』

 キャプテンマークをつける川久保がメンバーに喝を入れ、最後は全員で気合いを入れてポジションに散った。



 レフェリーのホイッスルが高らかに響き、和歌山ボールでキックオフとなった。センターサークルから、剣崎が栗栖へ、栗栖から内村へボールが下げられていく。

「ふん。まずは後ろから組み立てる気か。ザコがとるにしては、随分と逃げ腰だな」

 和歌山のパス回しを鼻で笑う小宮。が、内村が園川とワンツーをかわした後、強烈なロングキックで、走り出していた左サイドハーフの桐島へサイドチェンジを決めた。

 桐島は既に東京の4バックの裏をとっていてオフサイドはない。一拍ずらして、中央の鶴岡、剣崎、さらに一拍おいて竹内が加速し、まるでラグビーのように斜めに並走している。

 桐島に慌てて五十嵐がつくが、すぐに切り替えされ、悠々とクロスを上げられる。サンドロが鶴岡が頭で押し込むとふんであたりに行く。しかし、鶴岡はギリギリのタイミングでしゃがんでかわした。

「っしゃあっ!」

とほぼ同時にジャンプしていた剣崎が、どんぴしゃりのジャンピングボレーで左足を振り抜いていた。

 重心が鶴岡に傾いていた市原は、ネットを突き刺さったボールを眺めるしかなかった。

「うっしっ!7点目っ!」

 着地と同時に、剣崎はガッツポーズを作って吠えた。ピッチの中央に歓喜の輪が出来て、ホームゴール裏も大いに盛り上がった。

 さらにアガーラの攻勢は続く。ゴールキックからの再開でボールをもらった内村がオーバーラップ。八木沼が対応してくると、ヒールで栗栖へ、さらに栗栖がダイレクトで竹内に流す。

「仕掛けてやるっ!行くぞっ!」

 竹内はドリブルのギアを上げて密集地帯を突破。詰めてきた市原の眼前で反転すると、

「頼むっ」

と味方にパスを出す。

「8点目だ、サンキュー俊也っ」

 渡された剣崎は、今度は冷静に右足で流し込んだ。

 開始15分の連続ゴールで和歌山が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ