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格の違い

 電光石火の猛攻に、沸きに沸く和歌山サポーター。メインスタンドで見ていた相川たちも興奮する。

「すごいよ玲奈の彼氏。得点に対する嗅覚が」

 子供のようにはしゃぐ佐伯。相川は「だからそういうんじゃないってば」と突っ込む。

「でも今の日本に、あんな怪物系のストライカーがいたなんてねえ」と感心する武藤。

「どう?久しぶりにみた幼なじみ。結構成長してるんじゃない」

「それは違いますよ、古川さん」

「え?」

「ずっとあのまんまですよ。人数ギリギリだった小学生のときも、監督に見限られた中学のときも、あいつは変わることなく自分を磨きつづけた。今でも」

「…ぶれないのね」

「頭が堅いだけですよ」

 子供を見守る母親のように、相川は笑みを浮かべた。



 同じく、剣崎のゴールに、東京の司令塔、小宮も驚いていた。

「ふーん…少しはやるな。でも、出し手がいなきゃ輝けない、甘えん坊だな。所詮」

 そして薄ら笑いを消し、目に殺気を宿らせた。

「クズどもが…格の違いを教えてやらねえとな」


 だが小宮が自由にプレー出来たかというと、そうではなかった。アンカーとして配置されたボランチの猪口が、中盤の舵取を放棄してまで、小宮の周りを衛星のように付きまとった。猪口が今石監督から受けた指示は「小宮を自由にさせないこと」であった。その猪口のマークを、小宮は忌ま忌ましげに舌打ちした。


 さらに小宮をいらつかせたのは、窪山、飯塚の両ウイングFWの出来の悪さだった。窪山は村主、飯塚は内村の相手の両サイドバックに手こずって、ほとんどなかに切れ込めない。ニコルスキーにボールを放りこんでも、ポストプレーをサポートに行くのが武藤だけでは単調な攻撃に終始。30分経っても打開策が見出だせず、時間だけが過ぎる現状に、小宮は露骨に失望感をあらわにした。

「イコさん。俺上がるわ」

 しびれを切らした小宮は、ボランチコンビを組む先輩、生駒にポジション変更を告げる。

「お、おい。勝手なことをするな」

「…何がバランスだよ。ボロ負けしてんのにバランスもくそもないでしょ」

「だが、監督の指示なくして…ひっ」

「…黙れ。俺はあんたらの尻拭いしてやろうって善意で言ってんだぜ。なんならこの試合自体壊してやろうか、あ?」

「わ、わかった」

 穏便とは程遠い説得で、小宮はポジションを前めに変えた。

 この小宮の独断は試合の流れを変えた。37分、ニコルスキーが落としたセカンドボールを拾うと中央突破。マークに着いた猪口、センターバックの園川、川久保をいとも鮮やかに抜き去り、友成と一対一になり、シュートを放った。

「…っ!」

 シュートに反応した友成だったが、及ばず同点ゴールを許した。

 J2では明らかに規格外の個人技に、和歌山の守備陣は呆然とした。

「おいっ!まだ同点にもなってないぞっ!ぼーっとしてんじゃねえ」

 守備陣を叱咤する友成だったが、内心彼も小宮の実力に見入っていた。

(たかが五輪代表って見くびってた。日本どころかアジアトップクラスの実力だ)

「猪口はとにかく自由にやらすなっ!最終ラインはフォローより自分のポジションに集中しろよっ」

 友成と同じように、今石も叫ぶ。


「す、すごいですね。ああもあっさりと点を取られるものですか」

 呆気に取られる和泉コーチを、今石は叱責する。

「今更驚くな。あいつは中学の時から年代別代表チームでプレーしてんだ。素人みたいなこと言うな」

「あ、はい、すみません」


 今石は視線をピッチに戻す。彼の頭のなかは、後半頭に選手を投入することで固まりつつある。リードしているとはいえ、力の差は明らか。おまけにエースが活躍したとあれば、流れはリセットされたと考えてもいい。その状況で再びゲームを動かすには誰を入れるべきか。頭のなかで思考は続いた。

 そんなときだった。44分。小宮が中盤でボールを奪うと、そのままドリブルで攻め上がる。

 小宮の殺気立ったプレーに、周りの選手たちもようやく奮起。さっきと一転して、ダイレクトパスで撹乱し、和歌山守備陣をズタズタにしていく。

 そのうちに、突破を試みた小宮を、村主がペナルティーエリアで倒してしまった。PKを与えてしまった上、後ろから倒した村主にはイエローカードがだされた。

(助かったあ。まあ、これで代えるのは村主だが)

 PKを見守りつつ、今石は交代で出す選手を決めかねていた。この日、ベンチには7人入り、フィールドプレーヤーは6人で、背番号順に江川、小西、沢松、布山、野上、パクがいた。最も悩ませていたのはメンタリティーである。五輪代表のエースでもある小宮に、怖じけづかずかつスピードについていける選手は誰かを探していた。村主がカードをもらったことで、サイドプレーヤーの野上に決まりかけたが、ある選手の行動が気になっていた。

その選手は、小宮が本気を出したあたりから、ずっと目を離さず何がぶつぶつ呟いていた。周りが小宮の本気プレーに気圧されるなか、ただひたすら顎をさすりながら、小宮のプレーを研究していた。

「あいつにまかせるか。宮脇、江川準備させとけ。ハーフタイムになったらロッカーに連れて来い」

 今石は同い年のコーチに指示を出した。


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