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59 構想

リョウが目を覚ましたとき、ガオは穏やかな寝息を立てていた。


木組みの壁は隙間から朝の光を通し、窓のないこの部屋も、ぼんやりと明るくなっている。

澄んだ空気と、歌うように鳴く鳥の声が、森の朝を感じさせた。


(……暇だなあ)


起き上がる気にはなれず、リョウは寝転んだまま虚空を見つめる。


(空気中の魔法粒子を魔素と呼ぶなら、それを制御する能力は魔力か?

魔法を「感知・制御・凝縮・操作」の四段階に分けるとしたら、人によって得意不得意もありそうなものだけど……)


これまで、こうした暇な時間は観察や思考に充ててきた。

しかしここ一月ほど、すなわち魔法の存在を知ってからは、その時間のほとんどが魔法の訓練や考察に置き換わっている。


父が買い与えてくれた雑誌には、魔法を扱う職業や各人の魔法を扱う際のイメージは紹介されていたが、体系的な理論の解説はなかった。

だからこそ、リョウは自分なりに理解を組み立てている。


(神学とか哲学はあまり得意じゃないしな……。

そういえば、そろそろ七月号が出るはずだよな。読みたいな)


リョウはどちらかといえば、人文学より自然科学的な思考を好む。


『月刊 魔法と生きる 六月号』で特集されていたホウファレン・クラシーク教員は前者に主軸を置いた議論を展開していたため、前提や論理の運びに首を傾げる部分もあった。

だからこそ、別の視点から語られる魔法も読んでみたいと、ページをめくるたびに思うのだった。


今のリョウの魔法観には、原子や分子の考え方、運動方程式から導かれる古典力学といった前世の知識が色濃く影響している。


この世界にそうした考え方がどれほど存在するのかは分からない。

だが、将来誰かと魔法を研究するなら、共通の土台は必要になるはずだとも感じていた。


(そろそろ進路も考えないといけないよな……)


魔法に関わって生きていきたいという思いはある。

しかし、知識が足りず、それがどんな道なのかはまだ見えていない。


そういう意味では、将来兵士になると迷いなく言えるガオが、少し羨ましくもあった。


 


ガオが小さく唸り、伸びをする。


リョウが首を傾けて見ると、鏡写しのような姿勢でこちらを見ているガオと目が合った。


一瞬の沈黙のあと、二人は同時に吹き出す。


「おはよう、ガオ」


「おはよう。リョウ、先に起きてた?」


「ほんの少しだけね。どうする? 二人とも起きたし、ディアンさんたちに挨拶に行く?」


「いや、その前にさ。アワルに戻るなら、ちょっと作戦会議しときたい」


「作戦会議?」


リョウは首を傾げる。


「作戦っていうか……シャオユーさんとか母ちゃんに話すとき、どこまで言っていいか決めとこうぜ」


「ああ、なるほど。基本は正直に話していいと思うけど……」


二人は、保護されるまでの経緯はそのまま伝えること、この屋敷に保護されて以降についてはディアンと相談して決めること、で意見を一致させた。


そもそも、ディアンと食い違う証言をして得るものは何もないということに気がついたのだ。


 


部屋を出ると、引き戸の軋む音に反応したのか、アンダルが現れ、円卓の部屋へと案内した。


その使用人がジェスチャーで示した通り、席に着いて待っていると、コップを四つ載せた盆を持ったディアンが入ってくる。


「二人ともおはよう。よく眠れたかしら?」


「おはようございます。アワルに戻る前に、少し作戦会議したくて……」


気が逸って立ち上がりかけたガオを、リョウが手で制する。


「ガオ、まずは落ち着いて。焦ったり不安になったりしてもいいことないよ」


ガオは口を閉じて座り直す。

ディアンは微笑みながら席に着き、水の入ったコップを配った。


「それで、作戦会議って何かしら?」


「えっと……帰ってから、どう話せばいいのか分からなくて」


「つまり、口裏合わせってことかしら?」


少し考えたあと、ディアンは続ける。


「昨日のお出かけ中に見たことは、できるだけ話さないでほしいわ。それと、ユイちゃんの婚約の話も」


「ユイのことはどう説明すればいいですか?」


今度はリョウが質問を重ねる。


「婚約の話だけをしなければいいのよ。ユイちゃんのご両親が保護されてるかもしれない所に行くにあたって、顔を見て本人だと分かるユイちゃん自身が行かなければいけなかった、特におかしくない話なんじゃない?」


リョウは一度ガオを見てから、さらに問いを重ねる。


「保護なんですか?」


ディアンはゆっくり息を吐いた。


「……難しい所だけど、二人は正直に答えてもらって構わないわ。後から嘘が分かる方が良くないわよね。

やっぱり、ユイちゃんの婚約の話もしてしまって大丈夫よ。話さないでほしいのは昨日の話だけってことにするわ」


ディアンの懸案するところは、リョウにも伝わっていた。


フータンの人々は、アワルでは森人と呼ばれ、半ば魔物のように扱われている。

もし彼らが人をさらっていると知れれば、国を挙げての討伐のようなことが起きても不思議ではない。


リョウはディアンたちの悪意を感じていないのでそんなことは考えなかったが、ユイはある意味では人質に取られているとも捉えられるのだ。


(自分たちにできるのは、見て感じたままの情報を、偽りなくアワルの人たちに伝えることだけか)


ディアンにそう望まれた以上、自分の恣意を挟まずに、事実を誠実に説明しようと決意するリョウなのだった。


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