55 舳艫
「また来る?」
解散になった後、フータンの子供たちは室内で思い思いの時間を過ごし、保護者の迎えを待つらしい。
リョウとガオはディアンに連れられてこのまま帰ることになっているので、ここでお別れということになる。
「また来たいとは思ってます」
リョウの言葉を受け止め、そのニュアンスを咀嚼するように少し間を置いたあと、ヌルールはアユに何かを耳打ちした。
「ばいばい」
リョウが初めて聞く、アユのケメルデ語だった。
ヌルールとアユは、振り返ったり手を振ったりしながら建物の中に消えていった。
リョウとガオ、男性教師のみがグラウンドに残った。
終了の際、リョウとガオには女性教師から残るよう指示が出されていたのだが、ディアンが帰って来ないため、三人だけの時間が訪れていた。
男性教師はケメルデ語を話せないようで、少し気まずそうにしている。
リョウにとっては、ガオとの久々の会話の機会だった。
「リョウの魔法ってやっぱり凄いよな!
アリフもマッドも多分めっちゃ褒めてたぜ!」
「ありがとう。
でも、ガオこそ大活躍じゃなかった?
最後のボール止められたの、本当に悔しかったし」
「確かに俺も凄い褒められたけど、魔法は使えないからな……
というか、端っこの方で魔法教えてなかった?」
ガオもリョウの方を見ていたようで、そのことにリョウは奇妙な安心感を覚えた。
「そんなことできるなら、今度俺にも教えてくれよ。
というか、ディアンさんが帰ってくるまでなら今からでもいけるか?」
「確かに、じゃあ……」
リョウはやぶさかではなかったが、ちらりと目線を送り、男性教師の方を確認する。
(いや、もう関係ないか)
既に女性教師には色々話しているため、ここで魔法を見せても問題ないだろうとリョウは考えた。
魔法を使いやすい環境を作るため、リョウが一度魔法を使おうとした瞬間、男性教師が何かを発声した。
その声に反応したリョウとガオが揃って周囲を見渡すと、にこやかに手を振りながら歩いてくる長身の女性の姿が見えた。
ディアンは男性教師に何かを告げたあと、リョウとガオに向き直って微笑んだ。
「そろそろ帰りましょうか。二人とも、楽しめたかしら?」
再び森の中に入る前に、建物の中で寄るところがあるようで、屋内に入ったディアンは玄関と反対側に向かって歩き始めた。
(正直、暗くなってから森の中に入るのは怖いなあ……)
ディアンは歩き慣れているのだろうし、ガオも楽しそうに歩きそうだが、正直勘弁してほしいとリョウは心の中で愚痴をこぼした。
ディアンがある扉の前で立ち止まり、三度ノックをする。
扉の上には白いプレートが設置されており、読めない文字で何かが書かれている。
数秒の後、扉は内側から開かれた。
腰の曲がった老婆が現れ、杖を右手に持ち替えた後、左手で部屋の中を指し示す。
リョウの腰より少し高い位置に天板がある低めの机には、緑と青で描き分けられた大きな紙が広げられていた。




