ザキ「偽物の関係が本物になることもある」
ザキ(山鷺)……アニメオタク。彼女に関して、本人の矜持のためここでの詳細は伏せることとする。
モヒ(元木)……マンガオタク。彼女に関して、本人の名誉のためここでの詳細は伏せることとする。
ロキ(興梠)……ラノベオタク。彼女に関して、本人にとっては黒歴史なのでここでの詳細は伏せることとする。
ヒメ(望月)……ヲタクオタク。彼氏に関して、以前にも記載したのでここでの詳細は伏せることとする。
カム(樫村 鈴)……アイドルオタク。女性。「アイドルに貴賤なし」がモットー。しかし、地下アイドルの追っかけとかはやってない。一応部員だが、普段はライブ資金のためのバイトで忙しいので部室に来ない。男性アイドルも女性アイドルも好き。そして類を見ないトラブルメーカー。
カム「やっほー、来たで!」
ザキ「……」
モヒ「うわ……」
ロキ「あちゃ~」
カム「おっ! 大歓迎やな! むっちゃ嬉しいで!」
ザキ「絶対気付いててこれやんな……」
モヒ「慣れが窺えるよな」
ロキ「心臓強いんやろな」
カム「なんや~? 褒め倒しか~? 久々に会って嬉しなっとんか~?」
ザキ「うっっっっぜええええええ」
モヒ「意図的なウザ絡み……熟練の技……」
ロキ「これで人気あんねんから理解できへんよな……」
ヒメ「距離感近いし、平気でボディタッチするし、気さくで話しやすいものね……。私よりヒメっぽいと思うのだけれど?」
ザキ「いや、ヒメはキング・オブ・ヒメやから。むしろヒメこそが王とも言える」
ヒメ「ヒメなのか王なのかわからないわね……」
モヒ「ヒメって平民とむやみに接触せん方がヒメっぽいしな」
ロキ「この機に渾名を変えようとしたんやろうけど、そうは問屋がおろさへんぞ! 意地でも俺らはヒメと呼ぶ!」
ヒメ「嫌がらせへの意欲……!」
カム「相変わらずおもろそうなこと話してんな! ウチも混ぜて!」
ザキ「波乱しか起こらんから嫌」
モヒ「今のがおもろいという感想がもう怖い」
ロキ「というか、今日は何のトラブルなん? またなんか起こったから来たんやろ?」
カム「おっ! よくぞ訊いてくれました!」
ロキ「しまった、いらんこと言った……!」
ザキ「やらかしやな。俺知らね」
モヒ「おっと、俺も行くとこが」
カム「捕まえたー!!!」
ザキ「ぎゃあああああ!!!!!」
モヒ「来るな掴むな触るな!! おい、どこ撫でてんねん!! はなせ!!」
カム「おー? ここか? ここがええのんか?」
ロキ「俺、逃げんくて正解やったな……」
ヒメ「やっぱりあの子が正真正銘のオタサーの姫よね……」
ロキ「出現頻度というかエンカウント率が足らんから、あれは『は〇れメタル』とかと同じ」
ヒメ「その例えあってるかしら……?」
ザキ「ぜえ、はあ、……やっと逃げれた」
ロキ「お疲れ」
ザキ「モヒを生贄に捧げて辛うじて抜け出せたわ……」
ロキ「人の風上にもおけんな」
ザキ「というか、男子二人相手に平然と張り合えるとかどうなっとんねん……」
ヒメ「バイトで動いて、ライブで動いて、通学も確か自転車だったんじゃないかしら……。普段部室でアニメ見るかマンガ読むかラノベ読むかなあなたたちより体力があるのは当然よね」
ザキ「元運動部相手でもモノともせんのは、そういう次元やないと思う」
ロキ「というか、いつまでモヒはやられてんのやろ……?」
ザキ「存外、本人は嬉しくて抵抗してへんのかもしれんで?」
ロキ「ありえそう……」
ザキ・ロキ・ヒメ「「「………………」」」
ザキ「部室で乳繰り合っとんちゃうぞコラァ!!」
ロキ「おまんらガッコをなんばおもっとんねん! ちゃーがぶんにせろ、いてこますど!」
ヒメ「方言ごちゃ混ぜじゃない……何言ってるのかわからないわよ。……いえ、なんとなくわかる気はするのだけれど」
カム「おーっ! すまんな! モヒの反応がおもろかったから、ついついやり過ぎてもーたわ! 堪忍な! ええよ! ありがと!」
ザキ「なんも言ってないのに勝手に許されたな」
ロキ「止める間もなかったな」
モヒ「こひゅー、こひゅー……」
ザキ「なんや、笑かされとったんか。虫の息やないか」
ロキ「『ダースベ〇ダー』以外で初めて聞いたわ、その呼吸」
モヒ「見てすらなかったんかい……こっちは死にかけたで……」
ザキ「乳繰り合ってて鬱陶しかったから、つい」
ロキ「なんか邪魔したら悪いかなっていう、気遣いやから。こっちは」
モヒ「こっちの目ェ見て言うてみい……!」
ザキ「地面にうつぶせで何を言うとんねん」
ロキ「別段嘘でもないしな、今の」
カム「そんでな! 頼みたいことやねんけどな!」
ザキ「ちっ……! 忘れとらんかったか……!」
モヒ「俺の命懸けの時間稼ぎが……」
ロキ「いや、モヒは十中八九楽しんどったやろ」
モヒ「楽しんでないし! それどこ情報根拠のないこと言わんとってくれる名誉毀損やで!?」
ロキ「動揺しすぎやろ……」
カム「ウチと恋人のフリをしてほしいねん!」
ザキ「お疲れっした」
ロキ「モヒ任せた」
モヒ「この流れで置いてかんといて!?」
ヒメ「待って、どうしてそうなったの?」
カム「あんな~、イベントにカップルで参加すると特典が貰えるやつがあってな~。ウチ、それがどうしても欲しいねん!」
ザキ「カムなら引く手数多やろ? そこらへんで適当に声掛けても誰が掴まるやろ」
カム「そういう人は、アイドルのイベントやなくて、デートにしたがるやん! やから嫌!」
ザキ「なるほど、カムらしい」
カム「……な~。カムやのうてスズって呼んで?」
ザキ「絶対に嫌や」
カム「なんで? スズのが可愛いやん」
ザキ「せやから嫌や」
ロキ「非リア男子に女の子の下の名前呼びはハードル高いよな……わかるでザキ……」
ヒメ「それで私のことも頑なに『ヒメ』って呼ぶのね……」
カム「でも『ヒメ』は可愛いやん。『カム』は可愛ないもん。ウチも可愛い呼ばれ方したい!」
ザキ「じゃあそれは彼氏役の仕事で」
ロキ「俺らは今まで通りということで」
モヒ「せやな、俺らは今まで通りやな」
ザキ「しれっと混ざろうとしても無駄やからな?」
ロキ「俺らは協定結んだから。モヒに勝ち筋はないからな?」
モヒ「……ザキ、裏切らん?」
ザキ「裏切るメリットがないから裏切らん」
モヒ「くそっ……! 俺にも国家運営系主人公みたいな外交能力があれば……!」
ロキ「ないものねだりやな」
ザキ「……(でもな、モヒ。考えてみ?)」
モヒ「……(なんやこそこそと。戯言は聞かんぞ?)」
ザキ「……(『ニ〇コイ』しかり、『俺の彼女と幼なじみが〇羅場すぎる』しかり、偽物の恋人関係が次第に本物になってくのなんか、ありふれた話やん)」
モヒ「……(まあ、それは)」
ザキ「……(確かにカムは理想の後輩ヒロインではないかもしれん。それはわかる。でも、カムは学校でも人気者やし、さっきはモヒも悪い気せんかったはずや)」
モヒ「……」
ザキ「……(つまり、これは千載一遇の好機! この機を逃す手はないで!)」
モヒ「……(あんな?)」
ザキ「……(おう?)」
モヒ「……(それはお互い様よな?)」
ザキ「……」
モヒ「……(それをわざわざ俺に押し付けようとする理由、俺が知らんと思ったか?)」
ザキ「……」
モヒ「カムが事あるごとにトラブル起こしてんの知ってんねんぞ……! 一緒に歩いとった男を彼氏やと勘違いした自称彼氏が殴りかかってきて喧嘩が起こったことも、声掛けたナンパ男達がなんやかんやあって最終的に路上で全裸土下座させられたことも、アイドルのガチストーカーを他のファンを扇動して集団で取り押さえたことも知ってんねんぞ……! 危険人物やろ……! というか本人がデート否定しとったやん……!!」
カム「おー? ウチの武勇伝も知ってんねんな!」
ザキ・モヒ「「……!!」」
カム「そんなら話早いな! ほな行こか!!」
モヒ「行かんて!! 絶対行かんからな!!」
カム「押すなよ! 絶対押すなよ! やな!?」
モヒ「ちゃうから! 本気のやつやから!」
ザキ「あれ? そういやロキどこ行った?」
ヒメ「さっさと逃げたわよ。あなたたちがこそこそし始めた頃に」
ザキ「あいつ……!」
モヒ「偽の恋人とかフィクションやんな!? リアルにそんなイベント起こるわけないよな!? 否定しとったもんな!? 否定してても何かに巻き込まれる気しかせえへんけど!! 俺の人生に痴情のもつれはいらんねん!! 助けてぇえええ!!」
ザキ「ついには腕力でも勝てんかったか……さらば。達者でな」
ヒメ「ドナドナね。ちょうど白いハンカチを持っていたわ」
ザキ「さすがやな」
モヒ「い~や~!!」
カム「あははははは! 行くで~!!」
ザキ「ほんまもんのトラブルメーカーがおるくらいやし、たまにはリアルがフィクションを超えてきてもええと思うねん。お前のことは忘れへんで、モヒ」
ヒメ「死んでないからね? 念のため」
ザキ「ロキは後でしばく」
ヒメ「(またドナドナすることになるかしらね……部が存続すればいいのだけれど……)」




