午前0時、君が消える
それから一年。
東京の街は、少しずつ変わっていた。
記憶バックアップ制度は完全には廃止されなかった。
けれど。
本人の同意なしに記憶を削除することは、禁止された。
人々は少しずつ、自分の記憶を自分で選べるようになった。
忘れることも。
覚えておくことも。
自分自身で決められるようになった。
このみは、以前と同じ仕事を続けている。
ただし。
今は、記憶管理システムの「安全性」を監視する側になった。
そして。
武尊も毎朝、このみと出会う。
「おはよう」
「おはよう」
「……今日も初めまして?」
「うん」
「そっか」
武尊は笑う。
「じゃあ、今日もよろしく」
「こちらこそ」
二人で手を繋ぐ。
それだけでいい。
過去を覚えていなくても。
今を選べるなら。
それで十分だった。
このみは窓の外を見る。
2051年の東京。
朝の光が街を照らしている。
時計が午前零時を過ぎれば、また記憶が消える。
けれど。
朝になれば、また出会える。
だから。
このみは思う。
愛は、記憶ではない。
過去をどれだけ覚えているかでもない。
忘れたとしても。
何も知らなくても。
目の前にいる人を、もう一度選びたいと思えること。
その選択を、何度でも繰り返すこと。
それがきっと。
愛なのだ。
そして今日も。
武尊はこのみに恋をする。
昨日までのことを何も知らないまま。
それでも。
まっすぐに。
このみを選ぶ。
だから、このみも笑う。
明日、あなたが私を忘れても。
私はまた、あなたに恋をする。
そして――
あなたもまた、私を選んでくれる。




