特別編・第三章 再会
従業員から指示を受け、グレイとイライアスは割り当てられた木造の小屋に入り、荷物を置いた。グレイはリュックをベッドの上に置くなり、壁際の暖炉の前に歩み寄った。指先から硬貨ほどの大きさの火の玉を生み出し、暖炉の中の薪に触れさせた。だが、薪に火はつかなかった。
「クソ!火力が足りないか?それとも、薪が湿っていたのか……」グレイは薪に触れてみた。やはり湿っていた。おそらく、煙突から雪解け水が入り込んだせいだろう。そう考え、グレイはため息をついた。懐から魔導紙を取り出そうとしたとき、温かな手が彼の手首を押さえた。
「寒さで頭までおかしくなったか?こんなことで魔導紙を使うな。ほら、俺のマーナを流してやる。これで、増幅の効果が出せるだろ」
「ええ、助かる」
そして、マーナはあっさりグレイの体に流れ込んだ。先ほどとは違い、今度は炎が勢いよく噴き出し、薪を燃え上がらせた。
「あゝ、昼飯と夕飯は何にするかな?」
「おい、飯のことばかり考えてないで、明日の出発に備えろ。それに、今夜は空中艇でもらったサンドイッチか何かで済ませるぞ」空中艇を降りれば、これからの食事はすべて自腹だ。グレイは、できるだけ出費を抑えたいと思っていた。
「チッ!明日からは死ぬほど硬いパンしか食べられないんだぞ。今日くらい贅沢したいのに」
その後、夜の帷が下り、午後五時には辺りはすっかり暗くなっていた。結局、グレイはイライアスに押し切られ、夕食はレストランで取ることになった。
港に一軒しかないこのレストランの料理はごく平凡だったが、値段だけは一般人なら腰を抜かすほど高かった。
「ここの値段は鬼畜だ。牛肉のシチュー一皿が、本国の五倍もするんだ」グレイは文句を言いながら、テーブルについた。
「これは、これは、イライとグレイだ!久しぶり!」二人の背後から、懐かしい声が聞こえてきた。
「あゝ、ジャスパー!? こんなところで会うなんて……」
ジャスパー。かつてイライアスやグレイと同じ守り人養成学校に通い、卒業後も幾度となく共に戦った男だ。情報局の仕事を請け負っているらしい――そんな噂を耳にして以来、彼とは一度も顔を合わせていなかった。まさか、こんな北の果てで再会することになるとは。
「お前、政府の犬となったと聞いたが?」イライアスは顔をあげ、自分の背後に立つジャスパーを見上げた。
「相変わらず口が悪いな、お前」そう言いながら、ジャスパーはイライアスの頬をぎゅっとつねった「俺は、ただ情報局の手伝いをしていただけさ。だが、今じゃその部署も予算を削られてな。俺に回ってくる仕事もなくなった」
「へえ、情報局か。だからここ数年、お前は姿を消したみたいに、まったく見かけなかったわけだ。だが、俺がもっと気になっているのは、説明会でお前を見かけなかったことだ」
ジャスパーの視線が、一瞬だけ泳いだ。
「さあな。向こうも色々と予定を調整していたみたいだから、そのせいじゃないか?」
確かに、説明会では遺宝の具体的な在りかは明らかにされていなかった。主催者側にも、まだ明かしていない事情があるのかもしれない。
「でも、お前らは普段、ほとんど王都周辺で活動してるんだろ? なんで今回の探険に参加しようと思ったんだ?」ジャスパーはそれ以上その話を続けず、ふと思い出したように尋ねた。
「一人につき千ポンドももらえるんだ。俺たちの住宅ローンを完済しても、数年は仕事をせずにのんびり暮らせるくらいの額だ。まあ、この遺跡自体にも興味があった」
「なるほど。俺も千ポンド目当てだからな。ハハ」三人はそろって笑った。
「で、またフリーの仕事に戻るつもりか?この後、また俺たちとチームを組まないか?」
「それもいいが、一休みをするのもかなり魅力的な話だと思わないか?何処ぞの南国でカクテルを飲みながら、海を眺める」ジャスパーは指先でグラスを持ち上げるような仕草をした。
「それはいい考えだ!」
食事を終えると、ジャスパーはグレイとイライアスを見送った。それから、自分の小屋へ戻ろうとした。吹雪が荒れ狂い、視界が悪くなっていた。
「あの二人を知っているか?」ジャスパーの右手側では、鳥打ち帽をかぶった男がレストランの壁にもたれかかっていた。
「ええ、昔のチームメートだ」
「あっ、そう。とにかく、明日から、お前は第三小隊に配属される。第三小隊が向かうのは、今回の探索先のうち、海岸から最も遠い山脈だ。でも、上の連中によると、遺宝が隠されている可能性が最も高い場所だ」
「わかった。で、なんでここまで来たんだ」
「俺も第三小隊に所属している。じゃ、また明日」その男は身を起こし、立ち去ろうとした。
「うん……待って。なんで公爵はサーガールドの歴史文書に興味を持つの?」ジャスパーはタバコに火をつけ、何気なく尋ねた。その男は突然、険しい目でジャスパーを睨みつけ、荒々しい口調で答えた。
「貴様は知る必要がない。己の役目を果たせ。二千ポンドの特別報酬を受け取ればいいんだ」
男はそれ以上何も言わずに立ち去った。
ジャスパーは愕然とし相手の姿が吹雪の中に消えていくのを見送った。彼は言い返す言葉もなかった。ジャスパーの実家は、代々鉄工業を営む商家だった。家業が続いていれば、守り人のような危険な仕事をしなくても、店を継ぐだけで安定した暮らしができたはずだ。だが、工場で大量生産された安価な鉄製品が市場に出回るようになると、家業は次第に傾き始めた。設備を更新する資金もなく、長年の得意先も失い、ついには多額の負債を抱えて倒産した。ジャスパーの手元に残ったのは、返済の当てもない借金だけだった。
「はあ……」彼は己の運命を嘆き、自分も吹雪の中に踏み込んだ。




