街外れの小さな「言の葉」
ガガガガッ、と鼓膜を揺らすような重低音が、薄暗い店内に響き渡る。
「……あーあ、またこれか。期待外れだなぁ」
紫色の煙を吹き上げる大型の『カード生成器』の前で、ランドセルを背負った少年が深々とため息をついた。
現代。誰もが腕輪型のデバイスを持ち歩き、そこから放たれるホログラムのカードで戦うゲーム『レゾナンス』が、世界の熱狂の中心にある時代。
誰もが強力な「相棒」を求めてショップの門を叩く中、裏路地にひっそりと佇むカードショップ『工房・言の葉』では、今日も奇妙な取引が行われていた。
「なんだ、不満か?」
生成器から吐き出されたばかりの、カードを取り出し店主のクロムが目を輝かせた。寝癖のついた黒髪に、普段は眠たげな瞳。だが、完成したカードを見つめるその目だけは、狂気的なほどの熱を帯びている。
「だって、レアリティが一番下の『C』じゃん。絵柄もただの煙だし……」
少年が不満げに指差したカードには、『竜の煤煙』という文字が刻まれていた。
「隣町の『黄金の天秤』に行けば、もっとキラキラ光るURが出るって評判だよ? ほら、僕が渡した素材……公園で拾った変な形の石だけど、もっとこう、伝説の剣とかさ! そういう風に『作り変えて』はくれないの?」
クロムは苦笑しながら、少年の頭を軽く小突いた。
「無茶を言うな。生成器は魔法の箱じゃない。素材の奥底に眠る『記憶』を読み解き、それを形にするだけの装置だ。伝説の剣を入れたら伝説の剣が出るが、石ころを剣に変えることはできない」
「じゃあ、やっぱりただのハズレじゃん!」
「……お前、カードを『レアリティ』でしか見てないな」
クロムはカードの端をピンと弾いた。
「お前が拾ってきたその石、ただの石じゃない。公園の隅にあった、古い焼却炉のレンガの欠片だろ。何十年も火と煙に耐え続けた『熱の記憶』が、このカードに高密度で圧縮されてる」
クロムは、カードの右下に刻まれた数値をトントンと叩いた。
「魔力に変換した時、普通のコモンカードは1マナしか出ない。だが、こいつは『2マナ』生み出す。……いいか? 普通の奴らが1歩ずつ進む間に、お前は倍の速度で動けるんだ。見た目は地味な煙だが、中身は規格外の爆弾だぞ」
「2枚分……?」
少年は首を傾げた。レアリティの低いカードに価値はない。それがこの世界の常識だ。少年は半信半疑のまま、格安の生成代である五百円玉をカウンターに置き、「……まあ、1回デッキにいれてみるよ」と呟いて店を出て行った。
カラン、とドアベルが鳴り、店内は再び静寂に包まれる。
クロムはカウンターに残された五百円玉を横目に、手近なショーケースへと歩み寄った。そこには、世間では「失敗作」と鼻で笑われるような低レアカードたちが、それぞれの記憶の波長を乱さないよう、計算し尽くされた配置で整然と並べられている。
「……みんな、派手なのが好きだからな」
クロムは次なる依頼品である「錆びついた釣針」を生成器のトレイに載せ、その奥底に眠る海の記憶に意識を集中させた。
「だが、どんなガラクタに見えるカードにも、相応しい輝き場所がある。お前たちの本当の価値は……俺が証明してやる」
薄暗い工房の中、世間から見放された名もなきカードたちが、主の言葉に呼応するように微かな魔力の光を放っていた。
【用語解説】
C: 低素材のもの、素材の性質などで本来の力を引き出せなかった「失敗作」。市場ではゴミ扱いされる。
UR: 豪華な素材から稀に生まれる強力なカード。一般人の憧れ。
生成器: 持ち込まれた素材をカード化する装置。




