表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
五章 空の旅とコマイナ
67/88

67話 エイサイア大陸

コマイナはちゃんと空を飛んでいたようです。

 コアルームに着くと、テーブル横にあるいつもの指定席で、妖精コマイナが優雅にお茶を飲んでいた。

 テーブルには、篤紫の分のお茶がカップに注がれていて、淹れ立てなのだろう湯気が立っていた。


『篤紫様、まずはお茶をお飲みくださいね。詳しい状況説明をさせていただきますよ』

「ありがとう、そうさせてもらうよ」

 チェアーに腰を下ろすと、篤紫のお腹が、ぐーっと鳴った。そういえば徹夜のまま、朝飯がまだだったな。


 取りあえず、淹れて貰ったお茶を飲む。横に置いてあった鞄から、手提げのバスケットを取りだした。

 実はこれも、桃華が先日、ダンジョン攻略のために、用意してくれていたお弁当だ。ダンジョンが全く平和で、数日かかる予定が日帰りだったため、数日分のお昼がバッグの中にストックされていた。


「コマイナも一緒に食べるか?」

『いいんですか? できれば、いただきたいですね。ダンジョンコアの前に、私って生物なんですよね。普通にお腹がすきます』

 マジか、いまで知らなかった。提案しておいて、目を見開いてしまった。

 よく考えると、桃華が投入した紫色の神晶石は、文字通り神がかり的な効果を、もたらしたことになる。

 無機物が、生物に変わったんだよな。どういうプロセスか見当がつかないけど。

 

「それなら毎朝食堂に来て、一緒に食事を食べればいいよ。みんなで食べた方が、食事も美味しいだろうからさ」

『ごめんなさい篤紫様、私はこの部屋から出られないのですよ。食堂に行きたいのは山々なのですが……』

「え、そうなの? なにか問題があるのかな」

『はい、ダンジョンコアはこのダンジョンの要なので、この部屋が最後の砦。ここが踏破されたら終わりなのです。

 ダンジョンコアは基本的に、この部屋から移動できません。

 だから、この部屋の前にダンジョンボスを設置して……あれ?』

 妖精コマイナは、首をひねった。

「え、普通にコマイナ移動できるじゃん。

 それに、コマイナはマスター権限持っているから、ダンジョン内は無敵でしょ?」

 そうなんだよな、コマイナダンジョンは、既にダンジョンの常識がおかしな事になっているのだけど……。


 通常ならば、ダンジョンマスターがいて、その上でダンジョンが稼働している。

 それがここは、妖精コマイナがダンジョンコアと、ダンジョンマスターの業務を兼任しているから、対応能力が普通じゃない。

 実はダンジョンの完全防衛が、可能になっている。理屈上は、コマイナダンジョン内なら、たとえどこにいても、地形を含めた全ての事象を操作できるよね。


 さらに登録上は、ダンジョンマスターは桃華、サブマスターを篤紫が担っている。妖精コマイナは、不壊のダンジョンコアだ。

 間違っても何か、問題が起きるはずがない。

 つまり、ダンジョンの中は全て安全地帯にできる。


「とりあえず、この白亜城の中だけでも、自由に移動できるようにしたらどうかな?

 ここのコアルームに常時いなくても、コマイナ内の事はわかるんだよな?」

『ええ、言われてみればそうですよね。なんで今まで気がつかなかったのでしょうか……。

 っていうか……今までの、私の苦労は――』

 妖精コマイナはぶつぶつと呟き、何だか難しい顔をしたまま、ふわふわとコアルームを出て行ってしまった。

 ……普通にコアルームから、出られるじゃんね。

 てか待って待って、救援信号の詳しい説明は?

 俺がここに来た意味は……?


 篤紫はガクッと項垂れて、ため息をついた。





 サンドイッチを食べ終えて、ポットのお茶をコップに注いで飲んだ。

 主の妖精コマイナがいなくなってから、しばらく経つため、お茶は既に温くなっていた。妖精コマイナは、未だに帰ってこない。


 篤紫は、モニター越しに映っている、外の景色を眺めた。

 下の方にあるモニターには、大きな島が映っている。緑一色の大きな島。

 ここは、どこなのだろう?


 シーオマツモ王国を飛び立って、日本から空路で、まっすぐに北極点を目指して飛んでいたはず。

 移動速度は、妖精コマイナの魔力量を考慮して、時速三十キロくらいを維持していたと思う。九日程で北極点に着くと言っていたはずだから、今はちょうど航路の半分くらいか。


 篤紫はスマートフォンを取りだして、マップアプリを起動した。

 該当しそうな島は……ボリショイ・シャンタル島? 地球で言うと、ロシアの端っこにある島か。

 大小の島があるシャンタル諸島の中で、一番大きな島みたいだ。

 正直、アプリでは場所と名前、程度しかわからなかったので、そのままスマートフォンの画面を消した。


 やっぱり、インターネット環境がないと、検索情報関連は弱いか。

 肝心の妖精コマイナが、部屋から出て行ったままだから、救援信号の内容を確認することもできないんだよな。

 篤紫は、大きなため息をついた。



「コマイナちゃん、いるかな?」

 篤紫が黄昏れていると、メルフェレアーナが、コアルームに飛び込んできた。首を回して妖精コマイナを探していたが、ソファーに座っている篤紫に気づくと、慌てて駆け寄ってきた。


「ねえ篤紫、コマイナちゃんは? どこにいるの?」

「コマイナなら、しばらく前にどこかに出かけたよ。

 俺はコマイナに呼び出されたんだけど、見ての通り本人不在。今は優雅に待機中さ」

「そなんだ。わたしは、急ぎなんだけどな。救援信号がはいったのさ」

「そうそう、俺の呼び出された用事もそれな」

「えっ? えええっ?」

 スマートフォンの画面を篤紫に向けたまま、メルフェレアーナは目を見開いた。

 画面には、確かに救援信号を受信したと、緊急速報が出ていた。こんな機能が実装されていたのか、実はナナナシアの魔術はすごいんだな。


「どういうこと? わたし、今さっき受信したところなんだよ」

「そんなこと言われてもなぁ」

 篤紫としても、朝から妖精コマイナに呼ばれてここにいるわけで、そもそも救援信号が何なのか、全くわかっていなかった。


「その、救援信号ってどこから発信されているのか、わかるのか?」

「それならほら、あそこ。モニターに映っている大きな島だよ。

 エルフたちの島、エル・フラウ島からきてるんだよ、これ」

 あの島は、エル・フラウ島というのか。


 それにしても、不思議な島だな。

 緑色の何かがこんもりと盛り上がっている。例えるなら、島に大きなブロッコリーが乗っているるような感じか?

 でも位置的にかなり北方だから、今の時期は雪と氷に閉ざされているはずなのに、太陽の焼滅光線のせいか、大地がむき出しになっていた。

 その中にあって、ブロッコリーは異様だった。


「あー、つまりレアーナはあそこの島に行きたいのか」

「できれば行って欲しいかな。あそこには、わたしの娘たちがいるんだよ」

「それは、できれば行きたいけれど、コマイナが戻ってこないと、細かいコントロールができないんだよな」

 前に座ったメルフェレアーナに、お茶を入れたコップを差し出した。





『ああっ、ごめんなさい、すみません、お待たせしました』

 二人でまったりしていたら、コマイナが北の扉から飛び込んできた。

「コマイナ、いい加減に詳しい説明してくれよ」

「コマイナちゃん、早くあそこに下りて欲しいな」

『あわわわわわ――』

 妖精コマイナは、混乱して目を回した。


『それでは、島の海岸へ降下しながら、説明をさせてもらいますね』

 落ち着いたところで、コマイナを島に移動させながら、話を聞くことにした。


『ここはエイサイア大陸の東端に位置します。大小あるフラウ諸島の中で、あの一番大きな島がエル・フラウ島になります。

 今回は、あの島から救援信号が発信されているのを傍受しました』

 メルフェレアーナに発信されていた通信を、妖精コマイナが先に受信したという状況か。


「それ、わたしの携帯宛に来た、緊急通信だね」

「まあこの世界じゃ、通信自体がかなり限定的だからなぁ」

『ここまでの航行で、文明との接触がなかったので、今回は篤紫様と最初にお話していた、『何か』に該当すると判断して、連絡しました』

「ああ、確かに何かあったらって……言ったかな?」

 正直、そこまで深い意味はなかったと思う。


「どのみち、レアーナに救援要請がかかっていたのなら、行った方がいいはずだ。なんと言っても、家族だからな」

 同郷の家族のためだもんな。そもそもダンジョンごと移動しているから、寄り道しても殆ど問題はないと思う。

 太陽から来る焼滅光線も、確かに急ぎではあるけれど、そうは言っても救援要請を無視していけるほど、早急でもないし……。


「篤紫、ありがとう……」

『それでは、島を魔力走査しながら、救援信号が出ている一番近い海岸に向かいますね』


 島の姿が、徐々に大きくなってきていた。


地球の地理って、意外と難しい。


次から新章に入ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ