66話 虹色の魔道ペン
オルフェナさんの暴走は珍しい。
オルフェナの息が荒い。こんなオルフェナ初めて見た。
いつも冷静沈着で、偉そうにふんぞり返っているけど、今日はその面影が全くなかった。
「いや、オルフ? そもそもパラメーターを自動にして、失敗してできた金属なんだぞ。価値なんてないでしょうに」
『そんなはずなかろう。それは間違いなくニジイロカネだ。
そもそもニジイロカネは、ナナナシア・コアの周りにある、いわばナナナシアの肉体みたいな物だ。
ダンジョンで国稀に産出される以外は、海溝の大陸プレートに乗って上がってきたところを、偶然収拾するしか手に入れる方法はないのだぞ』
そうやって言われると、なんかすごい金属な気がしてきた。
それでもなあ、長年鍛冶をやっていたルルガでさえも、知らないみたいだったからなぁ。
『そもそもが、ニジイロカネは魔法伝導率が百パーセントだ』
あ、確かルルガと、冗談で言ってたやつだ。マジかぁ。
『硬度はもちろん不壊、傷つけることすらできん。当然原石から、錬成することがまず第一の壁になる。
だから鍛冶師としては、ニジイロカネを手に入れたら、その加工に一生捧げる程の、難解素材でもあるのだぞ』
「え? これ、手で簡単にこねられるぞ?」
オルフェナの顔が真っ青になった。顎が落ち、不細工な羊になる。
『なん……だって? そんなはず……ない…だろう?』
「いやだってほら――」
篤紫はニジイロカネを手に取ると、オルフェナの目の前で、こねたり伸ばしたり、縛ったりちぎったりしてみた。
まるで粘土のように形を変えるニジイロカネに、オルフェナは一切の動きを止めた。あ、鼻水たれてる、汚いなあ……。
『キュウゥ――』
そしてオルフェナは堪らず、目を回して気絶してしまった。
どうしよう、柔らかいニジイロカネが鞄の中に、それこそ山ほど入っているなんて、とてもじゃないけど言えない……。
でもこれは、ダンジョンコアよりも上の素材と言うことか。
魔道ペンでも作ってみるか。
立ち上がろうとしたら、桃華に手を引かれた。
「ねえ、私にその虹色の石ちょうだい? あ、篤紫さん。ペンダントトップにして、プレゼントしてくれないかしら」
祈るような格好で、篤紫に懇願してきた。
確かに、虹色に光っているペンダントトップは、女性なら絶対にほしいよな。よし。
篤紫はニジイロカネを少しちぎると、手先で星の形に整えた。表面に魔道ペンでちょっとした模様を描き、背面には桃華の所有者固定登録を施した。
完成処理のための、ミスリルのハンマーは……ないか。でもミスリルなら、一個だけあるな。
腰のペンホルダーから、ミスリルのペンを取り出して、ニジイロカネの星に軽く打ち当てる。
リィーン――――。
澄んだ音色が響き渡った。
それだけで、ニジイロカネの星は、さっきまでの柔らかさが嘘のように硬化した。手に触れる星は、ひんやりと暖かい。
間違いじゃないよ? ひんやりしているのに、それが暖かいんだよ。自分でも何を言っているのか分からないけど。
なるほど、これはやばい。完全にチート素材じゃないか。
「はい、これ桃華にプレゼント」
「ありがとう、篤紫さん。一生大切にするわ。
はわぁ……き、綺麗……」
とびっきりの笑顔で受け取ると、大切に胸に抱え込んだ。
篤紫はあらためて、部屋の真ん中に鎮座している魔導台の上に乗った。
ニジイロカネをちぎって、ペンの形に練り上げた。
これに魔術文字を書き込んで、魔道ペン化するのだけれど、正直ここのところが不満だった。実は今まで見てきたどの魔道ペンにも、全てに同じ文面が描かれていた。
それが、こちら――。
this is a pen
お分かり頂けるだろうか。
そう、これはペンです、って描かれているだけなんだ。この宣言をナナナシア星のコアが受け取って、魔道ペンだと認識するらしいのだけれど。
個人的には『This is a magic pen』の方がいいと思っている。今まで持っていた、ミスリル魔道ペンも『This is a pen』だった。ダンジョンコア魔道ペンも『This is a pen』に揃えた。
あの時は、すぐにダンジョンコア魔道ペン使えないと大変だったからね。
今回はおまけみたいなものだから、ダメ元で『This is a magic pen』を描いてみることにした。
ニジイロカネのペン型に、予定通り『This is a magic pen』を描き込む。ついでに所有者と使用者の固定登録。スマートフォンとリンクさせて、帰還登録まで描き込んだ。
最後に、ミスリル魔道ペンを軽く打ち当てた。
リンルリラリーン――――。
……なんか変な音がしたぞ?
虹色の魔道ペンを見ると、自分が描いた文字以外に、特に変わった様子は見られなかった。指で弾くと、ちゃんと硬化もしている。
まてよ? 魔道具化の、最終行程の魔力を流してないぞ?
一瞬迷ったけど、実際に使ってみて、もし駄目だったらもう一回、最終処理をすればいいことに気がついた。
折角だから、魔法少女三人娘にワンドでもプレゼントしようか。
「あら、何か新しい物でも作るのかしら?」
桃華はさっそく、チェーンを通した星のペンダントを、首に下げていた。虹色に淡く光る星が、いいアクセントになっている。
「夏梛とナナ、あとカレラちゃんに魔法のワンドを作ってあげようと思って。ほら、魔法も使えるようになったし、ちゃんとしたワンドがあった方が、雰囲気出るだろ?」
「そうね、いい考えだと思うわ。それなら私は、ワンドホルダーを作るわね」
「ああ、お願いするよ」
まずワンドの先、光る部分は――虹色のままでいいか。ニジイロカネから拳大の塊を三つちぎると、丸く形を作る。
持ち手部分は、ニジイロカネを棒状に伸ばし、魔術で色指定をしたら、まだ柔らかいままでも、色が変わった。
夏梛には桃色、ナナには紫、カレラちゃんには緑に色つけした。所有者登録と、帰還登録も済ませた。もちろん使ったのは、新しいニジイロカネの魔道ペンだ。
次に装飾用に細長く伸ばしたニジイロカネを、二本、魔術で金色と銀色に染め上げた。
これは――色が綺麗に変わるから気持ちいいな。虹色だけに、全ての色が再現できるんだな。
球と棒を繋げて、金と銀で細かい装飾を編み込んでいく。
持ったときに滑らないように、子ども達が持っている姿をイメージしながら、手元から先端の球まで、丁寧に編み込んだ。
「こんなところかな?」
「あら、素敵ね。子ども達にはもったいないわね」
桃華も鞣した革を縫い繋げて、腰に巻き付けるワンドホルダーを作っていた。それぞれに宝石を縫い付けて、可愛らしい花の絵柄にしていた。
自分のもそうだけど、二人とも凝り過ぎだな。
ミスリル魔道ペンを軽く打ち当てて、完成だ。さっきまで柔らかかったニジイロカネは、しっかりと硬化して全てのパーツが動かなくなった。
「できたのかしら? ちょっと触らせてもらってもいい?」
「あ、ついでだから魔力を流してみてほしいな」
「わかったわ」
夏梛のワンドを手に取ると、桃華は魔力をワンドに込めた。桃華が込めようとした魔力は、ワンドの表面で弾かれて、霧散した。
「弾かれちゃったわ。これってどういう事なのかしら?」
「そのワンドを使うことができる人を、夏梛限定にしたからだよ。
他の人が使おうとすると、魔力が通らない仕組みかな。鈍器としては使えるけどね」
これで、ニジイロカネ魔道ペンは、問題なく使えることが確認できた。
「あら、夜が明けてるわ」
「……夢中になっていると、時間が経つのが早いな」
窓から朝日が差し込んでいた。
寝ていないにもかかわらず、集中していたからか不思議と眠くはなかった。
「それじゃ朝ご飯の用意を――」
ピピピピッ、ピピピピッ――。
桃華の言葉を遮って、篤紫のスマートフォンが鳴り出した。
ここに家族のみんながいる……と言うことは、レアーナか、シャーレ。あとは妖精コマイナか。
スマートフォンを手元に寄せると、妖精コマイナだった。
「はいよ、なにかあったのか?」
『あ、篤紫様。おはようございます、朝早くからすみません。
進行方向十じの方角から、救援信号を受信したので、一緒に見ていただけますか』
「わかった、すぐに行くよ」
電話を切って、ふと思い立った。救援信号って……そもそもなんだ?
首をひねりながら、篤紫はコアルームに向かった。
コマイナの外でも、何かが起きたようです。
ところで、今どこの上空を飛んでいるのだろうか……?




