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ダークヒーロー系魔王男子とチートなお節介系幼馴染は果たして世界を守れるか!?  作者: アシタカ
第一章 竜人族領・プライディア編
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第07話 『傲慢の書』

 私は異変がないかとプライディアの町に目を凝らす。しかしどこで騒ぎが起きているのかここからではまだ見つけられない。


「何を企んでいたのだ!」

「きゃ!」


 外を凝視していた私を無理やり振り向かせる。カルヴィンと向き合うと、その表情は怒りに歪んでいた。


「勘弁するのだ。折角永住権を得られるのに、こんなことでは剥奪されてしまう」

「私は別にプライディアに住むつもりはないもの。そんなのカルヴィンの都合でしょ?私を巻き込まないでよ」


 私は負けじと凄んでみる。私だって怒っているのだ。勝手に嫁だのなんだの決められて、ナイトのことが心配なのにプライディアに閉じ込められて…


「それがしに故郷を諦めろと言うのか」

「そっくりそのまま返すわよ。カルヴィンは私に故郷を諦めてここに住めって言うの?」


 しばらくにらみ合いが続いた。そんな私たちの膠着状態を破ったのは外での破壊音だった。

 イザークなのかと再度窓に飛び付くと、それはすごい光景だった。人が空を飛んでいるのだ

 まさしくローレン・ハリントンは空を飛ぶ人族だった。彼女は地を蹴るときに魔法で衝撃を与え、空中へと弾丸のごとく飛び跳ねるのだ。壁など高い建造物まで跳ねたら、次はそこを蹴り衝撃で弾丸の如く飛び出してくるというのを繰り返している。そして勢いを失い落下した時は、身のこなしで地面に激突する衝撃を吸収しながらまた魔法で地を蹴るのだ。

 正直そんなことが可能なのかと目を疑う光景だった。彼女はそうやって獣姿のイザークと戦っていた。


「イザーク…!」


 やっぱり間に合わなかった。しかし、イザークもよりによってこんな日に来てしまったのでローレン・ハリントンに捕まってしまったのだ。

 ローレンは壁を蹴るとイザークへと急接近し、魔法を唱える。ここからでは聞こえないが、眩い閃光を放ち爆発を起こす。黒煙が上がる中からローレンとイザークが一度離れるように飛び出して、イザークが毒尾の針を放つ。それを縫うようにして避ければ、ローレンは再び地を蹴りイザークへと向かう。

 その光景を見ていると、自分の使っていた魔法というのがあまりに陳腐で取るに足らないものなのだと思い知らされた。2人の魔法の威力は凄まじく強く、早く、そして激しかった。


「イザークが…」


 負けないとは思いたいけれど、ローレンは強かった。あまりの不安に窓にへばりついたまま戦いを見守ってみるが、2人の戦闘は激しさを増すばかりだ。


「竜王様が急なローレン・ハリントンの訪問を許可したのは、こういった理由からだったのか」

「理由?」

「つまり竜王様はラースラッドの悪魔とローレン・ハリントンをぶつけようと考え、この日の訪問を許可していたのだ。仮にローレンが負けてもアレの体力は削ることができるのだ」


 そうか、偶然ではなく仕組まれていたのか。未来を知ることができるって、やっぱりズルくないか?私はイザークが負けてしまわないか心配で、居ても立っても居られなくなった。

 近くにあった椅子に手を伸ばし、窓に向かって叩きつける。突然のことにカルヴィンは反応できず、椅子は窓へとぶつかった。


「何をしているのだ!」

「うそ…壊れないの…?」


 防弾ガラスとか、この世界にもそんな技術があるわけ?カルヴィンが慌てて私の腕を掴んできて、身動きが取れなくなった。


「離してよ!」

「こんなことをされて野放しになんてできないのだ。この部屋の窓は特別な竜の鱗を混ぜて作られているから絶対に割ることなどできないのだ。諦めるんだな」


 何てこった、そんな竜の鱗とか貴重そうな素材を窓如きに使うなよ!

 私のそんな文句など言えるような状況ではないようだ。そんな時だった、鍵のかかっているはずの扉が、ガチャガチャと音を立て始めた。

 一瞬何事かと私たちの動きは止まったが、カルヴィンはハッと気づくと私を羽交い絞めにして口を手で押さえてきた。ヤバい、もしかして!そう思った時には遅かった。


「ふー、開いた開いた。迎えに来たわよ…」


 扉を開けながら、得意げな表情で現れたのは猫娘のニーニャだった。部屋の状況を把握すると、その表情は固まる。そして、とても悩んだ末に叫んだ。


「1人になってなさいって、伝言したでしょ!」


 私だってそうしたかったんだけどね!それにしたって警戒心が無さ過ぎやしないかい、ニーニャさん。


「どうやらお客さんも来たようだな」


 そうして全てを知っていのだろう竜王が久しぶりに部屋へと訪ねてきていた。逃げようとしたニーニャの首根っこを捕まえると部屋の中へと入ってきた。ニーニャの顔は真っ青である。


「残念だったな、人族娘よ」

「全て分かってたって感じよね」

「そうだな。さて、アレとローレン・ハリントンの戦闘はそう簡単には終わらん。お前さんには場所を移動してもらおうか」


 竜王はカルヴィンにニーニャを見張っているよう言い渡し、私に着いてくるよう告げた。私を拘束しないのはなぜかと思ったが、問う前に「逃げればあの獣人族娘を殺す」と釘を刺されてしまった。

 仕方なく竜王の後に続けば、彼は穏やかな口調で語りだした。


「私の見た未来通りに物事が進んでいる。心配するな、アレは死んだりはしないからな」

「それで私が安心するとでも思っている訳?」

「少なくとも不安の一つは解消されているのではないか?」


 竜王は私を一室へと案内する。その部屋は竜王の私室のようだった。

 部屋の中は本で溢れかえっていて、棚に収まりきらなかった本が床にも積まれていた。


「長生きしていると退屈でな。色んな本を読み漁ったものだ。私の秘め事が本であったことにも、運命というものを感じたよ」


 竜王は椅子へと腰掛けると、私にも向かいにある椅子を勧めてきた。一体、何がしたいのか分からない私は素直に言うことを聞き様子を窺ってみた。


「魔女の秘め事とは強大な力だ」


 竜王は近くにあった一冊の本を手に取った。それが何か、言われなくても分かった。表紙に孔雀の描かれたそれは、『傲慢の書』のようだった。


「しかしそれは、持ち主がそうであるということではない。この秘め事が強力であるというだけだ」


 竜王はページを捲ってその書物に目を通した。どこか愁いを帯びた表情でため息を吐く。


「勿体ぶるものでもないから、結論から言おう。この『傲慢の書』では、これからイザークはお前を助け出しこのプライディアから脱出するのだと、未来はそう記されている」

「え?」


 あまりに突然な話に驚いて、私は竜王を凝視した。竜王は表情を変えずに続ける。


「この『傲慢の書』は未来が記されているのだ。それは、決して私が事前に知ったからと変えることができるような代物ではないということだ。意味が分かるか?」

「いや、ちょっとよく分からないんだけど…」

「つまりだ、この『傲慢の書』には私の未来だって逐一記されているのだから、未来など変えようがないということだ」


 さっぱり意味が分からない。私の表情を見て竜王はもう少し丁寧に説明してくれた。


「例えば干ばつがこの国を襲う時。『傲慢の書』には『その事実を知り得た竜王は作物の備蓄を増やし、この事態に耐えるよう指示を出した』と記されているのだ。私はその通りに動いただけで、先だって知り得た事態に対処するため未来を変えたという訳ではない」


 つまり竜王は「干ばつにより国が甚大な被害を受ける」という未来を見て変えたのではなく、「干ばつが来るから備えて被害を抑えた」という未来を見てそれを実行しただけなのだと。何が違うのか、私にはあまりよく分からない。

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