表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/39

第39話 魔族の過去2

 まずは魔王についてを詳しく話そう。

 竜王はそのように前置きをしてから話始めた。以前から聞いていたように、魔王は魔族で一番強い者がなる。しかし、当時は竜種と呼ばれた竜人族はその限りでないという決まりがあった

 竜種は戦士として魔王の隣に控え、魔王を承認する任を担っていた。そのため、公平を期すため竜種は絶対に魔王への立候補が許されなかった。しかしそれは表向きの理由に過ぎず、あまりに強すぎる竜種が魔王候補に上がれば他は誰も魔王となれないからだった。

 竜種はその強すぎる強さ故に同種族から煙たがられていた。かつての人族内でのローレン・ハリントンのように。

 竜種が裏切った時用に、魔王の近くには小間使いと称したナナシが常に複数人控えるほどだった。


「ナナシって?」

「名を持たぬ魔族のことだ」


 魔族は身内に『真名(まな)の支配』のできる竜種がいたからこその習慣があった。子は複数産み、名を与えるのは2人までにするというものだった。跡目を継ぐ長男とそのスペアである次男。名をもたぬナナシは長男、次男が竜種に襲われたら身を呈して助けるよう教育を受けるのが一般的だった。真名の支配されないナナシは竜種に対する捨て駒だったのだ。


「そして、私は戦士として現魔女…以前は同胞の竜種だったモルターリアとともに魔王に仕えていた」


 何代も変わる魔王に、長寿の竜種は何度も仕えることになるようだ。前代魔王を倒し、スペルディアとモルターリアの承認を受け、魔王は代替わりを繰り返していた。


「うんざりよ」


 何度となくモルターリアはため息と共に愚痴った。彼女は自分達の立場に不満があったのだ。


「ねぇスペルディア、悪しき習慣なんて壊しちゃいなさいよ」

「バカを言え」

「バカじゃないわ。大真面目よ」


 スペルディアが魔王として立てばいい。そして哀れな竜種の立場を変えるのだと何度も訴えた。それを聞くたびにスペルディアはモルターリアを諌めた。誰かに聞かれれば謀反を企てたと首を落とされかねない。


「あら平気よ。だって私、竜種よ」


 モルターリアはいつも笑いながら、目は苛立ちを孕んでいた。

 それが顕著になったのは最近だ。人王の『嫌魔宣言』が出されたせいだ。魔族が神の与えし神秘を脅かす冒涜的生命であり、断固たる信念をもってこれを排除すると言うものだ。

 人族の、さらに王からこんな差別的宣言がなされて憤懣やるかたない。しかし何よりそれに腹を立てる魔族が、モルターリアには許せなかった。

 嘆かわしくも、それは他の魔族の竜種に対する行為と同じだったからだ。色々な建前、言い訳をしているが、自分より力を持つ他者を恐れ、排そうとした結果である。自らがしていることを自らもされて、何を怒っているのか。なぜ自分達のしていることは省みないのか。

 モルターリアの苛立ちは増した。そんな鬱々とした日々に、変化が起きたのはモルターリアがある少女を連れてきた時だった。


「スペルディア、聞いて!」


 いつもあんなに不満ばかり溢していたモルターリアの目が輝く。その隣には知らない魔族の少女が静かに佇んでいた。


「騒々しいな」

「そんなこと言ってる場合じゃないわ!この子の話を聞いて」


 少女はどこにでもいるような普通の少女だった。しかし話し始めるとキテレツな言葉がその口からは飛び出してきた。


「知的生命には溺れれば罪に至る欲が存在する」


 謙虚さを失い傲慢に振る舞えば向上する心を忘れ、忍耐に弱く憤りに囚われれば衝突する。感謝を忘れ嫉妬に狂えば醜く歪み、勤勉でいられず怠惰に過ごせば大事を見逃す。節制せず暴食に抗わねば食い散らして、純潔を守らねば色欲のままに乱れる。寛容になれなければ、強欲に全てを欲してしまうのが、弱き生き物の愚かな定めだと。


「虐げられる者よ、私が手を貸しましょう」


 彼女は自身を聖女と名乗った。


「その罪は身を滅ぼす。貴方たちを邪険に扱う世間に、魔族に一矢報いましょう。それぞれの王にその欲を解放させてやるのよ。そうすれば破滅に向かう各種族は、その時君臨する竜種を見て、貴方たちの真価を思い出すことでしょう」


 モルターリアは興奮した様子でいつものようにスペルディアに求めた。


「争う人族も魔族も他の種族も…全て竜種が統一して、王となれば世界は平和になるわ。スペルディア、王になるのよ」

「モルターリア、ここまで愚かとは…」


 彼女は矛盾に気づいていなかった。


「それこそ傲慢に振る舞っていると気づかないか?憤りに囚われていると。お前こそが欲に溺れているのだと、なぜ他者を嘆いて自分を省みないのか!」


 それこそお前が苛立っていた魔族の行為と同じではないか。しかしモルターリアは「違う!」と叫んだ。


「竜種は痛みを知っている。私たちが王として統制を取るのは傲慢な奴等とは意味が違う!」


 モルターリアは切なげに眉を寄せた。


「スペルディア…どうしていつも分かってくれないの。ムリだ、ダメだと言うけれど、ただ臆病なだけではないの?王になるのが怖いのよ」

「それはお前だろう。いつも私に王となれと言うが、お前は自らが王となる気がない。それこそ怖じ気づいているのだろう」

「…あんたそれ、わかってて言ってるのよね」


 モルターリアは顔をひきつらせながら、なんとか感情を抑えながら唸るように声を絞り出した。


「私だって竜種の戦士として認められているのに、あんたがいるってだけで誰もついてこない。所詮は魔族よ」


 特殊な立ち位置だが魔族である竜種もまた、一番力のあるものに従う。表立っては言わないが、竜種は魔王ではなく最強戦士であるスペルディアにみな従っていた。


「だから力が無いならごちゃごちゃ言うなと言っている。弱いやつは喚くな。文句が言いたいなら私を倒せるだけの力をつけて、竜種を従えてみせよ」


 あまりに聞き分けないモルターリアに苛立ち、挑発するような言い方になってしまった。カッとなったモルターリアに気づいたときにはもう遅かった。


「もういい!他種族も魔族もおかしいけど、竜種だっておかしい!私の気持ちに共感してくれない、誰も私を分かってくれない!みんな敵よ!せっかく助けてあげようと思ったけれど、慈悲は無用だったようね」


 モルターリアは聖女を連れ立ち去っていった。二人が言い合っている間、聖女は無表情に聞いているだけだったが、モルターリアと出ていくときも同じだった。

 奴の手を貸そうという言葉の意味は、一体どういうものなのか。だがスペルディアは聖女など信用できないと感じていた。

 またモルターリアが聖女と出ていったことは他に大きな問題を産んだ。魔王の怒りを買ったのだ。


「モルターリアはどこへ消えた。何も告げず忽然と姿を消したとはどういうことだ」


 聖女のことは知られていなくとも、こういった時はまず警戒されてしまう。魔王は不快そうに吐き捨てた。


「これだから竜種は油断できんのだ」

「竜種だからではない」


 スペルディアはいつだって竜種のことを守りたいと思っていた。そのはずだった。だが咄嗟に出た苦しい言い分は、浅はかを通り越して酷いものだったと思う。


「奴が女だったからです。二度と無責任な女など戦士に起用しません」


 これが、モルターリアが竜種を離れた経緯であり、その後会った時に彼女は自身を魔女と名乗っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ