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自分の席に突っ伏してまどろんでいたところに声がかかる。
「おはよう」
「ああ」
寝ぼけた頭で返事する。目の前には大輝が立っていた。
「お前、なんでニマニマしてるんだよ気持ち悪いな」
「あ、そうか?」
照れ笑いしながら頬を掻く大輝。
「いや、何。小説が書き上がったからさ」
ああ、なるほど。
「そう言えば、一週間ぐらい経ったっけ」
僕はふわ、とあくびを一つ漏らした。
「どれぐらい書けたの?」
「聞いて驚くなよ! 一万文字越えの大作だ!」
もう一度あくびした。肩にパンチを食らった。
「驚けよ! 一万文字だぞ!?」
「一万文字とか短編の中でも短い部類だからね!?」
こいつは小説の知識本当に皆無なのか?
「そ、そうなのか……」
露骨に落ち込む大輝。流石に少し良心が痛む。
「いや、ネット小説だとそれでも長いぐらいだったりするけどな……」
「そうか!?」
「あ、うん」
勢いが気持ち悪いという言葉を既の所で飲み込んだ。
「じゃあ、今日学校終わったらお前の家に行って読んでみるか?」
「おう! そうしてくれるとありがたいな。改善点とかも見つかるといいし」
元からそれが目的だろうとは思っていた。でも、約束は都合よく忘れてしまっているかもしれない。必要な時にもう一度言えばいいだろうけれど。
大輝は片手を上げると、さっさと自分の席へ戻っていった。
見送って、もう一度机に突っ伏した。
この一週間で、僕は一万文字も書けていなかった。そのことが胸の奥で不協和音を響かせている。
ごり、と頭を机に擦りつけた。
その日の授業はいつもよりも手に付かず、今書いている小説の続きが浮かんでは消えるという無意味なもので時間が過ぎた――
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
「はいはい、いらっしゃい」
気付けば、大輝の家にいた。振り返った大輝が眉を片方だけ持ち上げる。
「ん? どうしたよ、浮かない顔して」
「え、そうか? どっちかって言うと魂浮いてたけど」
ニヤリとしてやる。
「……ふーん」
大輝はそれだけ言うと前を向いて階段を上り始めた。
僕は内心で安堵のため息をつきつつその背中を下から追った。
部屋に入り、大輝はパソコンを立ち上げる。僕は立っているとどこか落ち着かずベッドへ腰かけた。
こちらから見えるのは大輝の背中だけ。部屋に響くパソコンの起動音が静かに僕を波立たせていた。
――つかなければいいのに。
「どうした?」
びくりと身体が跳ねる。
「な、なんでもない」
こちらを見ている大輝の目を見ることができない。自然、俯いて独り言ちるような形になった。
大輝が声をかけるほど、僕は感情を表情に出していたのか……?
自分が醜く思えて、立ち上がらずにはいられなかった。
「よし、これだ。早速頼むわ」
僕が立ちあがったのと同時に大輝も立つ。
「あ、ああ」
僕は椅子に座り、大輝の書いた文章を読み始めた。努めて、真面目に――
そして通読し終わり、一息ついた。
「お前、読み直しやったか?」
「とりあえず書いただけだからやってない」
僕は頭を抱えた。
「そこからなのか……いや、確かにこの前言うのを忘れた僕も悪いけど……」
「おい、落ち込む前にどうして読み直さなきゃいけないのか教えてくれよ」
不安そうな顔でこちらを見てくる。僕はそれを、何とも言い難いと思いながら見やった。
「読み直しをしないとだな」
そう言いつつある一文をマウスカーソルで指す。
「こんな感じでバカが書いたみたいな誤字や脱字が残る」
「バカは流石に酷くないか?」
無防備な背後からの首締め。
「ギブ……ギブ……」
腕をバシバシ叩いてようやく外してくれた。
「いや、言いすぎたかもしれないけど、まず読めた文章じゃないのは確かだ」
「マジか」
「マジ」
大輝はおもむろに窓に近づくと、全開にした。
「チクショー!」
そして勢い良く窓を閉めて戻ってきた。
「で、他に直す所は?」
「近所に迷惑をかける所」
「オレの性格の話じゃねぇよ?」
「ギブ……ギブ……」
冗談でもチョークスリーパーは酷いと思うんだ。
「で、他に直す所は?」
さっきとまったく同じ笑顔だ。
「そうですね」
自然と敬語になっていて自分でも笑えた。
「とりあえず今はそれだけかな。一度にたくさん、ってのは厳しいし」
「分かった。とりあえず書き上げたら読み返してみることにする」
それを聞いて、僕はできるだけいい顔をしつつ親指を立てた。
「うっぜぇ」
大輝は腹を抱えて笑いだした。堪え切れず、僕も笑った。




