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家へ帰りはしたものの、義父は出勤していたし、母さんもパートに出ていた。
僕のことを心配して休んだりする、なんて考えはなかったようだ。
自分の部屋で、大輝が届けてくれた鞄からノートを取り出す。
走り書きに近い乱れた文字で書かれたプロットは、日常系のライトノベルだ。
友達や家族との、普通で温かい日常を描いた小説――今の僕に、こんなもの書けるはずない。
ノートを全て破り捨ててしまいたい!
そう思いながらも、僕は静かにノートを閉じるだけだった。
昼飯時になっても、確かにお腹は空いていたが、僕は部屋でじっとしていた。
――僕はどうして小説を書くのだろうか。
ノートの表紙を眺めて思う。
いろいろな理由が浮かんだ。
ただ好きだから、評価されたい、自分の想像が文字になる快感を得るため。
どれもその通りなのだけれど、どれも違うように思えた。
最初に書き始めた時は、ただ面白そうだからという気持ちだったはずだ。
今でもそういう気持ちはある。
けれど、一番ではなくなっている。
今思いついた全部、小説を書き続ける一番の理由じゃなくなっている。
じゃあ、なんなのか。
書きたい、と強く思ったことは最近あっただろうか。
近頃は強く思わないけれど常に書きたいという思いが心の底に流れている気がする。
衝動が、欲求になったのか。
なぜそうなったのだろうか。
そうだ。最初にネットへ上げた小説が評価された時だ。
認められた気がした。
コメントでもない。ただ点数を入れてもらっただけ。
けれど、僕の小説が確かに、真剣に読まれた瞬間があった。
それが嬉しかった。
認められたことが嬉しかった……?
そう、あの頃は、中学に上がりたてで、しかも再婚があって、今までの僕が通用しなくなった時だ。
小説を通して認めてもらったことが、僕は確かに存在すると言ってもらえたように、漠然とだけどそう思えたんじゃないか。
だから、僕は小説を書く。
『我思う、故に我あり』なんて偉い人は言ったかもしれないけれど、僕はそうすることでしかここにいると思えなかったから。
僕の小説は僕の居場所。
これが無いと、僕は他の人から僕がここにいると認めてもらえない。
それは僕が死んでいるのと一緒だから。
だから、僕は生きるために小説を書いているんだ。
思えば、簡単なことだ。
でも、今の僕はそのことに気付くことができて満足だった。
いつの間にか暗くなり始めた空が窓の向こうに浮かぶ。
もう母さんは帰ってきているだろうか。
下に降りて様子を見てみようか。
でも、もし義父がいたら……?
いや、いてもいなくてもどっちだっていい。
何もされないようにすればいいんだ。
そう考えながら一階へ降りる。
異音がしてくる。
首を傾げながら居間の戸を引くと、母さんが虐げられていた。
床にボタンが飛び散り、服を乱れさせた義父と母さん。
僕は茫然と立ち尽くした。
虐げられているように見えた母さんは、悦んでいた。
二人の姿は、まるで動物のオスとメスのようだった。
僕は静かに戸を閉めると、離婚する前の母さんの面影を思い出そうとした。
上手くいかなかった。
衝撃と言うにはあまりにも鋭く僕の心を抉る光景だった。
息を乱れさせて腰を振るあの仕草は、ただ野蛮だった。
気付くと、手足がブルブルと震えていた。
怖い。
気持ちが悪い。
吐き気とともにせり上がってくるものを何とか抑えて自分の部屋に入った。
鞄だけを持って部屋を出る。
そしてそのまま家も出る。
とりあえず大輝の家に行こう。
まずは落ち着かなくちゃ。
頭がぼんやりと痛く、はっきりと重く感じた。




