事実は小説よりもきなりすぎて笑えない
澄みわたる青空と、小鳥の歌に柔らかな日差し。
カップの中に揺れる琥珀は芳醇な香りと、午後の優しい空気を演出する。
「姉上。おかわりはいかがですか?」
金糸を風に遊ばせて、空と同じくらい、いや、それ以上の輝きで青の瞳は微笑んだ。
「いいえクリス。それよりも、座りなさい。まるで従者みたいよ。」
「姉上の従者ならば、喜んで。」
「ふふ。冗談よ。寂しいから座ってちょうだい。」
すると、陽だまりの笑顔で向かいに腰を下ろした。
さて、この少年は私の弟。
詳しく説明すると、義理の弟にあたる少年だ。
これまた複雑な存在で、実父の隠し子的な。
腹違い的な。
婚外子的な…。
そんな彼を私は溺愛している。
それはもう、目に入れても痛くない程には入れ込んでいる。
普通は、婚外子の同い年の男、とくれば険悪な関係が想像されるでしょう。
ではなぜ、そうでは無いのか。
それは私が普通でないから。
どう普通では無いのか。
それは、ゲームの中の悪役令嬢としての記憶があるから。
しかも、悪役令嬢は悪役令嬢でも、BLゲームの!当て馬!悪役令嬢!
では、この衝撃を回想でご覧くださいまし。
その日は、昨夜から降り続く雨が更にはげしさを増した、暗い暗い午後の事だった。
「お母様っおかあさまぁっ!」
私の声に答えるように、細く骨張った手に力が込められた。
長く患っていた最愛の母が、天に召されたのはその日の夜だった。
葬儀は、私の十の誕生日を迎える1か月前に執り行われた。
姿を現した父は、葬儀を終えると私に声をかけることなく、屋敷を後にした。
泣きに泣いて、この世の終わりのような気持ちのままベットに沈む。
もう何もかもどうでもよかった。
『さぁ。この私、エターニア・ブロレス・フォンティエーヌの首を跳ねなさい。ふん。温情のつもり?だから貴方は出来損ないなのよ。』
『私はフォンティエーヌの気高き公爵令嬢。貴方のように、逃げも隠れも致しませんわ。』
『穢らわしい。触らないでちょうだい!』
『邪魔な者は消してしまえばいいわ。そう教わったもの。』
『フォンティエーヌは私のものよ!』
『クリス。早く私の前から消えてちょうだい。』
『まるで娼婦ね。貴方の母と同じ。身体でも使って誘惑したの?おぞましい。』
『時期王妃はこの私!誰にも邪魔などさせないわ!』
『…良い……幕引きじゃ…ない。』
「ぎゃあああああっ!!!!」
夜中に飛び起きた私は汗で全身が濡れていた。
荒い息のまま、ゆっくりと鏡を観る。
バクバクと打ち付ける心臓を胸を抑えることでなだめてみるけれど。
子供だましにもならないそれに、とうとう腰を抜かした。
「な、なに。え?」
洪水のように押し寄せてくる記憶に、激しい頭痛にギャーギャーと喚くことしかできない。
「お嬢様!?お嬢様!!」
私の叫びを聞きつけた、侍女のトエルが慌てた様子で背を摩っている。
「と、とえ…?」
「ええ、トエルですよ。」
「追い出した…はずじゃ…」
「!?なんて事を仰るんです!トエルは例えお嬢様に嫌われたとしても、足首掴んででもお傍を離れませんよ!?」
目を大きく見開いてから、その瞳を潤ませて私を抱きしめる。
「たとえ何があっても、トエルはお嬢様の味方です。」
その言葉に私も涙が溢れた。
記憶の中の私は、このトエルさえ自分の為にこき使い、汚い仕事をさせた挙句切り捨てたのだ。
どうして、そんな事が出来よう。
「悪い夢を見たのですね。大丈夫。大丈夫ですよ。お嬢様……。」
そう。悪い夢。
何時もの私ならそう思っただろう。
しかし、この瞬間にも自分がやらなければならない事が溢れかえっている。
私は私の運命を、己で変えねばならぬという強い使命が……。
「トエル。お願いがあるの……。」
この記憶が夢であれば良いと願いながらも、じっとしていることは出来なかった。
広い食堂に用意された食事を貪りながら、精力をつける。
飯を食わねば戦は出来ぬ。
……どこの言葉だったかしら。
しかし的を射ているわね。
その通りだもの。
モッシャモッシャと口と手を動かしながら、多すぎる量を食べきった。
「お、お嬢様が……っ!完食なさるなんて……っ!」
料理長が目頭を抑えている様子に声を掛けてやりたいが、そんな時間がない。
ない……が……!
「何時もありがとう。……美味しかったわ。今日からちゃんと食べます。」
感極まる料理長を背に歩き出す。
ああやめて、そんなに叫ばないで!
ご飯を完食したくらいで……っ!!
父の執務室に入ると、壮年の男女が振り返る。
「お待ちしておりました。お嬢様」
執事長のグリフォン・デュードロップ
「ご要件を伺いますわ。お嬢様。」
メイド長のアニー・ウィットモア
代々、フォンティエーヌに使える筆頭だ。
この2人に認められなければ、この先の壁を突破することはできない。
ピリリとする空気に、生唾を飲み込んだ。
初めまして。
わんこと申します。
私の癖を集めた小説となりますが、少しでも共感してくれる方がいらっしゃいましたら、大変幸せです。
ハッピーエンドを目指して、エターニアと走ります!
頑張ろうね!!




