浴室にて
浴室に響くシャワーの音。
あたたかい湯気の中、ソマは背中を向けたまま小さく息をついた。
心臓がずっと忙しなく鳴っている。
背後からそっと、リンネの手が伸びてくる。
泡立てたシャンプーを、ソマの髪に優しくなじませる指先。まるで、壊れものに触れるように。
「君の髪、さらさらだね」
「えっ…そうですか?」
「うん。香りもいい。僕は、君の匂い好きだな」
湯気の向こう、リンネの瞳がほんのり曇って見えた。
その様子に胸がチクンとして、ソマはそっと口を開いた。
「…ごめん。少し考え事をしていたの、私」
リンネが黙ってこちらを見る。
「リンネはロボットで、私は人間。
リンネは歳を取らないけど、私はこれから変わっていく。肌も、髪も、心も、すぐにおばあちゃんになってしまうわ。
そう考えたら、すごく怖くなって」
目を伏せたソマの声は、かすかに震えていた。
リンネは少しだけ間を置いて、微笑んだ。
「そんなことは心配いらないよ。人間に合わせて、いくらでもカスタマイズ出来るんだから…」
「カスタ マイ ズ⁈」
「つまり外見だけ人間の年に合わせることが出来るんだよ」
「べ、便利なのね…」
そして、リンネはソマの濡れた髪をゆっくりと指で撫でながら、その耳元に顔を寄せた。
「君のぬくもりに、僕はずっと触れていたい」
「……わたしも」
思わず振り向いたソマの唇が、リンネの唇に触れた。
それは偶然のようで避けることもできたはずなのに、どちらも目を閉じていた。
しっとりと湿ったキス。
湯気に包まれた静けさの中で、音もなく、心だけが強く重なっていく。
リンネの手が、ソマの頬に触れ、やがて肩へ。
濡れた髪の間をすり抜けて、首筋にそっと添えられたその指先から、痺れるような感覚が走った。
「…もう少しだけ、このままでいてもいい?」
ソマは、リンネの胸に額を預けて、小さくうなずいた。
機械仕掛けのはずのその胸から、静かなリズムが伝わってくる。そんなはずはないのに…
それがまるで、本当に生きている誰かの心音のようで――
彼女の不安も、寂しさも、全部溶けていくようだった。




