木曽中央警察署との共同取締その1
さて…長々と休載しておりましたが、再開いたします。
午前9時30分 国道19号・木曽町某所
真夏の陽射しがアスファルトを白く照り返す中、長野総合通信局のアンテナ搭載車と木曽中央警察署の覆面パトカーが国道沿いに並んでいた。
今日の任務は合同取締──不法無線局を検挙することだ。
「事務官、現場では必ず役職名だけで呼びます。理由は……まあ、後で話しますけど」
運転席の戸隠弘明が、昼行灯のような声で釘を刺す。
新人の島見杏果は小さく頷いた。彼女の現場呼称は「事務官」だ。
午前9時42分
触角役の名立達彦は、国道沿いの高台で双眼鏡を構えていた。
やがて、接近する大型トラックの屋根に、1.5メートルほどの金属アンテナを発見する。
それは送電線鉄塔をミニチュアにしたような格子状のタワー型アンテナ。
不法市民ラジオ搭載車の象徴とも言える形だ。
「タワー型確認。白地に青ラインの大型、山梨ナンバー、458塩尻方面進行」
無線に短く告げると、木曽中央署生活安全刑事課の御岳警部が応じた。
《了解、停止ポイントで待機する》
午前9時45分
停止位置に立つ制服警察官たち。
御岳警部は、まだ電波法違反とは告げず、運転席へ近づいた。
「運転手さん、ちょっと降りてもらえますか」
ドアが開いた瞬間、御岳警部は思わず顔を顰め
「おおっ…これは…。開田巡査長!飲酒検査キットを地域交通課から大至急持ってこい!運転手は免許証と車検証持ってすぐ降りろ!」
と、叫んだ。
戸隠は御岳に駆け寄り、何があったのかを聴いた。
御岳は少し厳しい顔で
「あ、総通さん…実は運転席が空いた途端尋常ではない位のアルコール臭がしましてねぇ…飲酒の方を先やっても?」
と答えた。
「まぁ…そちらの方が一般市民への危害に直結しますからね…。しかし、こんな大物をよく酒飲んで運転してきたなぁ…」
昼行灯の悪名高い戸隠でも呆れていた。
午前9時46分
検知器の数値は基準値を大きく超過。
運転席の男──60代と思しき顔の赤いドライバーは、声を荒げてシートにしがみつく。
「ふざけんな! 酒なんか飲んでねぇ! これが俺の仕事道具だ!」
御岳警部が低く言う。
「酒気帯び確認、数値も0.5ml/l出ています。まず降りていただきます」
男は腕を振り払い、軽く暴れたが、制服警察官2人に両脇を固められ、強制的に引きずり出された。
午前9時50分
ようやく安全が確保されたところで、通信局の出番。
「事務官」島見が簡易周波数カウンタ付電力計とともに車内に乗り込み、不法無線機の測定にかかる。
しかし、助手席足元に転がる物を見て思わず固まった。
──一升瓶が3本。うち2本は空、残りの1本も半分近く空になっている。そして、ドリンクホルダーにはワンカップと飲みかけの日本酒…
ラベルには堂々と「純米吟醸」と記されていた。
「……電波監視官、助手席に酒瓶が。しかも……かなり飲んでます」
「…とりあえずそれは気にしなくていい…。無線機の型番と周波数と電力を読み上げろ。」
と、戸隠は島見に促した…。
「NASA72GX2 27.0051MHz、出力9.8W。市民ラジオの規格を大幅超過しています」
それを聞いた戸隠は冷静に話した。
「よし、事務官降車せよ。御岳警部、この車両については電波法第4条規定を満たさない不法無線局の現行犯として木曽中央警察署に告発いたします。…しかし…本鑑定のため無線機などの取り外しをさせなけれはなりませんが…どうしましょうか?あの様子だと、脚立から落ちてもおかしくないですし…。」
「うむ…それなら、この後飲酒運転で被疑者を留置することになるので、この事情聴取のため運転管理者と車両の継続運行のために運転手を雇い主の運送屋の中津川営業所に要求したので、その者にやらせましょう…。しかし…。やはり目視でのアンテナ判別と現場測定は助かる。役職呼びだけというのも納得だ、身元を知られると司法権のない総通では面倒だからな」
島見はようやく理由を理解して頷く。
名立はすでに次の監視に集中しており、戸隠は缶コーヒーを開け、空を見上げてぼそり。
「……さて、もう一件くらい来る気がするな」
御岳警部は苦笑しながら「その勘はよく当たる」と返した。




