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有閑閑話『特異点』

実際に作者が体験した話を元にしていますが、スッとFM長野からNHK-FMに変わったのには思わず笑ってしまいました。

プロローグ


梅雨の晴れ間が覗く諏訪市の山中。戸隠弘明は愛車のハイエース特殊監視車に乗り込み、諏訪湖カントリーゴルフクラブへと向かっていた。

車載のAOR社製短波SDR受信機AR-6800αが、79.7MHzのFM長野の放送を受信している。

だが、ふとした瞬間、音声が途切れ、別の放送が混入する事象が発生した。


「なんだこれは…」戸隠は眉をひそめる。


地元から、「79.7MHzで聞こえる放送がおかしい。不法無線局かもしれない」との申告が総務省電波監視課に寄せられていたのだ。戸隠はその真偽を確かめるため、現地調査に向かっていたのだった。


車窓から見える諏訪の山々は濃い緑に包まれ、湿った空気が辺りに漂う。電波の異常現象を解析するのは簡単ではないが、戸隠は慎重に車を走らせた。

---

第1章 謎の混信現象


諏訪湖カントリーゴルフクラブの入口付近に車を停め、戸隠は機材を持って周囲を歩き始めた。

携帯型のスペクトラムアナライザー、KeysightのN9996Bリアルタイムハンドヘルドスペアナで79.7MHzの電波を測定しながら、山あいの地形を見渡す。


「ここが申告のあった場所か…」

同行している名立達彦総務技官が無線機のディスプレイを覗き込み、報告する。

「確かにFM長野の電波が弱くなってますね。代わりに…あれ?」


その方向を見ると、遠く三重県方面から発射されているNHK-FMの同じ周波数の電波が山の谷間を通って、見通し線に入っていた。


「つまり、地形の影響で地元のFM長野の電波が遮られ、その隙間に三重のNHK-FMが強く入り込んでいるわけか」

戸隠は頷いた。


「不法無線局の可能性は低そうですね」名立が言う。


戸隠はこの珍しい電波伝搬の特異点を調査しつつ、申告者への説明方法を考えた。

このような電波のトリックは一般の人には理解が難しく、誤解を招く恐れもある。


「SNSで誤った情報が広まらないよう、きちんと説明していかないとな」


二人は、現地調査のための記録と報告書の準備に取り掛かった。


---

第2章 申告者への説明とSNSの反応


諏訪市内の住宅街にある山田和也の自宅。玄関先で戸隠と名立が呼び鈴を鳴らすと、30代半ばと思しき山田が少し驚いた表情で現れた。


「山田さん、お時間いただきありがとうございます。先日はご申告の件でご連絡いただき、感謝します」

戸隠は手短に挨拶を交わす。


「いえ、こちらこそ調査していただけるとは思わなかったので助かります」

山田は少し興奮気味に応じた。


戸隠は持参したAOR社製短波SDR受信機AR-6800αと、Keysight製リアルタイムハンドヘルドスペクトラムアナライザN9996Bを取り出し、実際に測定したデータをスマホに転送した画面を見せた。


「こちらが先日、現地で受信したスペクトルデータです。FM長野の79.7MHzの電波強度が、諏訪湖カントリーゴルフクラブ近辺で大幅に低下しているのがわかります」

戸隠が画面を指し示す。


「その弱まった電波の影響で、三重県のNHK-FMの79.7MHzが山の隙間を通って到達しています。二つの同じ周波数の電波が混信してしまうため、放送が切り替わるように感じられるんです」


名立が補足した。

「地形の影響で局所的にFM長野の電波が遮られ、逆に遠方のNHK-FM電波が強くなる、珍しいけれど自然な現象なんですよ」


山田は納得しつつも質問を重ねる。

「この現象は、普通にしていても影響あるんですか? それと、今後不法無線局だと誤解されることは?」


戸隠は少し考えてから答える。

「この地域の特定ポイントでのみ起きる現象で、通常の受信にはほとんど影響ありません。今回のように混信に気付くのは稀です。誤解を避けるため、我々は調査結果を外部に公開し、地域の皆さんに正しい理解を促していきます」


山田は安心した様子で、

「本当にありがとうございました。僕のSNSでも調査結果をシェアしておきます」


数日後、山田の投稿は諏訪市周辺で話題となり、同様の体験をした人々からの反響が続々と集まった。

戸隠と名立は、SNSの書き込みを見ながら、

「こういう自然現象が誤解を生むことも多い。監視官としては誤情報を正すことも大事な役目だ」

「まったく、電波の世界は奥が深いですね」と名立が笑った。

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