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 第1章 第5節:「幼児退行」

「でも、あなたは来ました。私の砂粒のような時空をあなたが共有してくれたのです」

虚ろにひざまずいた私を見ながら、女は静かに近寄って来た。

そしてかたわらに座り、私の頭を女の膝へといざなったのだ。


女は、幼子をいつくしむように、やさしく私の頭を撫でながら呟いた。

「あなたは、私と同じ匂いがします」


私は、薄れゆく意識の片すみで女の言葉を聞きながら、全てを女にゆだねていた。


女の太腿ふとももぬくもりが私の頬に伝わった時、私はいつしか安堵という羊水に満たされた胎児へと戻っていったのだった。


私が意識を取り戻した時、女はまだ私の頭を撫で続けていてくれた。


私が薄っすらと眼を開けたのに気づき、「あなたも死を望んでいるのですね」と女はささいた。


それは、今までと違って優しさの籠もったものだった。

私は、思わず女の膝に涙をこぼした。


凍てついた心が融けて涙となり、止め処なく流れ出した。

そして、押し殺した嗚咽が静寂の谷に漂った。


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