第2章 第4節:「二足歩行」
私が煮え切らない返事をしたためなのか、環は子供に言い聞かせるように静かに話し始めた。
「五百万年ほど前に、人類のメスは月に一度排卵できるようになり、一年中妊娠することが可能になったのです。いつでも妊娠しているために思うように動くことのできないメスは、食糧採取をオスに依存するようになりました。
数少ない子供を確実に育てられるように、オスは食糧採取、メスは子育てに専念することにしたのです。
それが、人類の選んだ種族繁栄の戦略だったのです。
そのため、メスは自分や子供に充分な食糧を与えてくれるオスだけを選択的に受け入れたのです。
オスは、大量の食糧を確保しなければなりませんでした。手で掴んで持って来るのは限界があります。ある時、オスは二足歩行して手で食糧を抱えれば、大量にメスの元に運べることに気づきました。その時から、人間は二足歩行を選択したのです。
しかし、それだけでは終わらなかったのです。人類は今必要な分だけでなく将来の分をも取得し蓄えることにしたのです。それが所有欲の始まりでした。飽くことの知らぬ所有欲が頭脳の著しい発達を促し、人類は次々に強大な道具を生み出しました。
そして、とうとう全ての生物の頂点に立ってしまったのです」
環はこれだけ言うと、遠くを見つめ沈黙してしまった。