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 第2章 第2節:「口実」

環は、メールを就寝前に送ってくることが多かった。

きっと、私に迷惑をかけまいと確実に一人でいる時を狙っているのだろう。


そして、二人とも敢えて電話で話そうとしたことがなかった。

言葉はその時の勢いで、思いがけないことを口走ることがある。

真意が伝わらずに相手を傷つけてしまうことがないよう、互いに思いやっているのだ。


メールの内容も、「元気ですか」といった取り留めのない内容だった。

私と繋がりを保っていることだけで、充分心の支えになっているらしく、環の壊れやすい心は、私の存在をバリアとして安定しているようだった。


私自身も環のための存在意義を確認し、かつてない充実感を味わっていた。


「今度山に行きませんか」

環と出会ってから一月程経った頃、環から思いもかけないメールが入った。


メールを交換するようになって以来、直接会うことはなかった。

そのことが、世間に対する後ろめたさから私を解き放っていた。


会ってしまえば、環の安らぎに溺れてしまう自分の弱さを、いやと言うほど私は身に染みていたのだ。


『環を生贄にしてはならない』

そう思いながらも、心の片隅では環に会う口実を必死に探している自分を、決して追い払うことができなかった。


結局、山歩きのメンバーが増えただけなのだと自分に言い聞かせ、次の日になってから「土曜の朝、迎えに行きます」とメールを返した。


行先は、今までの人気ひとけの無い山と違って、人波の絶えない百名山を選んだ。

二人を衆人環視の状況に置くことで、“決してやましい事はない"と世間に対する申し開きとしたのだった。


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