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【03】双主の里の奇天烈な昔話。

【毎日昼の12時と夕方の18時の2回更新します】




私の別作品「空から来たりて杖を振る」も、どうぞよろしくお願いいたします。



 翌朝僕は始発に乗って悟郎さんのアパートに向かった。

 ノックをすると悟郎さんはすでに起きていて、驚いたことに部屋から沙由理さんも出てきた。

 どうやら悟郎さんの部屋で一晩過ごしたらしい。

 

 

 

「へえー。車買い換えたんですか?」




 駐車場には真新しい大きな四駆のミニバンが停まっていた。

 車高が高くオフロードでの走破性が良さそうなのが素人の僕でもわかる。

 

 

 

「ああ、先月だ。それで調子こいて飛ばしたら白バイに捕まってしまった」




「調子こいてるのはいつもでしょ? 先々月も捕まったじゃない」




「あのな。甥っ子の前であんまり失敗談を話すな」




「あら、どうして?」




「俺はこれでも龍児のあこがれの兄貴なんだ。夢が壊れるだろう?」




「へー、そうなの? 龍児くん」




「うーん。そう言うことにしておきます」




 僕らは楽しく雑談をしながら高速を乗り継ぎN県に到着した。

 インターチェンジを降りたころはもう午後を回っており今日の日程は宿に向かうだけだった。

 

 

 

 国道と県道が交差する大きな交差点で停まったときだった。

 パトカーが数台停まっていて警官が停車した車にチラシを配っているのが見えた。

 

 

 

「なにがあったんだろう?」




「あ、こっちにも来ますね」




 窓を開けた悟郎さんが警官からチラシを受け取った。

 警官は敬礼をして去って行く。

 

 

 

「なにが書いてあるの?」




 二列目のシートから身を乗り出して沙由理さんが悟郎さんに尋ねた。

 

 

 

「うーん……。不審人物及び車両を目撃したら連絡してくれ、ってことらしい。

 先週、中南米産と思われる大量の麻薬が搭載されたトラックが見つかったらしいんだ」

 

 

 

「あ、それ、僕、ニュースで見ました。

 検問をしてたらそのトラックが捕まってドライバーたちは後ろの荷物が発見される前に逃げちゃったんですよね。

 調べたら車は盗難車で身元がわかるものはいっさいなかったらしいんです」

 

 

 

「ああ、それだ。書いてある」




「N県だったんですか? すっかり忘れてました」




「でも変ね?」




 沙由理さんが首をかしげるのがミラー越しに見える。

 

 

 

「どうしてだい?」




「だってここのN県には海がないでしょ? 国際空港だってないわ。

 どうしてこんな内陸で発見されたのかしら?」

 

 

 

「確かにそれは変だな。

 違法な薬の買い手だって、こんな地方都市じゃそんなにいる訳ないしな」

 

 

 

「中継基地として人口が少ないところを選んだってのも考えられるわね」




「ま、考えられるならどこだって考えられるさ。

 犯人が逮捕されればすべてわかるんだろうけどね」

 

 

 

 悟郎さんは後ろに座っている沙由理さんにチラシを手渡した。

 

 

 

「ウバタマの一種って書いてあるわ。

 でもウバタマってどんな植物なの? 写真がないからわからないわ。

 まったく警察ってお役所でこう言うこといい加減なんだから……」

 

 

 

「そんなもんだよ。

 さっきの警官たちだって上からの命令でやってるだけだからね……。

 でも、まてよ?」

 

 

 

「どうしたんですか?」




 僕は助手席の悟郎さんに質問する。

 

 

 

「ウバタマ……。

 どっかで聞いた気がするんだが……。

 まあ、いい。どうせ俺たちには関係ない」

 

 

 

 ミラーに視線を送ると悟郎さんだけでなく沙由理さんももう興味を失ったようで、三列目のシートにチラシを放り投げるのが見えた。

 

 

 

「宿は高原牧場で高度が二千メートル以上もあるんだ。

 山小屋に毛が生えた程度で豪華とはいえないが、きっと夜明けの景色は絶景だ。やっぱり旅はこうでなくっちゃな」

 

 

 

 助手席の悟郎さんがシートを後ろに倒して楽な姿勢になる。

 そして両手を伸ばして大きく伸びをした。

 

 

 

「ちょっと経費を公私混同してない?」




「そんなことあるもんか、双主(ふたぬし)の里には宿がないんだ。もっとも近い宿がそこなんだ」




 車は快調に山を登り始めた。ホテルまでの道のりは遠くて、途中三度ほどドライブインで休憩したこともあるが、到着したのは午後五時だった。

 

 


 □ □

 

 


「昔、双主の里は常白(とこしろ)の里と呼ばれていたらしい」




「トコシロの里? どう言う意味です?」




 ホテルの部屋の一室である。

 僕は男同士と言うことで悟郎さんと同室だった。

 夕食も終えてくつろいでいたときだった。

 

 

 

 僕が大浴場から帰ってきたら畳の上にしかれた布団に悟郎さんが横になっていた。

 着ているのはもちろん浴衣で枕元にはビール瓶とコップがあった。

 手には古そうな本を持っている。

 

 

 

「常白の里とは一年中霧が多くて下界から閉ざされている里だったからなんだ。

 そこはとんでもない山奥で米も取れず田畑も少ない貧しい里だったようだね」

 

 

 

 悟郎さんはうつぶせになったままページをめくりながら言う。

 どうやら茶色に変色したその古本に書かれていることらしい。

 

 

 

「その本、どこで手に入れたんです? 

 僕は以前インターネットで双主の里のことをずいぶん調べたんですけど、こんな話はなかったな」

 

 

 

「ああこれは俺が大学時代に買ったものだ。

 臨時講師で来ていた恩師が薦めてくれた本なんだ。

 その当時でも入手困難な本でね、古本屋を何軒もまわってやっと手に入れたんだ」

 

 

 

「へー、すごいんですね」




「この本は明治の始めのころに民族学者が収集した民話の集まりで、昭和の中頃に復刻されたものなんだ。

 双主の里って沙由理くんがいい出したとき、ふと思い出したんで実家で探してきたんだ」

 

 

 

 僕は悟郎さんが得意気に差し出すその本を受け取った。

 

 

 

 中身を見るとページには旧仮名遣いの活字がぎっしり詰まっていて、ながめているだけで目がくらみそうである。

 

 

 

 どうしてこの手の書物と言うのは読み手に根気と努力を強いるようなものばかりなのだろう? 

 まるで暗号で書かれた伝説の書だ。

 僕は一ページもめくらずにそのまま悟郎さんに押し返す。

 

 

 

「読まないのか? 

 せっかく双主の里に行くんだ。なにかの参考になると思うぜ?」

 

 

 

「結構です。ここまで来て古文の勉強をする気にはなれませんから」




 僕は悟郎さんのにやにや笑いを無視した。

 

 

 

「……まあ、いいだろう。

 これは仮名遣いが旧字と言うだけで古文と言うにはちょっと間違っているが、確かにお前が拒否するのも当然だな。

 こう言う書物だって大事なのは中身の内容なのに、まず文法を覚えさせることから始めるのが現在の教育だしな。

 高校で教わる古文だって現代の文法で書かれていれば生徒の拒否反応だって少ないだろうな」

 

 

 

「それだと受験が楽ですね」




 もちろん僕は古文が苦手である。

 あの意味不明な文法がさっぱりなのだ。

 

 

 

「まあ、そうなんだ。

 確かに受験のために古文は文法を覚えることから始まる。

 本当は古い書物に書かれている内容を知ることが第一のはずで、そのことに興味を覚えたやつが大学の国文学科とかに行って難しい原書を読めばいいと俺は思うんだ。

 大切なのは中身の理解のはずで、高校レベルは現代文で教えるのでもいいと思う。

 で、文法はその次の段階だ。

 ……中身のおもしろさがわからないのに文法を先に教える。変な話だよ。

 ……ま、これは学校の英語教育にもいえることだがね」

 

 

 

「ぶっちゃけアニメにしてくれると更にいいんですけどね」




 僕がそう答えると悟郎さんはすぐさま苦笑いになる。

 さすがに砕けすぎたようだった。

 

 

 

「……話が脱線し過ぎたな」




 身体を起こして布団の上にあぐらをかいた悟郎さんが本のページをめくった。

 

 

 

「その常白の里、つまり昔の双主の里にはわずかながらも畑があり、里人のほとんどは『草玉(くさだま)』作りを生業としていたらしい。

 そしておもしろいことに麓の村とは三日歩き続けてやっとたどり着く仙人が暮らすような場所だったにも関わらず、年に一度役人たちが訪れて『草玉』とか言う農産物を高く買ってくれたらしいんだな。

 その草玉は高価な薬として珍重されていたんだが、とてもにがい草で食べられるものではない。

 それに食べると変な夢を見るので里人は決して口にしなかったらしい……」

 

 

 

 悟郎さんはページを指でなぞりながら僕に説明を始めた。

 

 

 

 双主の里がとんでもない山奥にあるのはわかった。

 どうしてそんな場所に人が住み始めたのか? と言う疑問も浮かんだが、僕がまっさきに興味を持ったのは『草玉』とか言う作物だった。

 

 

 

「なんですか? その『草玉』とか言うものは?」




「うーん。俺にもよくわからないんだ。

 玉とあるから植物になる実とかじゃないのか?」

 

 

 

「つまり……、ミカンとかリンゴみたいなものですかね?」




「ミカンやリンゴってことはないだろう? そんなものは昔の人だって知ってるさ」




「そう言えばそうですね。……それに食べると変な夢を見る、ってのもおかしいですね?」




 僕がそう言うと悟郎さんは頷いた。

 

 

 

「ああ、その通りだな。

 だがこの昔話は変な果物が主役じゃない。この後この話はどんどん変になるんだ」

 

 

 

「変? どうなるんです?」




 僕はその話の先が気になった。

 

 

 

「ああ、……この里には藤助(とうすけ)と言う若者がいたんだ。

 この話はこの藤助を中心にして進んで行く」

 

 

 

 悟郎さんはそこまで言うとコップのビールを一息に飲み干した。

 そして文章を指でたどりながら話し始めた。

 

 

 

「里には藤助と言う若者がいた。

 藤助は先頃行き倒れていたのを里人に助けられた若者だ。

 ある日芝刈りに山に入ると深い霧で道に迷ってしまった。

 

 それはとてもとても深い霧でまるで白い夜のようだった。ようやく見つけた藤助の家に入るとそこは里の医師の家だった。

 

『ははあ、藤助。さては道にまようたな』


 道に戻った藤助が家に入るとまたそこは医師の家だ。

 藤助はとうとう天狗さまにお願いした。

 

『天狗さま、天狗さま、どうか家に帰る道を教えてくださいませ』


 すると天狗さまが現れた。

 

『おう、お前は藤助。信心深いお前のことだ。助けてやろうぞ』


 天狗さまは霧を払い道を作ってくれた。

 

『藤助。お前はまもなく嫁をもらう。祝儀を終えたらわしに会いに来い』


 藤助はこうして池まで行くことができた。

 そして藤助は池までやって来た。里へ向かうには池を渡らなくてはならない。

 

『大亀さま、大亀さま、どうか家に帰る道を教えてくださいませ』


 すると池から大亀さまが現れた。

 

『おう、お前は藤助。信心深いお前のことだ。助けてやろうぞ』


 大亀さまは背に藤助を乗せ里まで連れて行ってくれた。

 

『藤助、お前にそのうち子が二人できよう。生まれたらわしに会いに来い』


 こうして藤助は里に無事戻ることができた……」

 

 

 

 悟郎さんはそこまで一気に読み終えた。 

 

 

 

「……それは本当の話ですか?」




「そんな訳ないだろう。

 あくまで昔話だ。桃太郎や浦島太郎の話と同じだと思ってくれていい」

 

 

  

 悟郎さんはにやにや笑っている。

 僕だって信じている訳ではない。

 だけどこれから向かう里にまつわる物語なので、明日訪れる双主の里の不思議な話にどうしても期待してしまう。

 

 

 

「でも、双主の里らしい話ですね。

 天狗と大亀の二つの主がいるから、()()の里。まさに里の名前そのものの伝説ですね」 

 

 

 

「ああ、そもそも常白の里が双主の里と呼び名が変わった根拠ともなる物語だからな。

俺も久しぶりに読み返して興奮したよ」




 悟郎さんはそういって立ち上がると座卓に向かった。

 そしてどっかと座椅子に腰を下ろす。

 そして続きを読み始めた。

 

 

 

「藤助は働き者で器用だった。

 日の出から日の入りまで骨身を惜しまず働くだけでなく、草玉の収穫があがるように工夫を重ねたので里の暮らしはどんどん良くなった。

 

 その藤助が年頃になったころ里の庄屋が嫁をくれた。

 嫁の名はお(ゆう)と言った。

 

 お夕は庄屋のひとり娘で美しく気だてが良い娘だった。

 藤助はお夕を連れて約束どおり天狗さまに会いに来た。

 

『おう、藤助。そのうちお前のところに無法者が現れよう。

 そうしたらみなでわしに会いに来い。首尾良く逃がしてやろう』

 

 天狗さまはこう告げた。

 やがて藤助とお夕の間には子ができた。

 最初は男の子で藤助によく似ていた。二人目は女の子でお夕そっくりだった」

 

 

 

「ヒロイン登場ですね?」




「ああ、まあ、そんなところだな」




 悟郎さんはどうやら興に乗ってきたらしい。

 語りは本格的になっていた。

 

 

 

「そのころ麓では飢饉があり人が大勢死んだ。

 だが里の草玉は豊作つづきで里人が飢えることはなかった。

 

 藤助はやがて庄屋の婿養子となった。

 一家は広い屋敷に移り住んだ。


 藤助とお夕の仲はますます良くなり里人の誰もが二人を見守った。

 ある日、藤助はお夕と二人のこどもを連れて池に来た。

 

 

 

『おう、藤助。そのうち夜逃げの必要があろう。

 そうしたらみなでわしに会いに来い。首尾良く逃がしてやろう』


 大亀さまはこう告げた。

 

 そしてある夏の日のことだった。

 約束もなく役人たちが里にやって来た。

 役人が代替わりしたので新しい役人の顔見せでやって来たのだ。

 

 前の役人は人の良い老武士だったが今度の役人は若くて乱暴者だった。

 庄屋が家族を紹介するとひと目でお夕に惚れてしまったのだ。

 

 『お前さま、お前さま』

 

 夜中のことである。

 眠っていた藤助はお夕に起こされた。

 

『このままでは夕はお役人さまのおもちゃにされてしまいます。

 天狗さま、大亀さまのお告げを行うのは今宵しかありませぬ』

 

 藤助とお夕はこどもたちを連れて夜影に身を潜め、霧深い森へと走った。

 追っ手はすぐに気づき後を追ってくる。

 藤助たちが森につくと朝になっていた。

 

『天狗さま、天狗さま、いつぞの約束、今願います』


『おう、藤助。約束のことしかと聞き届けよう』


 天狗さまはたくさんの天狗を呼び出した。

 追っ手は大いに驚いた。

 そして藤助とお夕と二人のこどもは池に向かった。

 

『大亀さま、大亀さま、いつぞの約束、今願います』


『おう、藤助。約束のことしかと聞き届けよう』


 大亀さまは背に藤助たちを乗せて泳ぎ去った。

 追っ手はとうとうあきらめて藤助たちは遠くの地で無事に暮らした……と、まあ、こんな話だ」

 

 

 

 読み終えた悟郎さんは冷蔵庫から新しい瓶ビールを取り出す。

 ポンっと栓を抜く音が響いた。

 

 

 

「どうだい? 感想は?」




「ええ……、これってなんて言うのかな?」




 僕は言葉を選んで慎重に答える。

 

 

 

「……よくこう言う昔話って、おばあさんが孫に読んで聞かせて、だからこう言う悪いことはしちゃいけないよ、って教えるのがあるじゃないですか? 

 この話はそう言うものが少ないですね。

 せいぜい信心深くすれば助けてもらえるって話だけ……。

 それで最後は逃げられたんですけど、根本的に救われた訳じゃないし」

 

 

 

「寓話性が少ないってことか?」




 悟郎さんがにやりと笑う。

 口の周りにはビールを泡がついていた。

 

 

 

「はい。読んでもなんの教訓もないんです」




「うーん。むしろ教訓があるってのが逆におかしいと俺は常々思ってるんだ」




「どう言うことです?」




 悟郎さんは煙草に火をつけた。

 青白い煙がすっと天井に登っていく。

 

 

 

「なまじ教訓話だと俺は後世の人間の作為を感じるんだ」




「作為?」




「うん。例えばかちかち山を知ってるだろう?」




 僕はかちかち山を思い出して悟郎さんに言った。

 

 

 

「……えーと、あれって、いたずらタヌキがおじいさんとおばあさんを苦しめた。

 だから良いウサギにこらしめらるんですよね? 

 タヌキが乗ったドロ舟が沈んで助けられて最後にはごめんなさい、って謝るんでしたよね?」

 

 

 

「そうだ。

 だから龍児が言ったように教訓として悪いことはしてはいけない、って孫に教えるんだろうね。

 まさに理想的な寓話だ」

 

 

 

「それのどこに問題があるんです?」




「うん、確かに今売られている絵本に書かれているのはそうだ。でも本当は違ったんだ」




「違うんですか?」




「ああ、違う。

 いろいろあるらしいが本当はこうらしい。

 ――悪さをしたタヌキをおじいさんが捕らえてタヌキ汁にしようとした。

 つまりタヌキを殺そうとした訳だ。

 だがタヌキはおじいさんの留守におばあさんをだまして逆に殺してしまうんだ」

 

 

 

「おばあさんは殺されてしまうんですか? 初耳です」




「ああ、撲殺するんだ。

 そしておばあさんをばらばらにして煮込んでしまう。

 そしておばあさんの顔の皮をかぶっておばあさんになりすますんだ。

 なにも知らぬおじいさんが帰ってくると偽おばあさんはその汁をおじいさんに食べさせるんだ。

 ――ババア汁の味はどうだ!ってね。

 そしてタヌキは逃げ出す」

 

 

 

「なんだか怖い話ですね」




「ああ。

 そのあとウサギにだまされたのは同じだ。

 だが沈んだドロ舟からウサギは助けるどころか、小舟の櫂を使って水に落ちたタヌキを叩いて溺れさせたはずだったと思う。

 はたして死因は撲殺か溺死のどちらだったのかって訳だ。

 細かいところは間違ってるかもしれないが、だいたいこんなところのようだ」

 

 

 

「けっこう残酷ですね。

 ウサギがおじいさんに代わっておばあさんの復讐をした。

 でも最初に殺そうとしたのはおじいさんたち。

 だからタヌキの正当防衛とも言えるけど、ババア汁ってのはひどいですね。

 これじゃとてもじゃないけど教訓にはなりません……」

 

 

 

「だろう? 

 だから俺は悪いヤツは懲らしめられるって言う勧善懲悪っぽいのが作り話に思えるんだ。

 誰かが書き換えた物語だってね。

 俺は寓話性がない話の方が本当の言い伝えだと思っている」

 

 悟郎さんはそこでひとつ空咳をする。

 

「……俺はこう言うのが嫌いでね。

 先人たちが何世代にも渡って語り継いできた物を現在の感覚に合わないとかなんとか理由をつけて勝手に書き換えちまってるんだ。

 ……まったく浅はかと言うか思い上がりも甚だしいと言うか」

 

 

 

「じゃあ、この双主の里の話が本当って言うんですか?

 悟郎さんとは思えない発言ですね」

 

 

 

 僕が尋ねると悟郎さんは笑いながら顔の前で手を振った。

 

 

 

「いや、いや、違う。

 俺はその物語の中身が真実って言ってんじゃなくて、その話には手が加えられていないって言いたいんだ」

 

 

 

「そう言う意味ですか。

 ……それが本当にあった話ならおもしろいんですけどね」

 

 

 

「まあ、オカルト好きのお前にしたら、そっちの方がいいんだろうが、伝説はあくまで伝説さ」




「ふーん。でも亀の背中ってのはともかく、天狗が大勢現れたってのはおもしろいですね。

 まるで分身の術だ」

 

 

 

 だが悟郎さんの興味はすっかり失せたようで、その返事は大あくびであった。

 

 

 

「……もう寝よう。明日の朝は早い」




 そして最後のビールを一気飲みすると、さっさと立ち上がり明かりを消してしまう。

 

 

 

 ……まったく。悟郎さんが自分勝手なのは昔からなので慣れてはいるが、少しばかり悔しかったので大げさに舌打ちをしてみた。

 だが悟郎さんはすでに熟睡しているようで、返ってきた反応は地響きのような高いびきだった。



よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


 


 


私の別作品


「空から来たりて杖を振る」連載中


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み


 もよろしくお願いいたします。

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