あなたと二人で.........
ご覧になってくださりありがとうございます!今回は川遊びのお話です! と言っても、主人公は相変わらずですが......
「「わーーー!! 川だーー!!」」
川だな。どこからどう見ても川だ。
幼い二人はさっさと水着へと着替え終え、準備運動をせずにザバザバと水の中へと入っていく。
「こら、二人とも! ちゃんと準備運動をしないと怪我をしちゃうわよ!」
すかさず千歳が注意し、二人を岸へと呼び戻す。そして、三人一緒になってストレッチを始めた。
千歳が二人の前でストレッチを行い、二人がその動きを真似る。まるで体育の授業だ。
そんな風景を、オレは川岸にある木陰で黙々とイルカのフロートを息で膨らましながら眺めていた。
此処へと連れてきた執事の男は、岸沿いの堤防の上からオレ達を見下ろしている。
ある程度フロートが膨らんだところで、その堤防から声が降ってきた。
「おーーーい!」
ふと堤防を見上げると、自転車に跨がりオレへと手を振る一馬の姿が目に入った。
そのズボンは既に水着で、到着と同時に泳ぐ気満々なのがみてとれる。
一馬は堤防を自転車で駆け降り、オレの隣で停車した。
「お! イルカじゃねぇか! 膨らんだらオレに貸してくれよ!」
「嫌だ。先ずはオレが使う」
「じゃあその後で」
まぁ、このフロートはオレのじゃないけどな。
あのちびっこ達が持ってきていた物だ。
「あれ? 千歳ちゃんは水着じゃないのか?」
川の浅瀬で子供達と戯れている千歳を見てぼやく。千歳はいつもとは違う黄色のワンピースの上に桃色の薄手のカーディガンを羽織っている服装だ。
「アイツは体が弱いからな。あんまり直射日光に晒されるのは良くないんだよ」
「あー、そういうことね」
納得はしたみたいだが、やはりその顔には落胆の色が浮かんでいる。
「ユウー! かずまーーーー!!」
そんな話をしていると、またも上から自転車に乗った桐花と渡が降りてくる。
二人は一馬の自転車の横に駐車し、オレ達の元へと歩み寄ってきた。
「やあ、さっきぶり」
肩に水泳バッグを担いだ渡が話し掛けてくる。
「ホント久し振りよね、この四人で此処に遊びに来るの」
手提げタイプの水泳バッグを両手で持ち、穏やかな笑みを浮かべている桐花。
そうだな。確か小学生以来か。
中学に上がると同時に遊ぶことも少なくなったため、必然、此処に来ることもここ数年無くなっていた。
「さて、じゃあ全員揃ったことだし、泳ぐとしようぜ!」
一番に川へと駆け出す一馬。
「あ、ちょっと待ちなさいよ一馬!」
その背中を追いかける桐花。
「二人とも、焦ると転んじゃうよ? 滑りやすい岩が足元にあるかもしれないんだから」
二人のように走ることなく、落ち着いた様子で川に向かって歩いていく渡。
川に入ってきた三人に気づいた千歳が、笑顔で三人に声を掛けている。
「............よし」
そしてイルカのフロートを膨らまし終えたオレも、川に入るため立ち上がる。
その時、背後から声を掛けられた。
「気遣いはほどほどにしてくださいね?」
振り返ると、いつの間に堤防を下りてきていたのか、執事の男が立っていた。
「......? どういう意味だ?」
「いえ、気づいていらっしゃらないのならそれで構いません」
「......」
男の言葉の意味が理解できずしばらく頭が混乱したが、まあ、大して気にしないようにしよう。
オレは止めていた足を動かし、川に向かった。
..................
目の前に広がる青空。そこに存在するのは大きな入道雲が一つと、小さな雲の群れ。
オレはその景色をイルカのフロートに寝転びながら眺めていた。
熱い日射しがオレの肌を焦がすのが、今は何故か心地良い。
「ほら、そっちに行ったぞ桐花!!」
「って!? こんなの拾えるわけないでしょ!?」
オレ以外の全員が、遠くでゴムボールのバレーをしている賑やかな喧騒が耳に届く。
そんな穏やかな空間に包まれ、オレは眠気が極限に達してきていた。
───────ああ、和むなぁ
そんな年寄りのような気分になった瞬間、オレの顔面に何かが炸裂した。
ボムン!! という音を最後に、オレはバランスを崩し、ルーちゃん(イルカの名前)から落下する。
オレの心地良い眠気は水中に落下したことで吹き飛んでしまった。
「ごぼあっ!?」
危うくオレのハートビートが止まりそうになってしまったが、危機一髪のところで何とか川底に足を着けて立ち上がった。
「あ、悪いユウ! そこにいるって分からなくてさ」
悪気なくそう言って笑う一馬。
「大丈夫ですかーーー!?」
オレの身を気に掛けてくれる千歳。
その横で静かに笑っている渡と桐花に、その奥で大笑いしているちびっこ共。
「......ああ、ダイジョブダイジョブ」
心配してくれる千歳に返答し、オレは近くを漂っているバレーボールを拾い上げ一馬に投げ渡す。
そして、ルーちゃんを肩に担いで岸に上がるべく歩き出す。
先程の木陰へとたどり着き、オレは座り込む。
ふと川の方を見ると、千歳がオレの方へと歩いて来ていた。
「あの......お顔は大丈夫でしたか?」
オレの目の前にくるなり尋ねてくる千歳。
先程の返答では不安を拭い切れなかったのだろうか。
「安心しろ。オレの中の上の顔は健在だ」
こういう時は軽口を叩いてはぐらかすに限る。
千歳はそんなオレの返しに苦笑いを浮かべ、隣に座ってきた。
「ユウくんは皆様と遊ばないのですか?」
「ん? ああ、オレは一人でいるのが気楽なんだよ」
「そうなんですか......」
悲しげに呟く千歳。
「何だ? 何か不満か?」
オレの問いに、千歳はハッとしたように顔を上げる。
「い、いえ! そんなことはありませんけど......でも、私としてはユウくんとも遊びたいなと思いまして」
「......そうか」
もしかしたら、オレは配慮が足りなかったのかもしれない。
いや、千歳の表情を見る限りそれは間違いないだろう。
千歳は川に来るという約束を、オレの予想以上に心待ちにしていたのだ。
それなのに、当の相手がこんな態度では楽しいものも楽しくない、というものだろう。
オレは重い腰を上げて立ち上がる。
「ユウくん......?」
千歳はオレの突然の行動に疑問を抱いたのか、とぼけた声を出す。
オレは木陰の隅に置いてある鞄からゴーグルを取り出し、水着のポケットに突っ込む。
「ちょっと付いて来てくれ。お前に見せたい場所があるんだ」
オレがそう言うと、千歳は頬を染めて立ち上がった。
その姿を一瞥し、オレは上流に向けて川岸を歩き出した。
千歳は黙ってオレの後に付いてくる。
「ちょっとユウ! アンタどこに行くの!?」
後ろから響く桐花の声。
「ちょっと外す! 気にせず遊んでてくれ!」
オレは歩を止め、その声に返答をする。
振り返ったその時に、あの男が車に乗り込んだ姿が目に入った。
恐らくオレ達のあとを付いてくるのだろう。
いちいち動向を監視されるなんて、千歳も気の毒だな。
「ユウくん?」
千歳が歩を止めたまま動かないオレに声を掛ける。
「ああ、悪い。じゃあ行こうか」
オレ達は再び歩き出した。
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