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路地裏での出会い

 ようじょたん、十話目になりました。(前回長かったので、今回は少し短めです)


 もう少しテンポ良く進めたいな、と思うところですが難しいものです。



 逃げ込んだ狭い路地を、てふてふと歩く。

 誰も追ってきていないとはいえ戻るわけにもいかず、とりあえず広い通りを目指そうとしたものの、それは果たされていない。


 どうもこの街、メインの通りが大きく開けている反面、それらを結ぶ路地はかなり複雑な作りをしているらしい。

 くねくねと曲がりくねり、ともすると自分の向かっている方角を見失いそうになる。

 それに加えて。


「む……こっちの道は人にぶつかる……」


 伸ばした理力の糸が、先の角を曲がったところにいる人の反応を返してくる。

 やむなく引き返し、一つ前の角を別の方向へ進む。

 こんな風に人を避けて歩いているため、遅々として先へ進めないのだ。


 そこまで気にしなくても、と思わないでもないけれど用心するに越したことはない。

 何しろ、人気のない裏路地を、それなりに良い身形をした幼女が一人で歩くのだ。良からぬことを考える人間がいないとも限らない。


 幸いなことに、ここ数日の訓練で、理力の操作は慣れてきた。今も、自分の周囲に細い糸状にした理力を、蜘蛛の巣のように広げている。

 お陰で、人を避けて進むこと自体は難しくない。理力は壁があっても関係ないから、結構な範囲で人の存在を把握できる。


 けれど、障害物を問題にしないことは難点でもある。建物の中にいるか外にいるかまでは分からないし、道が続いているか行き止まりかも分からない。

 つまり、それなりに近づかないと、今歩いている道が人にぶつかるかどうかは判断できないのだ。

 そのせいで、進んでは引き返しを繰り返す羽目になっている。


「いい加減腹を括って、人のいる道を抜けるべきか……」


 全力で走れば何とかなるかな。でも、追い掛けられて行き止まりに当たったらどうしようもないし。

 考えがまとまらないまま歩いていると、


「そっちに行っても表通りには出られないよ」


 そんな声と一緒に、目の前に女の子が降ってきた。

 これは正に。


「親方、空から女の子が!」

「……親方? 誰?」


 気にしないでください。何となく言っておくべきかなと思っただけですから。


 というか、どこから降ってきたのこの人。屋根?

 確かに理力による索敵は、平面しか対応していない。立体にも対応しようと思えばできるけれど、その分範囲が狭くなってしまう。


「あまり驚いてないみたい。やっぱり私のことも気付いていた?」

「え、いえ全く気付いてませんでしたけれど……やっぱり?」

「ふーん、本当に? あなたが路地に入ってきてからずっと見ていたけど、まるで見えてるみたいにきっちり人のいない道を選んで歩いてたから」


 まさか見られているとは思わなかった。

 傍から見ればさぞ奇妙だっただろう。間違いなく見えていないはずなのに、一定距離まで近付くと、必ず人を避けて進んでいくのだから。


「耳が良いんですよ、私」

「中には、声を潜めて待ち伏せしているようなのもいたのに?」


 そんなのいたのか。どうも治安が良いのは表通りだけのようだ。


「……単に偶然だと思います。勘は鋭いって言われますけれど」


 私の誤魔化しに、少女は探るように私の瞳を見詰めてくる。

 よくよく見ると、少女は可愛らしい造形をしていた。何だか会う人会う人、見目が良いのだけれど、この世界顔面偏差値高くないですか。

 それとも実は、美醜の判断が違ったりするのだろうか。


「まあいいか。じゃあ、通りまで案内してあげる。私と一緒にいれば、変なのも寄ってこないから」

「……有難いですけれど、私、何の御礼もできませんよ?」

「いらない。もう貰ってるし」


 首を傾げる。彼女とは間違いなく初対面だ。


「さっきの噴水、ほとんどの人が見上げてたから。お陰で仕事がしやすかった」


 人の注意が逸れることでしやすくなる仕事。つまり。


「泥棒ですか……」

「御名答」


 ぽんぽん、と自分の懐を叩く少女。

 どうやら私は知らぬ間に、犯罪の片棒を担いでいたらしい。


「……私、さっきまで、そういう人と遭いたくないなーって思って歩いていたのですけれど」

「でも、もう遭っちゃったし。それとも、さっきの広場みたいに走って逃げる? それでもいいけど」


 私は追い掛けないから、という言葉どおり、少女は私に背を向けて歩き出す。


 どうしたものか。

 案内してくれるならそれは有難い。いつまでもここにいるわけにもいかないし。


 問題は一つだけ。彼女を信用できるかどうか。

 付いていったら、うっかり人買いの家に招待されることになるかもしれない。


 けれど、何となく悪い人ではない気はする。勘でしかないけれど。

 それにそもそも、そういう目的ならこんな回りくどいことをする必要はないだろう。

 何せこちらはか弱い幼女だ。力に訴えられたら、例え相手が女の子でも分が悪い。


 少女の背を小走りで追い掛け、けれども横には並ばず、少しだけ間を空けて後ろを歩く。

 付いてきた私を振り返って、少女が少し微笑む。


「私、シア。あなたは?」

「……好きに呼んでください」

「そう? じゃあ……クロ」

「……。何でペットみたいな名前なんですか……」


 大方、フードからのぞく、私の眼か髪から取ったのだろうけれど(さすがに真正面から見られれば隠し切れない)、安直過ぎやしないか。


「だって渾名って、名前の省略か、見た目の特徴で付けるもの。あ、チビでもいいよ」


 喧嘩売ってるのか。言い値で買うぞ。


「はぁ……ならリリ――」


 いや待て。さすがに本名を名乗るわけにはいかないって。

 でも偽名なんて考えていない。


「リリ? それがあなたの名前?」

「いえ、その、リリ……リリエルです」


 結局、名前プラス洗礼名という、偽名のようで全く偽名になっていない名前を名乗ることになってしまった。


「じゃ、長いからリリで」


 結局、本名に戻されてしまったけれど、もういいや。

 むしろ、ここまであからさまなら、逆に、貴族のリリとは結び付けないかもしれないし。


「短い間だけど、改めてよろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

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