かいせきの日
包帯を替えてもらいながら楽しそうに話す由良の姿を刀麻の座った位置から少し離れて見つめていた。
父親の話をした時だけ、いつもの明るくて元気な様子が翳った彼女の表情を思い出して胸が痛む。菫に問われて、わずかに躊躇った後答えてくれた彼女は泣きそうに見えた。 だが今はそんな事は有り得ないと思わせるほど楽しそうに目の前の外科医とお喋りに興じている。
「包帯の巻き方も覚えたほうがいいな。あんたは本当に怪我が多いから。」
「テーピングなら多少出来るんですけど。」
部活をやっていた頃、捻挫や打ち身などの際にテープを巻いたり湿布をしたりする方法は否が応でも覚えたので、由良もそのくらいならば出来た。しかし、手術痕の包帯の巻き方やら止血の仕方等はわからない。
「貴緒やセイラがよくわかっている。素人でも出来ることだからね。今度習うといいよ。…ハイ終了。」
左肩と左大腿の包帯をそっくり取り替えてもらった由良は、なんとなくさっぱりしたような顔で礼を言った。
「あんたはどうだ?出来るのかい?医者志望なんだろ?」
黙って見つめていた菫の方を、爆発したような髪型の外科医が振り返って尋ねる。
「出来ます。医療行為にならないことなら…やれますが、国際医師免許を持ってらっしゃる方の手際を拝見したくて。やっぱり手が速いですね。」
お世辞を言うわけではないが、正直に菫は答えた。父親の病院で何人もの医師や看護師の手際を見てきた菫にもわかる程、刀麻の手先は器用で仕事が速い。
「そんなに暇じゃないんでね。時間かけちゃいられないんだよ。」
にやりと愉快そうに笑って、刀麻は簡易ベッドを降りる由良を眺めた。
「後二日はトレーニングしちゃ駄目だよ。傷が開くからな。全く、長崎を出るときに注意すべきだった。痛いだろうに、どうして無茶をするんだい?」
「…不安で。」
簡易ベッドから立ち上がった由良は、珍しく低い声で答えた。
「不安?」
「一日でも休めば体力が落ちます。それだけ弱くなる。…それが怖いんです。」
強くなりたいと真に望む娘の執念に、刀麻は呆れたように溜息をついた。
「お馬鹿さん。…あんたほど若きゃすぐに体力なんぞ取り戻せる。それよりも傷を完治させることを重視しな。そっちの方が問題だよ。」
優しく諭すように叱り付けると、由良は申し訳なさそうに顔をあげた。その情けない表情を見て外科医が微笑する。
「…はい。」
「…それから、あんたは少し太った方がいいよ。」
「十分肉はついてますけど?」
「嘘付け。ついてるのは筋肉ばかりだ。あんたの年齢でその体つきは駄目だよ。体脂肪を量ったことないだろう?トレーニングにせいを出すのは結構だが、成長のほうにも体力を回さなきゃ駄目だぜ。思春期の女の子なんだから。」
一瞬、由良の表情が変わった。誰にも知られたくない秘密を暴露されたかのような顔つきになり、すぐに、それを覆い隠すように苦笑する。そのわずかな変化に、刀麻も、菫も気がついた。
「・・・いっぱい食べてるんですけどねぇ。」
苦笑しながら、思わず自分のウエストのあたりを撫で回してみる。
「俺には相談しにくいなら、貴緒にでも相談したらいい。あいつもあんたと同じだった。きっとわかってくれるよ。」
「何か、気になることがあるのならあたしも相談にのりますよ。」
慌てたように菫が付け足す。
「ダイエットならともかく太れって言われるとは夢にも思わなかったですよ。私は決して華奢なほうじゃないですし。驚きました。じゃ、もっと食べていいんですね。」
「ああたくさん食べな。ここには腕のいい料理人もいるしな。・・・さて、俺はもういかなくちゃならない。お大事に。」
椅子から立ち上がった刀麻はいつも持ち歩く医療鞄を手にしてドア開閉のパネルに手をあてた。
「ありがとうございました。無理しないでくださいね、医者の不養生なんてしゃれになりませんから。」
菫が明るく声をかけると、高名な外科医は手を振って出て行った。
「私達も戻ろっか。菫さん。」
「はい。由良さんは休んだほうがいいんですね。」
部屋に戻ると美夜子はいなかった。小さなメモが由良のベッドの上に乗せられている。
「またコンピューターか。美夜子はよくがんばるなぁ。」
マドンナに言われた暗号解析が出来るようになるために、美夜子はよく最上階のゲストルームを訪れているらしい。
指導者のマドンナと美夜子以外誰も入室が許されていないその部屋で、親友は夢中になってプログラムを学んでいる。
そのことだけでも、彼女が特別であることがわかる。ゲストルームには側近でボディガードの貴緒でさえ入らないと聞いているのだ。いかに美夜子が目をかけられているのかうかがえる。
着替えるのも面倒で、その格好のまま由良はテーブルに乗せてある茶色の箱を持ち上げた。流河が買ってくれたカステラの箱は、殆ど食べていないせいかまだ重い。両手で大事そうに持って、私室を出る。
先ほどのように菫が待ち構えているかと心配になったが、さすがに今度は誰もおらず、小さく溜息をついた。階段を降りて、師匠の私室へ向かう。
・・・ちょっと機嫌が悪そうだったから追い出されるかもしれないけど。まあ、その時はその時で。
楽観的な由良は気軽に秀の私室のパネルに手を触れた。努めて明るく声をかける。
「由良です。・・・流河さんにお土産を頂いたから、一緒にどうですか?」
「入れ。ロックを解除した。」
低い声の応答の後、すぐに自動ドアが開いて由良は秀の私室へ入れてもらった。もう怒ってはいないらしい。
白いシャツに迷彩色のスリムなパンツ姿の秀がデスクに向かっていた。こちらを振り返りもしない。
「少し待ってくれ。これで終わるから。」
いつもそこで作業をしていると思われるデスクに、小さな端末と細々した部品らしいものがならんでいるのが見える。
下手に触れて邪魔したり壊したりしたくないので、両手で箱を持ったまま由良は入り口で黙って立っていた。二分ほどで、秀は椅子から立ち上がった。いつもの表情のうかがえない顔をこちらへ向ける。
「待たせてすまなかった。そっちのテーブルへ行ってくれ。」
作業用らしい縁の大きな眼鏡をはずしながら、何も乗せられていない机のほうへ由良を促す。以前に彼が由良を応対してくれた机だった。どうやら来客用らしい。
「仕事中だったんですか?ごめんなさい。」
「いや、いいんだ。終わったから。着替えるからそこに座って待っててくれ。」
「別にいいですよぉ、その格好で。私は気にならないし。秀さんが部屋でパジャマ姿でも。」
笑ってそう言う由良も、トレーニングウェア姿のままだ。本当に気にならないのである。
「・・・そう言ってくれるのは有り難いが、作業用の塗料や薬剤が付着しているから着替える。コーヒーを淹れるから。」
「あ、成程。そういうことか・・・。」
部屋の奥のクローゼットの扉が開いて、吸い込まれるように秀の細い体が見えなくなる。
「パジャマが見たかったのか?」
言われるまま、箱を机の上に置いて腰を下ろした。以前はここでサーベルのメンテナンスを教えてもらったのだ。
「別に見たいわけじゃないけど。」
「パジャマというのは支給されないんだ。俺は持っていない。」
「・・・おかしいなぁ。鈴奈さんはネグリジェ着てましたよね?」
「マドンナが支給品など着るものか。」
たしかに、と頷く。高級志向でこだわりの強い彼女が与えられたものを黙って使用するとは思えなかった。
「ということは、流河さんやセイラも持っていないのか・・・皆、慎ましいなぁ。」
そう言えば、流河を起こしに部屋に行った時、彼はTシャツを着ていた気がする。
「お前はどうなんだ?」
「私はジャージで。ジャージは支給品の中にあったし。男女兼用だし。」
黒の薄手トレーナー姿になった秀が、扉を閉めて反対側の吊り戸棚に手を伸ばした。ゆっくりと戸棚を下ろしてコーヒーを淹れる道具を揃えている。
「あの、さっきのこと怒ってますか?」
「訓練室の事か。」
「えっと・・・傷が治ってないのにトレーニングしたことと、菫ちゃんを入れたこと。」
香ばしいコーヒーの香りが漂ってきた。自然と鼻が動いてしまう。本当に、師匠のコーヒーの香りは格別だった。セイラが淹れてくれるのも美味しいし薫り高いのだが、やはりどこか違う気がする。
「部外者を入れるのは感心しない。…そのための認証登録だ。お前があの娘を入れたかったというのなら・・・。」
「入れたかったっていうか、彼女が一緒に来たいって言うんで。・・・あの子、寂しくて心細いだけなんだと思う。だから、私にくっついてまわって安心したかったんじゃないかな。」
「・・・お前が一緒にいたいと言うのなら仕方がない。ただ、鍛錬をする気の無い者を入れても意味がない。」
「うん。そうだね。次は断るよ。正直私もあんまり気乗りしなかったし。集中力削がれるのやだし。」
親友の美夜子でさえめったに訓練室には近寄らない。場違いなのがよくわかっているのだろう。
二つのカップを手にこちらへやってきた部屋の主を見上げて、由良は慌てて秀の方の椅子を引いた。
「大丈夫だ。」
箱を開いて、秀に見せるようにカステラを出した。綺麗な黄色が実に美味しそうだった。
「これ、流河さんがお土産にって買ってくれたの。一緒にどうかなって思って。」
「・・・俺はそういうものは口にはしないが。気持ちだけは有り難く受け取っておく。」
「そっか。・・・ま、師匠はそういうかなって思ってたんだよね。コーヒー頂きます。」
熱いカップを両手でそっと受け取って、自分の顔に近付け香りを楽しんだ。
「流河は本当によく気がつく男だな。あのどさくさの中でこういう事に気が回るのが凄い。」
「気配り上手だよね。尊敬するよ。私も気が利かない方だから。」
「包帯は取り替えてもらったのか?」
「うん。刀麻さんにも叱られました。あと二日はトレーニング禁止だって。」
「無理をするなと言われたばかりだろう。」
「反省してます。」
そういいながら開いた箱の中から一切れつまんで口の中に放り込む。柔らかくて、甘くて、しっとりしていてとても美味だった。コーヒーだけでなく、紅茶にも緑茶にも良く合うだろう。
「ん~美味しいなぁ。すっごく上等な奴買ってくれたのかな。」
「そうかもな。」
カップを口に運びながら秀が静かに呟いた。その口元に、かすかな笑いが浮かんでいることに由良は気づかない。
「秀さんはお見舞いもしてくれたのに、私は恩知らずだね。」
「別に恩知らずではない。これから気をつければいい。」
「気をつけます。気をつけてるんだけどね、これでも。」
「もっと気をつければいい。少なくとも主治医と俺のいう事くらいは聞け。」
「こんなに従順なのに、そんな言い方はないでしょ?」
「お前、言葉の意味をわかって言ってるのか?」
「ひどいなぁ。どうせ私は頭悪いですよ。いーだ。」
わざと顔を歪めて舌を出してみせる。思わず噴き出す秀が咳き込んだ。笑いを堪えきれなくなったらしい。
師匠が笑うところが結構好きな由良は、笑われても平気だった。もっと馬鹿な事をして笑わせてみたかった。
ゲストルームを出た美夜子の顔は興奮に震えていた。両腕に抱えた小さな端末をしっかりと抱きしめて、ゆっくりと歩き出す。
長崎からもどってから三日目。鈴奈にこのゲストルームの入室を許されてから何日たっただろう。
・・・解析の仕方がわかった。あたしにも暗号解読プログラムが組めるかもしれない。
エレベーターホールまでゆっくりと歩いてぼんやりとボタンを押す。長時間パネルやら暗号表やらを見つめていたので少しだけ頭痛がするが、そんなことは気にならなかった。手に持った端末に入力した解析済みの暗号を思い浮かべてそれを鈴奈に見せることで頭がいっぱいだった。
解析作業がこなせるようになったら国立国会図書館への許可証を用意してくれると言っていたのだ。議員名義の許可証はどんなにがんばってもIDカードすら持っていない美夜子には入手出来るものではなかった。
それらの条件を満たせば国立国会図書館への道が開けるかもしれない。そこへいけば、自分達の過去がわかるかもしれないのだ。
それにしても解読してみてその内容に驚いた。美夜子が解析したのは北海道で由良と二人でがんばって女子高に潜入し盗んできたデータだったのだ。一つの学校の組織図は勿論、組まれた予算、生徒と職員全ての素行調査表、その家族親戚にいたるまでの調査表に、その情報の行く末まで。学長を含む職員全てのここまでの経歴、調査を行った諜報機関、かかった費用その情報の入手経路も全て多岐にわたっていた。そしてその情報の行く先は、件の国会図書館館長宛となっている。
知識の泉の番人が本当の敵なのかもしれないと、鈴奈が呟いていたことを思い出す。 他の情報解析が進めばもっとはっきりするのだろう。情報の全てがどこへ流れていくのか。このことを鈴奈はわかっているのだ。だが、何故図書館館長が黒幕なのだろう?そこがわからなかった。
エレベーターが上がってきたので開いたドアに自動的に脚を進めて乗ろうとする。中に誰かがいるかなど確かめもしなかった。
「おっと、危ないよ、美夜子ちゃん。」
降りようとした大柄な青年にぶつかりそうになり、彼が両手で美夜子の両肩を止めてくれた。
「ぼんやりしてどうしたの?」
後ろから優しそうな掠れ声が聞こえる。流河とセイラだった。
「・・・あ。二人は、どこへ?」
背の高い二人の青年に優しく支えられて、取り落としそうになった端末をしっかりと持ち直す。
「屋上の温室。非常階段登ってね。」
「そうでしたか。」
「あんたも行くかい?」
優しく太い声で誘ってくれる流河を見上げて思わず嬉しくなるが、すぐに正気になり手にした端末を見る。
「あ・・・行きたいけど、これをマドンナに見て頂かなくては。」
「解析プログラムかい?」
青い目を大きく見開いて美夜子に尋ねるセイラが、エレベーターのスイッチを押した。ドアが閉まる。
「いえ、まだプログラムまでは出来ませんが・・・解析がどうにか。」
照れくさそうに自分の努力の成果を口にする少女を見て金髪の青年は彼女を褒めた。
「凄いじゃない。これかなりかかったでしょ?美夜子ちゃんははじめはプログラム言語さえろくに使えなかったのに。」
「へーえ。たいしたもんだな。こんな短い間に習得したのか。」
流河が心底感心してるように美夜子の顔を見つめる。誰よりも彼に褒められるのは照れくさかった。思わず視線を彼の顔から緑色の袖なしパーカーまで下げる。立派な体格を持つ青年の身体をいつまでも見ていられず、また顔を上げた。
「やらないと・・・出来るようになれって言われましたから。」
腰を少し屈めて嬉しそうに笑った流河は大きな手を美夜子の頭に乗せた。やわらかく撫でる大きな手は本当に温かくてほっとする。幸せな気持ちになる。たとえ、その仕草に恋愛感情がないとしても。
「えらかったな。凄いよ、美夜子ちゃん。尊敬するよ。だって俺出来なくて断念したんだから。」
「流河さんも!?やってたんですか?」
意外だった。とてつもなく神経を使う作業の解析をこの青年がやっていたとは。
「いや~俺、向いてないわ、プログラムは。本当に無理。だからあんたの凄さがよくわかるよ。」
小さく苦笑したセイラの表情でわかった。流河は一度はやってみて、本当に駄目だったのだろう。
「簡単なものなら僕や秀でも組めるんだけどね。解析は本当に難しいんだ。うちではマドンナだけだよ、あそこまで高度なものを組めるのは。」
「秀さんも組めるんですか。」
意外な名前が出て美夜子は眉をひそめた。
「奴は何だって出来るんだよ。セキュリティシステムを組んだのもあいつだろ?」
「うん。エアカーの入力や、端末の作業用ソフトくらいならお手のもんじゃないかな。訓練室のシミュレーターも彼が大概彼がメンテしてるしね。一応僕も出来るけど、彼にほとんどお任せだな。」
「負けるもんですか。絶対に解析プログラムを作って見せるわ。」
「おやおや火をつけちゃったかな。」
くすりと笑って闘争心を剥きだす少女を宥めるように肩を軽く叩いた。ふわりと揺れる柔らかな髪から肩へ自然に動いた手が、もう一度美夜子の頭の上に乗る。
「セイラはなんでも出来て、安西兄弟は一つの事しか出来ないなんて鈴奈さんは言ってたけど、本当にあれはただの比喩なんですか。」
「比喩ねぇ。事実と言えなくも無い。実際セイラは出来ることがとても多いからな。でもって、采配がうまいんだよ。」
「采配って・・・買いかぶってないかい?指導者じゃないんだから。僕は鈴奈ちゃんに命じられたことをやってるだけさ。」
「とかいいながら、うまいこと俺達兄弟を使ってるくせに。」
「心外だなぁ、そんな言い方。」
「秀は優秀な男だが、自分の有能さをよくわかっていない所がある。プログラムだって本気で取り組めばマドンナ並みに組めるようになるだろうにな。」
「刀麻は基本的に医療分野以外のことには手を出したがらないんだ。どうしても手が足りないときには手伝ってくれるけどね。」
「でもって一番お兄ちゃんの俺が一番使えない男だからな。マドンナの言い分もわからんじゃない。」
「そんなことありません。鈴奈さんはつい流河さんに頼ってしまうって、言ってましたよ。」
「気楽なんだろ。俺と鈴奈は付き合いが長いからな。そういう意味では頼られているよ。」
「付き合いが長い・・・?」
「鈴奈がマドンナと呼ばれる前から知ってるんでな。俺と刀麻は彼女の母親にも世話になっている。刀麻が医者になれたのも、俺がこうして外部研究員をやれるのも彼女達のおかげなんだ。」
「僕が日本にいられるのも鈴奈ちゃんの力だしね。」
「・・・鈴奈さんって、一体何者なんですか?」
「だから、指導者。」
ぶっきらぼうに流河が答える。
「指導者・・・?」
「人を導く者だよ。彼女の・・・彼女の一族に多くの人が救われている。生きていく道を教えてもらっているんだ。君も何人かは見ただろう?鈴奈ちゃんに導かれて生きていく場所を見出した人を。」
「ああやって、居場所の無い人たちを救い続けてきた一族なんだ。・・・沢渡家っていうのは。」
二人の説明で、鈴奈の正体を少しだけ理解できたような気がした。
居場所のない人々に手を差し伸べ続けてきた一族。それに疑問さえ持つことなく当たり前のようにそうしてきたということなのだろう。信じがたいほどに尊いことだとわかる。
だからこそ美夜子は納得できない。
「そうやって他人を救ってばかりいて。」
「え?」
「じゃあ、鈴奈さんは誰が救うんですか?」
「美夜子・・・。」
「誰が彼女を幸せにするんですか?誰が沢渡家の人たちを解放してあげるの?」
救われることばかりを考えている人々が、救ってくれる人の事を考えるとは思えない。
美夜子の茶色い瞳が遠くを見つめている。鈴奈がまったく見せたことのない彼女の苦悩を推し量ろうとしているかのように。
「案外、そう言ってくれる君自身なのかもしれないよ?」
ふいに優しい掠れ声でそう言ったのは、美しい金髪の異邦人だった。
「どうして鈴奈があんたに目をかけるのかわかるような気がするよ。」
流河も優しくそう言って、もう一度美夜子の頭を撫でてから軽く手を振り、セイラを伴って非常階段へ歩み去っていった。
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