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「メンヘラ魔王、皆を虜に萌え燃えキュン。~あなたも私の虜になってみる?~」  作者: 推尊 奉琉


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11話「萌え燃え&愛彼VS偽善」

張り詰めた空気感。

互いが見合い視線を逸らさない。

視線を逸らすだけで殺されそうな予感。

そんな中、セリアス王が口を開く。


「早く、愛する我が子の洗脳を解くんだ。そして、私の目の前から立ち去れ」


剣を構え、黒い陰を漂わせる。

よほど、息子の事が大切なようだ。


「え?嫌よ、彼は私だけを愛しているの。もうあなたの愛する息子ではないわ」


もちろん無理な願いである。

彼を愛してるからこそ手離せない。

私の否定的な言葉に便乗するかのように一歩前に踏み出し、ランスが口を開く。


「父上、彼女の邪魔をしないでください。彼女こそが僕のすべてなんです。もし、あなたこれ以上彼女を侮辱することがあれば、私はあなたを殺します」


セリアス王の心を抉るであろう一言を放った。

その手に握られた剣が、実の父に向けられるという現実。


「ランス……お前、自分が何を言っているのか分かっているのか」


絞り出すような王の声は、冷徹な拒絶によって遮られた。


「わかっていますとも、父上。いや、かつて父上だった男よ」


「あははははは。ほら、あなたの愛する息子もそう言ってるわ…。もう…諦めなさい」


私は、息子の背中に指を這わせ、勝ち誇ったように彼を無様だと嘲笑う。

彼を愛してるからこそ私は嬉しくてたまらないのだ。


「き…貴様ぁぁぁぁぁ!!!どれだけ…どれだけ私を侮辱すれば、気が済むというのだ!!もう…いい!!貴様を殺して、息子を取り戻す」


セリアスの怒りは頂点に達した。

先程に増して、益々どよめき合う影。

殺意むき出しの鋭い灰色の眼光。

剣を握る力がより一層強まり、血管が浮き出ているのがわかる。


事態が動いたのは、次の瞬間だった。


――シュタ。


音を置き去りにした超速の踏み込み。

一瞬にして、目の前に迫り来るセリアス。

構えた剣が空を斬るかのように振りかざされる。


「ラ……ランス!?助けて…」


悲鳴にも似たような声を上げた私。

私を庇うかのように剣を握り、一閃が割り込むランス。


完全に油断していた…。

さすがは、一国を束ねてきた王だ。


「カキン………ッ!」


鈍い金属音と共に、ランスの剣がセリアスの凶刃を真正面から受け止めていた。


火花が散る至近距離で、二人の視線が激しく火花を散らす。一瞬の油断も許されない、肌を刺すような静寂。


命を狩り取るはずだった一撃を、紙一重で防ぎきったのだ。


呼び声に答えてくれたランスには、感謝しかない。


「く…くそ。殺ったと思ったんだが、やはり、萌えによる洗脳の力か。戦い難いな」


互いに一歩引き、見合いながらセリアスが口を開く。


「しょうがない…。こうなっては、偽善の力を使うしかないか…」


ふっと目を閉じる。

再び瞼が持ち上がった時、その瞳には、白々しいほどの清廉さと、底の見えない冷酷さが同居したような奇妙な光を宿している。


「この力は、正義を騙り、希望を餌に、絶望を刈り取るためのもの。……さあ、見せてやろう。人を救うために振るわれる『救済』を…。皆の者。我に従うのだ」


その言葉が放たれた直後、ランスと十人の民たちは一斉に頭を抱え、蹲った。


「うっ…。あ…頭が痛い。ヘ…ヘンゼル。いや、セリアス…」


「「うわぁぁぁぁぁぁ」」


断末魔のような叫びが周囲に響き渡る。

彼らの姿に、ヘンゼルは戦慄した。


「セ…セリアス。何をしたの!?」


そんな姿を見て、動揺するヘンゼル


「ハハハ…。何をした、か。……簡単なことだよ。彼らの内にあるお前への『萌え』の気持ちを焼き払い、私の偽りの『善意』を上書きしようとしているだけだ。これこそが我が能力、偽善だ。私を信じ、善き人と疑わぬ者ほど、その精神は容易く我が掌中に落ちる。これは無垢なる信頼を糧とする洗脳の力よ」


セリアスは動揺するヘンゼルを顧みることもなく、薄笑いを浮かべた。


「裏切りがあった時の切り札として日頃の善意を積み重ねておいたのだが、まさかこういう形で生かされる日が来るとは…。だが、さすがは萌えの力だな。そう容易くは術中に落ちないか」


再び剣を構え、襲いかかってくる。


セリアスの猛攻を、奪い取ったランスの剣で辛うじて受け止める。


「ギギ……ッ!」


火花を散らし、幾度も響く硬質な金属音。

至近距離で睨み合う中、私はあえて問いかけた。


「くっ…。な、何で私には偽善の能力が通じないの」


セリアスは歯を食い縛り、力で押し込みながら吐き捨てる。


「貴様は、真実を知りすぎたからだ。私が偽りの正義を掲げていた事を知った今、お前には私は悪人にしか見えないだろう。だから、真実を知り、疑う心が強い今のお前には、私の能力は通じない」


セリアスは一度、深く呼吸を挟む。


「だが、私も同様に貴様の萌えと燃えの能力は通じない。なぜなら私は、かつて失った娘の面影がある貴様を否定し、息子が殺したという現実から目を背けた私にとってあの日を思い出す貴様の存在は憎くてたまらない。その憎悪が二つの能力を書き消すのだ」


「え!?…」


言葉を失った。

萌えの力も、燃えの力も通じない。なら、どうすればいいのか。

私は猛攻を食い止めながら必死に考えた。


「(力じゃ勝てない。食い止めるのでも精一杯。能力も通じない…。なら、どうすれば……。あっ…。そうだ、いいことを思い付いた)」


セリアス猛攻を押し退け、瞬時にニヤリと笑い、ハートを作る。


そこで私は一つの打開策を思い付いた。


「そんな能力。私には通じないと知ってるだろう。何度使っても結果は同じことだ」


セリアスが、鼻で笑う。

だが私は、彼から視線を外し、背後を振り向いて呟いた。


「"業火の炎に焼かれて苦しみなさいご主人様 "燃え燃えキュン"」と。


なんと、燃えの能力は敵であるセリアスにではなく、ランスや民達に使ったのだ。


「「ぐああああっ! 身体が……身体が溶ける……! 」


「「あ、が……っ! 熱い、熱い熱い熱い! 中から……体が、焼ける……っ!」


萌えと偽善の能力に、葛藤しながらも燃えの能力に苦しむセリアスや民達の姿。


「な……馬鹿な。貴様、正気か!? 大事な者たちに向けて、何を血迷ったことを……!」


私の異常な行動に唖然とするセリアス

私を今すぐ殺すべきか、それとも燃え盛る息子たちを救うべきか。

その瞳に葛藤が混ざり合うのが感じ取れる。


「ほらほら、早く助けないと彼らが死んじゃうわよ。それでもいいの?あなたの大切な息子や民達が焼け死ぬわよ。あははは…」


狂ったように笑みを溢すヘンゼル。

能力で対抗出来ないなら、精神的に追い詰めるだけだ。


ようやく決心が決まった様子のセリアスが私にこう頼んでくる。


「もう…貴様と戦っている時間はない。すまないが、燃えの能力を解いてくれないか。降参だ。私も偽善の能力を解くとする…」


王とあろう存在が頭を下げ、私にそう願ってきた。


「あらあら、王とあろう存在が、そんなに簡単に膝をついていいのかしら?」


私はクスクスと喉を鳴らし、あざ笑うように彼を見下ろした。

プライドを捨て、泥を舐めてでも守りたいものがある――その高潔さが、今の私には最高に滑稽で、最高に美しく見えた。


「もちろんだ……。大切な民や息子の命には、代えられない。だから頼む……ッ!」


絞り出すようなその声に、私は満足げに目を細める。


「いいわ。あなたのその願いに免じて、叶えてあげる」


その願いに答えるように私は指をパチンと鳴らし、燃えの能力を解いた。


「あ〜、そうだ。言い忘れていたけれど、放っておけば彼ら、火傷の『燃え』の後遺症でじきに死んじゃうわよ? ……でも安心して。今度は私の特別な『萌え』の能力で、ランスも民たちも、回復させてあげるから」


「かたじけない…。頼む…」


そう言って再びハートを作り「私の虜になりなさいご主人様。"萌え萌えキュン」と呟いた。


焼き焦げた皮膚が瑞々しく再生し、民たちが次々と立ち上がる。


萌えの能力に洗脳されていようと、大切な息子であることには変わらない。

萌えを付与した者のみ回復できる能力であるが故に、能力は解けないのだ。


治療を終えた息子・ランスに駆け寄るセリアス。

私はその姿を、ただ後ろから静かに見守っていた。


「す…すまなかったランス。私がこのような争いを生んだから、大切なお前まで失いかけた。本当に…本当にすまない」


涙を流し、愛する我が子に寄り添いながら心からの謝罪を口にするセリアス。本来ならば、それは誰もが心を打たれる親子の再会となるはずだった。


――しかし、その光景は一瞬で無残に切り裂かれる。


「グサッ……!」


鈍い音が響き、鋭い刃がセリアスの腹部を容赦なく貫いた。口から鮮血を吐き出し、セリアスは驚愕して目を見開く。


「グハッ…。な…何をした……?」


激痛に震えながら後ろを振り向いたセリアスの視線の先には、笑みを溢して剣を突き立てるヘンゼルの姿があった。


「あら、ごめんなさい! せっかく感動の親子再会だっていうのに、壊しちゃって……。でも、仕方ないじゃない。私の目的は、裏切りのない私の愛で、この世界を満たすこと。そのためには、あなたが邪魔なの」


「……おのれ、貴様は……貴様は、最後の最後まで…」


セリアスの体が地面に沈み、事切れる。その瞬間、かつて彼が守ろうとした国の均衡が、音を立てて崩れ去った。


「さあ、これで邪魔者は消えたわ。ねえ、お義父様? 見ていて……これから私が、誰にも裏切られない、永遠に続く『愛の王国』を作ってあげる。苦しみも、争いも、不確かな絆も、全部私の愛で塗りつぶしてあげるから。


ヘンゼルは返り血を浴びた頬を愛おしそうに撫で、抜いた剣の切っ先に残る赤い雫をじっと見つめる。その瞳には、狂気と純粋さが同居した異様な光が宿っていた。


「またこうして新たな愛の血がこのメイド服に刻み込まれたわ。あぁ美しい…美しいわ……あははは」


慈悲など端から持ち合わせてはいない。

ランスを、民を、その希望ごと焼き尽くせば、セリアスという気高き偶像は容易く崩れ落ちる。その隙を突いて心臓を貫く。


萌えの能力さえあれば、ランス達を回復させる事も容易いのだ。

もし、あの時セリアスがギリギリまで折れなかったらこちらが折れて、能力を解除するつもりだった。


こうして、前王ブライダル・セリアスは絶命した。

そして今、このブライダル王国に、サタニキア・ヘンゼルという名の新たな王が誕生した。

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