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「メンヘラ魔王、皆を虜に萌え燃えキュン。~あなたも私の虜になってみる?~」  作者: 推尊 奉琉


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10話「奴隷の少女と王の息子の歪んだ愛」

ようやく萌えの代償を制御することが出来、息を切らす。


「ハァハァ……。さすがに、やばかったわ……」


胸を押さえて踞る身体。

能力を使っていくにつれて制御出来るのか不安になってくる。

力を使えば使うほど、自分の中の「何か」が書き換えられていくような感覚。


「ヘンゼル様。大丈夫ですか?」


洗脳されたランスが心配した様子で私に手をのばす。

私はその手を取り、立ち上がった。


「え…え~。大丈夫だわ。ありがとう。城へ向かいましょう」


不安な想いを抱えたままランスと共に再び城へと歩みだす。


近づくに連れて見えてくる外壁は白亜で壮麗な洋風の城。

陽の光を跳ね返すその白さは、民を導く王の潔白さを物語っているようだった。

さすがは民を想い導く、この国の王であるセリアス王に相応しい立派な城だ。


だが、その『潔白』も今日で終わりだ。

この潔白だった城は、私とランスの歪んだ愛の巣へと染め上げられるのだ。


もうすぐ、私達の物になる喜びを噛み締めながら重く閉ざされた黒と金の扉を開ける。


「ギィィィィィ……」


静寂を切り裂く、呪わしいほどに高い軋み音。

ゆっくりと開かれた隙間から滑り込んだ視線の先、広大な玉座の間の最奥に、一人の男が深く腰掛けていた。


「おお!!お帰り。我が愛する息子ランスよ。噂のあの娘は無事殺せたか……。ん?」


振り向きざま、確信に満ちた声でそう吐き捨てた。言葉の語尾が奇妙に上ずる。

彼の頭上には、真っ白な疑問符が浮かび上がった。


「あらあら、やっぱり居たわね。お義父様。いや…セリアス王国殿下」


その玉座に座っていたのは、紛れもなくランスの父でありこの国の王であるセリアス王だった。


銀色に光る中世の鎧に身を纏い、青色の美しい瞳に黒髪、黒い髭を蓄えた50代くらいの騎士。

どしっと構える姿が彼のくぐり抜けてきた年月の重みを感じさせる。


「君に父親と呼ばれる筋合いはないが…」


皮肉とも取れる私の発言に怒りを煮えたぎらせながら獲物を見るかのような視線を向けるセリアス。

冷静で低く落ち着いた低いその声が、かえって私の恐怖を加速させる。


「それにそのメイド服と渦巻いた赤い瞳、ランスと民達の様子は、まさか君が萌えと燃えの能力を受け継いでいたとは…。」


吐露されたセリアスの言葉には、切なさと共に何かを悟ったような響きがあった。


「あら、あなたもご存じのようね。まあ、ランスの父親なら無理もないかしら…」


私は熱を帯びた指先で自分の唇をなぞる。

セリアス王が、私の反応を見て静かに問いを重ねる。


「……どこまで聞いた?」


その問いに対して私は視線を逸らさず、笑みを溢し、ただ静かに答えた。


「どこまで、ですって?……ふふ。私が聞いたのは、ランスが病弱だった初恋相手を自分の手で殺して、その彼女が着ていたのが今私が着ているメイド服って事と口癖が萌え燃えキュンだったって事ぐらいよ。でも、そんな過去があろうと彼を愛してるわ」


私の決心は既に決まっていた。

今になっては返り血を浴びて赤く染まったメイド服と萌え燃えキュンのおまじない。

例えそんな過去があろうと彼に依存した私には関係ない。


「あぁ、やはり君はそこまでしか知らなかったのか。どうせランスから聞いたのだろう。だが、その話にはまだ語られていない真実がある」


少し切なそうな表情でセリアスは語り始める。


「え?真実…?」


衝撃だった。

まだ、何の隠された真実があるのだろうか。私には予想もつかなかった。


「そうだ、真実だ。なら…。冥土の土産げだ。せめてもの慈悲で、その話の真実を教えてやろう」


相手は真実を話した後に私を殺す気らしい。冷徹な無慈悲さを感じさせる彼の表情が物語っていた。


「まず、前提にきっかけを作ってしまったのは紛れもなく私自身だ」


全ての元凶が父親であるセリアス!?

病弱だった少女を殺したのは、紛れもなくランスだったと思っていた。

彼の真剣な表情を見るに冗談ではないらしい。


「私と愛する妻の間には、ランスという一人息子が産まれた。とても大切な一人息子だった。自分達がランスにしてあげられることは可能な限りしてあげたかった。だが、一つだけ叶える事が困難な願いがあった」


彼も彼なりに息子を大切にしているのだろう。さすがは、人々からの称賛の声がアツい王だ。


「困難な願い?」


彼の淡々と話すセリアスに、聞き返す。


「そうだ。その願いは…妹が欲しいという事だ」


「妹?……ふふ、そんなの何が難しいの?」


私はそう彼に問いかけた。

妹を作る事は容易い事だと思っていたからだ。


「あぁ、端から聞けば簡単な事かも知れない。だが、ブライダル家には、先祖代々受け継がれた事があった。それは、王になる者は、男である事。男でなければ、売るか殺すか。迫られるのは、その二択のみだった」


ブライダル家にそんな掟があったなんて。

やはり、王である器には屈強な男である事が条件なのだろうか。

それも、かつて家訓を定めた者にしか分からない事実である。


だが、そんな中でも一つの疑問が私の頭を過る。

それはランスを王とし、もう一人子供を授かればいいという事だ。


「そんなに悩むくらいなら、ランスを王にすれば済む話でしょ。その上でもう一人産めばいいじゃない。王位は埋まるし、運が良ければ念願の娘だって手に入るわよ」


髪をかき上げ、あたかもいい打開策を出したと言わんばかりにヘンゼルはセリアスに提案する。

過ぎた事だが、今の私にとってはその案こそが一番いい方法だと考えていたからだ。


「そうも考えたが、もし男が二人産まれた場合。後に兄弟間での王を決める殺し合いが始まる。私は彼らにそんな運命を背負わせたくはなかった。ブライダル家の男はそんな運命なのだ。致し方ない」


そう語るセリアスの辛くもどこか切ない表情。彼の表情や発言からは、息子の願いと理不尽な血の宿命の間で揺れ動く想いが感じ取れた。


「そんなやるせない選択の中にも条件が一つあった……。」


執事は淡々と、しかし拒絶を許さない声調で告げる。

そんな彼の表情からは、救済と後悔の念のどちらも感じ取れた。


「それは、奴隷としてなら女を招き入れても可能だという事だ」


セリアスが息を呑むのが分かる。

その瞬間、部屋の空気は凍りつき、重苦しい沈黙が二人を包んだ。


「奴…奴隷?」


それが、息子の願いを叶える事が出来る唯一の方法だったのかもしれない。

彼が息子を想い、選択した事。


「そうだ、奴隷だ。奴隷なら当然、受け継がせる訳にもいかないし、リスクも追わなくて済む。そう考えた私は奴隷を妹として招き入れる事にした」


彼の言葉にできない悔恨と覚悟。


「あら、救いが絶望になるなんて、な…なんて皮肉なものなんでしょう」


ヘンゼルが漏らしたその言葉は、冷ややかな刃となって私の胸を切り裂いた。


「あぁ結末を知った今。君にそう言われてもしょうがない。だが、あの時の私には息子の願いを叶えてあげるにはこの方法しかなかったのだ」


彼女を招き入れた後のブライダル家の未来が、崩壊する形になることを知った今。


「救い」だと信じてセリアスが下した決断が、ブライダル家をそして彼女自身を、より深い奈落へと引き摺り込む引き金になった事になろうとは。


「そう決断した私は、とあるルートから奴隷である少女を買い取り名前をつけた。その娘の名前は、サリス。美しい青い瞳に黒いロングヘアーで、その子がランスの初恋相手なのだよ」


哀愁漂う表情のセリアス。

セリアスは深く椅子にもたれかかり、遠い空を仰いだ。


「あ~今でも思い出す。屋敷に連れ帰った時のサリスは、怯えた仔鹿のようだったが、私達家族が優しく迎え入れる内に次第に柔らかな笑みを見せるようになっていった」


そこで一度、言葉が途切れた。

重苦しい沈黙が部屋を満たし、セリアスは膝の上で組んだ手に視線を落とすと、深く、重い溜息を吐き出した。

辛い記憶に、彼は限界まで追い詰められているに違いない。


「奴隷という立場ではあったが、私たちはサリスを本当の家族のように大切に育てた。しかし、幸せな日々を過ごすうちに、息子と彼女の間には兄妹愛とは違う「もう一つの感情」が芽生えていった。その感情こそが、歪んだ愛情だったのだ」


「ランスは毎晩、愛だと称してサリスに暴力を振るうようになった。日に日に増えていく痣。それを隠すように彼女は夏でも長袖を纏うようになった」


彼女に「その怪我、どうしたんだ?」問い詰めても彼女は力なく微笑み、「転んだだけ」と答える。


「私は一体何が起こっているのか分からなかった」

その言葉の裏にある真実に、当時の私は気づくことすらできなかったのだ。


「そんな最悪な日々で、ある日事件は起こった」


「いつも通り、彼女をベッドに寝かしつけ、寝室を後にする。冷え切った廊下で、無表情なランスとすれ違った。気にも止めずに階段を降りていたら先程、居た彼女の寝室から聞こえたんだ。悲鳴がね」


心臓が跳ね上がり、反射的に振り返った。

視界の先、きっちり閉めたはずの彼女の部屋の扉が、わずかに開いていた。


閉めたはずの扉。そして、廊下にいたはずのランス。最悪な予感が、脳裏をよぎった。


「悲…悲鳴?まさか…」


聞いてるこちらまで察する情景。

ヘンゼルは、無意識に自分の腕をさする。


「そうだ悲鳴だ。彼女の啜り泣くような悲鳴が聞こえた私と私の妻は急いで寝室にドアを開けて入った。すると、そこにはベッドに横たわって無抵抗のまま何も出来ずに諦める表情のサリスと殺意を込めて首を締めるランスの姿が見えた」


セリアス王は震える手で顔を覆い、深く息を吐く。


「私と妻は唖然としたよ……。我々は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。……いや、気づくのが遅すぎたのだ。息子の歪んだ想いに。」


そう淡々と話すセリアス王。

その言葉とは裏腹に、白くなるほど強く握りしめている拳。

体の震えが、彼が押し殺している絶望の深さを物語っていた。


ランスの瞳に宿る熱は、いつしか守るべき者への慈しみを超え、執着という名の毒に侵されていった。


(やはり、私と同じ歪んだ愛の持ち主ね……)


その呟きは、誰に届くこともなく空気に溶けた。

話に聞いたこの出来事はこうして起こったのだと、今この瞬間に実感させられる私。


私の胸の奥で、熱い塊がせり上がってくる。

どうしようもないほど似通った醜悪な独占欲。

こんな状況でも、愛する者と似た者同士で嬉しいという想いが湧く自分が愛おしくも恐ろしくもあった。


「殺意に満ち溢れるランスの姿、絶望と最後まで愛に溢れたあのサリスの瞳を今でも鮮明に脳裏に刻み込まれているよ」


執着と恍惚が混ざり合った、どこか壊れたような微笑みを浮かべるセリアス。


愛おしさを感じる私と、それとは対照的に辛そうな彼の心情。その温度差が、どこか狂気を感じさせる。


「その後の出来事は今でも覚えている。妻はその出来事のショックにより、自殺。私は酷い絶望に陥った。そんな中で、唯一残されていたのが息子であるランスのみだった。殺意はもちろん湧いたさ。でも私には殺せなかった…。」


「私が言うのもなんだけど、そんな息子をなぜ許したの?」


私は虚ろな瞳で見つめてセリアスに問う。


「あぁ言いたい事はわかるさ。普通なら奴隷だとしても妹のように扱ってきた大切な家族を殺した息子を許せるはずがない。だが、大切な家族二人を失った私にとって息子が唯一の支えなんだ…。だから生かした。あんな息子でもね。全ては私の甘さが招いた事だ。彼女には、本当に申し訳ない事をしたと思っている…。これが私の犯した最大の過ちだ」


そんな私の問いにセリアスは、震える声で答える。

私を見る彼の瞳には、深い哀しみと、どこか諦めに似た色が混じってた。


息子を想い、動いてきたからこそより心の傷は深いものだろう。


「それで、どうするの?私を殺すの?息子を取り戻したいの?」


セリアスは、絞り出すような掠れた声で、静かに言葉を継いだ。


「まぁ待ちたまえ。まだ続きがある。だから、私はいつしかこう思い込むようになった。息子を許すという決断をした私の判断は正しいと…」


ゆっくりと玉座を立ち上がる彼の足音が、静まり返った謁見の間に不気味に響く。

鞘から引き抜かれた白銀の剣が、冷徹な光を反射した。


「皮肉なものだ。剥き出しの絶望や後悔の心の傷が能力となって発現した。それが…偽善の能力だ。これは、紛れもなくお前を下す為に授けられた能力だと今確信したよ。お前に絶対、大切な息子は渡さない」


自嘲気味な笑みが、彼の口元を歪める。

彼の瞳が、鮮やかな色を捨て去り、死んだ魚のような灰色へと変質していく。


「アハッ……! あははははっ!


乾いた笑い声が、静まり返った部屋に不気味に反響した。


何よそれ、能力? 偽善? 傑作ね! 絶望を煮詰めたらそんな薄汚い力が湧いてきたってわけ!? おかしい、おかしすぎるわ……!!でも、良いわ。受けて立とうじゃない。私もこの人を……例えその魂が壊れようと、絶対に誰にも渡さないから」


私の問いかけに、彼は答えなかった。

ただ立ち尽くすセリアスの腕に抱きついた。挑発とも取れる私の行動。


足元から這い出した漆黒の影は、まるで彼自身の絶望が形を成したかのようだ。立ち込めるドス黒いオーラが、張り詰めた空気を重く、冷たく支配していく。

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