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パーティシペイタ― オブスキュア  作者: 後出しジャンケン
序章
1/3

裏の物語1

 たった1人の少年がいじめで苦しむ友達を救いたい。それだけのことだった。

それが全ての始まり、いや、この少年が産まれたこと、これが全ての原因と言えようか?

これは日本におけるパーティシペイターの誕生に纏わる物語。誰も語ることが無かったそんな話。


※不愉快要素含みます。

 1980年10月12日。この日この物語の主人公ー徳田雲秋(くもあき)が産まれた。

彼の母親と父親だけが共に彼の誕生を祝った。というのも父親の方の親戚は1人もいない。全員この世にいないのだ。対して母親の方は何人か現存している。しかし母親は親戚に話さなかった。仲が悪いというのが1つで、もう1つは知って貰う必要が無いということだ。

そんな2人の間に雲秋は産まれた。

基本的に雲秋は保育園に預けられ、休みの日は母親と過ごした。父親は仕事を優先しており、あまり家で会う機会が無かった。しかし、父親は雲秋が2歳の時、雲秋に対して

「この世界はね、意味のあることしか無いんだ。」

と言って、仕事をクビになったことを告げた。

雲秋は勿論、父親の言っていることの大半を理解できなかったが、その中で気になる言葉があった。

「いみってなあに?」

父親は笑って、分かる訳ないよなと言いながら

「意味っていうのはね、丸いんだ。どうしてって顔してるね。丸っていうのは、そうだな、ほら、そこの地球儀も丸いだろう。あの中に世界が詰まってる。まぁ、丸はそういうものさ。」

そう説明した。不思議と雲秋は納得できた。そして父親の言葉を信じた。

父親の再就職はすぐできて、特に家計が崩壊するような事は無かった。母親も父親がクビになったことに対して特に何も言わなかった。そもそもこの家族は欲があまりなく、あらゆるものを必要最低限で終わらせる。そのことを誰も苦しいとは思っていない。そういうこともあってか、父親の貯蓄も結構あり、割と普通に暮らすことができた。

時は過ぎ、雲秋は小学生になった。丁度その頃、母親も簡単な仕事をするようになっていた。仕事時間も3時間程度でだいたい雲秋が学校から帰る頃には母親が玄関で待っていた。父親の仕事も前のものより休みが増えている為、家族でいる時間は以前よりも増えた。それ故か、年に1度くらいは何処かに出かけることもあった。

学校での雲秋は保育園からの友達もいた為、特に浮くこともなく、問題を起こすこともなくごくごく普通に学校生活を送っていた。雲秋が過ごした小学校をK小学校としよう。そこで、雲秋は勉強も算数の複雑な計算や、国語の読み取り問題が少し苦手なくらいであり、運動も並外れているわけじゃないが、人並みにこなすことができた。K小学校の生徒は皆、誰かを認め合う性格をしており、問題を起こすことを嫌っていた。

故に雲秋が()()()()()()()を何とも思っていなかった。

中学にあがると、当然性格の合う合わないが生まれる。

K小学校の生徒の受容的な態度を嫌う者が幾名か出てきた。とはいえ、殆どの生徒はK小学校の生徒側についた。そのことが気に食わない少数の生徒がK小学校側の生徒1名を狙った嫌がらせを始めた。いじめられた生徒は輝灯(かがやくともしび)という名前でK小学校のリーダー的存在である。性格も非常に温厚で誰にでも分け隔てなく接することができる。だからこそ皆が彼を尊敬し、慕うのだ。しかし、それは、K小学校の生徒を敵視する生徒にとって、邪魔な存在だった。この男がいるから自分達と考えが合わない馬鹿共が増えていくのだと考えた。

始めはとても陰湿で、嫌がらせを受けた灯本人も嫌がらせとは思わなかった。というのも嫌がらせの時間が掃除中で、トイレ掃除の時間に嫌がらせをしている生徒がたまにサボるというだけだったのだ。

トイレ掃除のメンバーは雲秋と灯、そして嫌がらせをしていた生徒2人、石田勝(いしだしょう)今末星乎(いまずえほしや)の4人で構成されていた。

雲秋も灯も掃除をサボられることに特に何とも思っておらず「またか。仕方ない。」と2人のサボりを許していた。

しかし、サボる回数が徐々に増えていき、終いには全く来なくなった。こうもなると、最早、トイレ掃除のメンバーだけの話では無くなり、普段の学校生活態度の悪さも相まって(しょう)星乎(ほしや)は同級生だけでなく、先生からも目をつけられることになった。先生や同級生の注意は全く聞かず、

「あいつらが何も言わねぇからいいじゃんか。」

雲秋と灯が文句を言わないことを言い訳としてヘラヘラとして不真面目な態度を変えようとはしなかった。

そんな態度を取り続ける勝と星乎に手を焼いた先生は

「どうしてお前達も何も言わないんだ!お前達が注意しないから勝と星乎はあのままなんだろう!」

そう雲秋と灯を説教し始めたのだった。雲秋は成る程、先生がこう言うってことは意味があることだと理解を示したが雲秋は何故自分達が説教を受けねばならないのかと疑問を抱き続けた。だが、先生に注意しろと言われたため、注意しなければ、また説教を受けてしまう。それは流石に寛容な灯にも耐え難いものであった。

説教を受けた次の日、灯と雲秋は掃除をサボる勝と星乎に対して注意をした。

「先生に注意するように言われたんだ。身勝手な行動をされると、僕らにまで影響が出てくるみたいだからさ、ほどほどにしてもらっていいかな?」

答えたのは勝だった。

「へぇ、しろって言われたからするのか。じゃあ、人を殺せって言われたらお前人殺すの?それとおんなじことを今俺達にしてんだぞ!分かってんのか?」

それに星乎が続ける。

「その通りだ。結局はお前等の意思ってわけじゃないんだろ。そんなんじゃ、そうだよな。」

そう言って手で灯と雲秋を追い返した。

「雲秋君、大丈夫?」

灯は雲秋を気遣った。自分のことより他人を優先するのが灯の長所と言えるだろう。

「心配有難う。気を遣わなくていいよ。彼等にも何か理由があるんだろう。」

意味深な回答を返され灯は困惑した。 

「?理由?」

「うん。見当はつかないけど何かしらやらないといけない理由があるんだ。」

灯はあまり雲秋と話すことが無かった為、雲秋のことがよく分からない。だが灯は性格故に雲秋はこれが普通なのだと見なすのだった。

今日のトイレ掃除の時間は勝が1人でやって来た。この光景に灯は頭の中に疑問符を浮かべた。とても珍しい光景である。いつも勝と星乎は2人で行動している。それが今、1人なのだ。喧嘩でもしたのかと思いながらいつも通りトイレ掃除をしようとすると

「いやぁ!明日はお偉いさんが来るからなぁ!綺麗にしないといけないなぁ!そうだ!灯君、君、大便器やってもらっていい!?俺が小便器やるから!そしたら雲秋君はデッキブラシお願いね!」

と命令された。いつもは4つある小便器を2つずつやって、2つある大便器を1人1つやっていく形なのだが、謎の命令に従わない理由はないので2人とも従うことにした。実際、明日お偉いさんが来るというのは掃除前に言われて、いつもより綺麗にと先生からクラスの生徒全員に釘を刺されている。特に思うことも無く灯は1つ目の大便器を終わらせた。そして2つ目の大便器をしようと扉を開けると流されていない大便があった。においが割と強烈で鼻を覆いたくなる。

堪らずトイレのレバーを押した。

「あれ?」

普段は水が流れる筈だが、流れてこない。何かの不具合なのだろうか?そう考えてもう一度レバーを押した。

「先生!見てください!言った通りでしょ!灯君がトイレ壊してるんですよ!」

突如として、聞き覚えのある声が響いた。

とんでもない言いがかりである為、灯は急いで振り向いて反論しようとした。

カラン、金属と床が当たった音がした。もっと分かりやすく言うと金属が床に落ちた音である。

足元にさっきまで持っていたレバーが落ちたのだ。

「おい、灯、お前、何してんだ?」

先生が怒りを抑えた声で問い掛ける。

「いや、僕はやってないです。僕がレバーを押した時から水は流ませんでした。」

「それって、灯君が原因で壊れたってことも有り得るんじゃない?」

先生の近くにいる星乎が疑問を口に出した。

「そもそも、壊してないっていう証拠が無いよな〜。」

勝が星乎の意見を後押しする。この時、先生はこの2人の意見を真に受けていた。おそらく冷静に思考を働かせる暇がなかったのだろう。

「何してくれるんだ…全く。明日はお偉いさんが来ると言ったのに……。なぁ、これって先生の責任になるんだぞ。分かってやったのか?灯。」

「いや、僕じゃないんです。本当に僕が触った時からおかしかったんです!」

ここで認めてしまったら、弁償しなければならないかもしれない。それだけは流石に面倒事を避ける傾向がある灯でも嫌なことであった。

「…壊した奴ほどそう言うんだ。灯、放課後、職員室に来なさい。」

そう言って先生はトイレから去った。

「先生、本当なんです!本当に僕はやってないんです!」

灯は叫んで伝えていたが、果たして先生に伝わったのだろうか。

その後、灯は星乎と勝に命令され流すことの出来ない大便の大部分を流すことの出来る方へ移し、移すことの出来ない分はトイレットペーパ―で拭き取った。

もし、この場に正常な人間がいたとしたら、憐憫や憤怒、嘲笑的な感情、または、自分は無関係だから、何も思わないと考えることだろう。

ただ、異端な人間は黙々とデッキブラシで床を磨き続けている。これ自体は正常な人間でもする行動だろうが、問題はその時考えていたことだ。

異端な人間、即ち、徳田雲秋。彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう考えていた。これは灯の、この仕打ちは当然の帰結だということを是認しているのだ。だから彼は口を挟まなかった。灯は無実の罪を着せられる義務があり、先生や勝、星乎は無実の罪を着せる義務がある。そこに自分が挟まると折角の意味が崩れ去ってしまう。そんな言い訳としか思えない理由が原因で彼は灯に助け舟を出そうとはしなかったのである。これは最早異質意外の何者でもない。

放課後、灯は先生の圧に根負けしてしまい、弁償代を課された。

当然のことではあるが、誰にも助けてもらえず、先生にも信じてもらえなかった灯は人間不信に陥った。もう、誰とも関わりたくない、そう考えるのと同時に今まで関わってきた友達と関係を切るのはどうなのだろうか?そんな考えで彼は迷っていた。

しかし、次の日、そんな彼の迷いはすぐに晴れることになる。

翌日、灯はいつもより遅めに学校へ行き、朝のホ―ムルームが始まる前に職員室へ行き、先生に弁償代を支払った。

「…変なことはするんじゃないぞ。全部先生の責任になるんだからな。」

軽く説教を受け、職員室から退出しようとした時

「はぁ〜、何でうちのクラスはキチガイばっかなんだ。マジでどんな教育したら、あんな阿呆どもが出来上がるんだよ。」

そう呟いているのが聞こえた。ただの独り言だろうが今の灯には自分に言っているように聞こえてしまった。特に先生を殴るとかそういうことをする気は無かったが、朝からこんなことを言われると、流石に気分が落ち込み、自己嫌悪すら抱きそうになった。

教室に入ると、少し違和感があった。何処か皆が自分の陰口を言っているような気がしたのだ。席について荷物を片付け、落ち着いた時、違和感は正しいことだと分かった。

「なんか、臭くねぇ?」

隣で生徒達が噂しあっているのが聞こえた。生徒の中にはK学校の生徒も含まれている。

そうか、僕は皆に嫌われちゃったのか。どっと涙が押し寄せそうになった。なんとか隠す為に机に伏せて誤魔化す。

嗚咽を漏らす訳にもいかず、ただ涙だけが目に押し当てている腕を濡らす。わけの分からない感情が彼を襲っていたのだった。

「あんまり、そういうこと言うのは良くないよ…。」

小声で女子が言ったのが聞こえた。声の主は烏珠俾涅華(ぬばたみひねか)、小学校からの同級生である。灯が関わった感じ普通に優しい人物で、老若男女問わず寄り添う様子が見られる人物だ。その性格を元に判断すれば、先の発言は灯を心配してのことだと受け取れるが、今の灯には嘘をついているのかもしれないという一抹の不安があった。そんな不安を抱えた灯を置き去りにして朝のホームルームが始まった。

先生は「偉い人が来るから絶対に変なことは起こすなよ。」という内容を言い方を変えて3度程言い、最後に

「特に石田と今末、そして、灯。お前らはホントに変なことするなよ。」

「「はぁい。」」

(しょう)星乎(ほしや)は息ぴったりに、面倒臭いといわんばかりの返事を返した。しかし、灯は考えごとをしていたせいで先生の言葉が聞こえておらず、返事が出来なかった。

「おい!灯!お前!聞こえてんのか!」

先生の怒号が飛ぶ。

先生の声が大きかった為、流石に灯でも聞こえた。

「えっ?あっ、はい。」

何のことかは分かっていないが、取り敢えず呼ばれたことへの返事は返す。

「返事くらい、シャキッと言わんかい!やり直し!」

「はい!」

そうして、最悪の空気で朝のホームルームは終わった。

1限目の準備をしている中、灯は朝のホームルーム中、自分が何をやっていたのか、何となく察しはついた。それを思うと溜息が出た。とうとう僕も問題児扱いか。そんな考えが頭の中をいっぱいにした。

輝灯(かがやくともしび)君、具体的にどうして欲しいのかな?」

急に男の呼びかける声が聞こえた。顔を上げると、徳田雲秋が目の前に立っていた。

「えっと…ごめん、僕、余裕が無くてね、自分のことで手が離せないんだ。」

「分ってる。だから救いの手を差し伸べて欲しいんだろう。でも具体案が無いとこっちもどうしたら良いのか分からない。」

いまいち言っていることが分からない。灯は一言も助けて欲しいなんて言っていない。なのに雲秋はどのように助けて欲しいのかということを聞いてくる。そして同時に雲秋の上から目線な言葉に灯本人にも自覚が出来ない僅かな苛立ちを覚え始めた。

「ごめん、よく分からないや。」

「昨日のことが皆に知れ渡ってるのが嫌なのかい?だったら自分でやっていないと言うのが手っ取り早いと思うけど、どうやらそれはしたくないみたいだね。なら、僕が言ってあげようか?」

皆に知れ渡っている、この事実を直で言ったことに対し、周りはどよめいた。勝と星乎でさえ目を丸くして苦笑している。

「ヤベェよあいつ。」

「流石に可哀想。」

そんな声がヒソヒソと響く。

「……えぇと、雲秋君。君、何がしたいの?僕をいじめたいだけ?」

雲秋の発言のせいで周りの視線を一気に受けた灯は流石に苛立ちを抑えきれず少しだけ怒りをあらわにした。

「僕は灯君を救う。その為に灯君はやっていないと言う。それが僕がやらなきゃいけない義務だ。」

「うん。もういいよ。放っておいてくれ。僕を救えるとしたらその方法しかないからさ。」

「了解。うん。僕の考えと灯君の考えに誤差があったみたいだ。分かった。退こう。」

そう言って自分の席へ戻って行く。

「なぁ、雲秋よぉ!灯がトイレにいたってことは本当だよな!見てたよな!」

勝が席に戻ろうとする雲秋に話しかけた。雲秋は人を苛立たせたが、確かに灯を救うと言った。ならば、ここで灯の印象を悪くすることは言うはずがない。灯はそのように考えた。

「うん。確かに彼はトイレ掃除だよ。掃除している様子もいつも見てる。」

隣で星乎が笑い出す。クラス内もザワザワとし始めた。成る程。これは紛れもなくいじめだ。クラス全体から灯に対していじめをしている。灯はそのことに気付いた。中には灯を庇う者もいたが、もしかすると、そういうフリをしているだけかもしれない。そういうフリをして、何が目的なのかは見当がつかないが、嫌がらせるだけなら、それで十分だろう。

「もう、いいや。知らないフリをしよう。誰も、もう誰も…。僕の味方なんていないんだ。」

見える世界を消し去る為に頭を伏せて組んだ腕で包んだ。

「うわぁ!マジかよ!ちゃんと掃除してんのか!偉すぎだろ!勿論それって大便器もだよな!いやぁ、俺には真似できないわ!」

…聞くに堪えない。灯は教室を抜け出そうとして、席から動き、扉に手をかけた。

「朝っぱらから掃除やるんだ!すげぇよ、マジで。ホラホラ、皆、尊敬しろよ!ホラホラ、手を合わせて、ホラホラ、拝め拝め!」

ふざけて、殆どの生徒たちが笑いながら拝み始める。

灯は走って教室から出ていった。そしてトイレで1限目が始まるまで時間を潰した。こうして灯の迷いは払拭された。最早、誰も信用できない。皆、僕をいじめる為だけに行動している。

「まだ、卒業までに1年とちょっとあるな…。」

この時彼等は2年生で冬が始まろうとしている時期である。灯は残りの日数を辛抱できるかどうかが不安になって教室へ戻っていった。



 この1日は授業と授業の合間の時間や昼休みの時間に少しいじられた程度だった。勝や星乎は別のことをしていた為、朝以外では灯と関わっていない。

放課後、誰よりも早く帰ろうとした灯は烏珠俾涅華(ぬばたみひねか)に呼び止められた。

「えっと、大丈夫?あんまり無理しないようにね。」

「わざわざ有難う。お勤めご苦労さま。」

こんな分かりきった演技にまともに付き合っていられない。灯は突き放すように言って足を早めた。

しかし、家に帰っても灯にとっては問題がある。昨日のトイレの破壊が灯のせいであるということを両親に伝えている為、両親からも軽蔑されてしまっているのだ。けれど、学校よりは少なくとも家の方がマシだ。灯はそう判断した。

「朝よりも顔色が悪化している。やはり放置は悪影響を与えているように見えるね。」

帰り道、背後から徳田雲秋に話しかけられた。いつから尾行されていたのかは不明だが、どうやら後をつけてきたみたいである。そんなことをする雲秋に恐怖心を覚えながら俾涅華(ひねか)と同様に突き放そうとした。

「放っておいてくれと、僕は言ったんだけど…。」

「僕もそうする気だった。でもそれじゃあ、意味として成立しえない。だからもっと意味を持つことを探しに来たんだ。灯君は助けを求めている。これは意味のあることなんだ。」

また、よく分からないことを言い始めた。勝や星乎から指示されてこんな内容を言ってるとは思えないが、どうあれ、灯を馬鹿にしているのは間違いないのではないだろうか?

「うん。分かった。ご両親が心配するかもしれない。帰った方がいいと思うよ。」

取り敢えず、何を言っているのか、どう反応したらいいのか分からなかった為、自分と関わるなということを隠喩的に伝えた。 

「僕は灯君に意味のあることをしたい。僕がどうかなんて、この際ただのノイズだ。考えなくていい。灯君がしてほしいことを述べるんだ。」

「さっき言ったことが僕がしてほしいことだよ。……見てわかるだろう?朝からあんなことになってるんだ。もう、誰とも関わりたくないよ。」

多分、隠喩じゃ伝わらなかったのだと考え、直接関わりたくないと伝えた。これで彼は意味が云々とか言って帰るだろう。

「それは、灯君の成長には意味のあることだけど、もっと本質的なもの、或いは、本当にやってほしいこととは違う気がするんだ。そう、灯君はこの方法じゃ救えない。ああ、そうか、質問が悪かったのか。そうだね、灯君、今悩んでいることは何かな?」 

「…君が僕から離れてくれないことだ。」

「うん?悩みの意味を履き違えてないかい?」

「ねぇ、帰ってくれないか?」

「いや、それは」

「帰れよ!帰ってくれよ!」

とうとう怒りが爆発した。勿論、雲秋に対しての怒り以外も含まれている。精神的に追い詰められている状況下、何も知らない他人に抱えてる悩みについて講釈を垂れられるなんて言語道断だ。ふざけるなと言いたい。

「何が僕を救うだよ!お前だって僕を傷つける奴の1人なんだよ!そんな奴が救える訳ないだろ!有り得るかよ!何だよ、傷つけて楽しいのか?涙を流してる僕が滑稽かよ?無実の罪で弁償させられてる僕が滑稽かよ?うんこを処理した僕を傷つけて満足かよ!もう…邪魔しないでくれよ!どいつもこいつも、皆だ!」

言いたいことを吐き出した。怒ったのなんていつぶりだろうか。

灯は全力で走って家まで帰った。



「あぁ、明日からクソみたいな生活の始まりだ。どうせ今日のこともすぐに伝わるに決まってる。」 

家に帰ってからそのことばかり考えていた。できるものなら休みたいが今の両親が許可してくれる筈がない。何せ僕は器物損壊をした犯罪者だ。そんな奴は牢屋と同じように自由が許されないのだ。


 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 灯に怒鳴られた後、雲秋は原因が分からないまま自宅へ帰っていた。流石に雲秋でもあれ以上は救うどころの話ではないということくらいは分かったのだろう。  

「どうも、分からない。また明日聞いてみることにしよう。」

 

「止めといた方がいいと思うけどなぁ。」

不意に聞いたことのない声が聞こえた。背後、左、右、一通り見回したが、声の主は見当たらない。

「気の所為?いや、そんな筈は?」  

不審に感じ、もう一度背後を見た。やはり声の主らしき姿はない。そもそもこの道は人通りそのものが少なく、荒れ地に囲まれている場所である為、喋っている人間が分からないということは起こり得ない筈である。だが、いないものはいない。気の所為だったのだろうか。そう考え直し正面を向くとそこに異物はいた。

「そもそも、いじめられて切羽詰まってる人に自分がやって欲しいことなんて聞くなよ。非常識なやつだなぁ。」

2mを超えていそうな身長を誇る異物から声が届いた。白と黒、赤を基調とした色合いで、まさにピエロといった形である。だが、ピエロと違うのは顔が真顔である点である。ピエロと言ったら笑っているものである筈だが、このピエロは真顔だ。

「だけどね、そんな君にとっておきのプレゼントだ。彼を救う方法さ!やり方は簡単、私の仕事を代わってくれればいいんだ!」

「分かった。そうしてもらえるよう、灯君に説得してみるよ。」

「は?」

雲秋にとってピエロの発言がどうあれ、意味のある行為ということに違いはない。だから仕事の内容など、雲秋の眼中にないのだ。これには初対面の不審者であるピエロも呆れるしかなかった。

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