13ポスト目① アルヴェロイザ王国第三王子レオナルド・フォン・アルヴェロイザ
「王国航空よりご案内いたします。13時発、アルヴェロイザ王国王都行きの最終搭乗案内でございます」
今日は大使と数人の職員とともに、とある方のお迎えに来ていた。ここは異世界とも呼ばれたアルヴェロイザ王国と日本を繋ぐ唯一のゲートの空港だ。一見普通の空港と変わりないが路線は一本のみだ。
そして向こうから黒服やローブを纏った集団が近づいてくる。報道のフラッシュを大量に浴び、中心の人物は大きな花束を片手に、もう片方で手を振ったり笑顔を振りまいているようだ。
「アンディウスー!ハルトー!!久しぶりー!!」
その集団の中心にいる、やけに軽薄な青年はアルヴェロイザ王国の第三王子レオナルド・フォン・アルヴェロイザ殿下だ。金髪の前髪を鼻先に届くほど伸ばし、右側に寄せている。碧眼の瞳に、大きな口と綺麗な歯並びの笑顔、そして時折、頭を少し回して髪型を整える様子は、王室ファンを増やす原因だそうだ。アンディウス大使、ハルトそして職員は一斉にお辞儀をする。
「レオナルド殿下、お待ちしておりました。飛行機の旅はいかがでしたか?」
アンディウスは大使として完璧な挨拶をした。
「快適だったよー!普通に寝ちゃってたし〜」
「それはよろしゅうございました」
「ハ・ル・ト・きゅーん!ほんといつぶりー??会いたかったよー」
第三王子はすぐに大使の前から移動し、ハルトのほっぺたを両手でムニムニさせ、ニコニコしている。
「おそらく、新年の儀以来ですかね…」
「そっかそっか〜。僕の可愛いハルトきゅんと、これからずっと一緒に居られるなんて、嬉しいなあ〜」
「そ、そうですね…」
ムニムニを終了させた王子はハルトと肩を組み、歩き始めた。周囲の大人たちは警護の連絡を取ったり、周囲の警戒を怠らないようにしているのに、当の警護対象者はお気楽なものだった。
「第三王子が留学ですか」
1週間前、なんとなくは予想していた話を正式に通達された。
「そうだ。この度、王国と日本国との更なる親善と、王国内の日本理解を深めるために、第三王子のレオナルド殿下の留学が決定した。王子は留学期間中、我が大使邸に滞在される。くれぐれも失礼のないように」
「…承知しました」
「まあ、レオナルド殿下はお前を大層気に入っているから、そこまで心配はしていないがな」
「…そうですね…」
ヴァッハロイザ家は、その祖先を辿ると王家と繋がる名家である。そのため、王室の公式行事に当主とその長子が参加するのはよくあることだった。そして大人たちの会合などの合間に子供達が別室で遊んでいるタイミングで、ハルトはレオナルドの格好の餌食となっていたのだ。
「ハルトー!王城に引っ越してこいよ〜」
これはたしか王子は6歳、ハルトは3歳頃の会話である。この頃からレオナルドはハルトを大層気に入っていたのだ。
「いえ…特に住む用事もありませんので…」
「えー!!ハルトのケチー!王室侮辱罪だぞー!」
そう言いながら両手でハルトのムチムチほっぺをグリグリする。
「殿下、洒落になりません」
「うおーーーーーーー!!!これが日本かーーーー!!!すっげーーーー!!!」
スカイツリーの展望回廊にて、事前に打ち合わせした通りの観光ルートを回る。日本の建築物の中で1番の高さから見渡す東京の街並みは、自身が王か何かになったような気分にもなるだろう。ハルトは素材用としてレオンの動画や写真を撮影していた。
「…まあ箒で飛べる高さなんだけどさ」
「…それはそうですね。しかし、こちらの世界では簡単には到達できない高さですし。何より、このような建造物を作れるということに意味があるのかと」
「そっかそっか。ハルトきゅんの解説はいつ聞いてもためになるなあ〜」
そして相変わらずハルトのほっぺで遊ぶ殿下。
「殿下、私はもう3歳児ではありません。あの頃のほっぺではないのですよ…?」
念のため確認するハルト。
「うん、知ってるよ!でも、ハルトのほっぺが触って〜って言ってるんだよ?」
「…言ってません」
案の定、頬で遊ぶ癖を直す気はないようだった。
「おおーーー!!!これが屋台かぁ!」
一行は浅草、雷門に来た。殿下は屋台の香りに釣られ、あっちこっちに移動する。その度に警備は周囲の警戒を強めるのだった。
「殿下、少し落ち着いてはいただけませんか…?」
「えー、無理だよーハルトきゅん。この黄色くて四角い食べ物が僕を呼んでるんだ!」
「だし巻き卵、ですね殿下。あと王国ではないので、食べ物は話しかけてきません」
「これ1つ!」
「まいどっ!」
トレーに乗った1枚の卵焼き。右手で器用に箸を持ち、一口食べる。
「おお!!美味い!ふわふわだ…!甘い味付けだが、気に入った!」
「それはようございました」
少し前に箸を使っているのを見た時はぎこちなかったのだが、急成長を遂げていた。留学に合わせてそこらへんのマナーなども身につけてきたのだろうか。
「ん?ハルトも食べるか?はい、あーん」
先ほどより大きな塊をハルトの口に近づける。湯気だけでも火傷しそうな熱さが伝わってくる。
「殿下、1人で食べられます…」
「まあいいじゃん。はい、どーぞ」
渋々その一口を貰う。第三王子の言った通り、美味しくて飲めそうなほどの柔らかさだった。
「美味しいですね」
「だろ?これはお店で食べるのが一般的なのか?」
「家庭でも作れますよ。このクオリティが出せるかは別ですが」
「そうかー。やっぱり実際に現地で触れてみないとわからないものもあるよな」
「レオナルド殿下、ようこそ在日アルヴェロイザ王国大使館へ。職員一同、殿下のご到着を心よりお待ちしておりました」
フェリックスが花束を第三王子に手渡す。職員は皆、大使邸の目の前でお出迎えをした。電話番をしているであろう職員は、各階の窓から王子を眺めていた。
「皆様、どうもありがとう。留学期間は大使邸にお世話になるので、皆様にもお会いできる機会が多いかと思います。本日から、よろしくお願いいたします」
第三王子スマイルで全ての外交官を魅了した殿下は、拍手を受けながら大使邸に入られた。
「殿下。殿下の私室はこちらでございます。この部屋には職員も我々大使一家も入りませんので、ごゆっくりおくつろぎください」
30畳はあるだろうか。桜のある中庭と、反対側の窓からは東京の街並みを一望できる。大使邸で1番豪華な間取りだ。寝具類は王国で使っていたものと同じものを輸送し、デスクなどは日本の高級家具屋から取り寄せた逸品揃いだ。専用のバスルームがあるので、部屋から出なくても大抵のことは済む。家族や職員への通達の直後から受け入れの準備が大急ぎで始まったので、お好みに合っているかわからないことが懸念点ではある。
「いい部屋だね!ありがとう!ところでハルトの部屋は?」
「秘密です」
「えー、なんでー」
「ハルトの部屋は下の階の端にございます」
「父上!?」
速攻で息子を売る父を少しだけ睨む。
「よし!そこを僕の第二のリビングとする!」
「ダメです殿下」




