12ポスト目②お盆、研修祭り、そして羽と猫。
「羽の人さん!こんにちわ!」
「アデルさん…。こんにちは」
アデルがキラキラとした瞳でポンタールさんを見上げている。情報セキュリティー研修の直後、ハルトとアデル兄妹は会議室の外で待ち伏せをしていた。
「ポンタールさんだよ?羽の人じゃなくて」
「ポンタールさん、こんにちわ!インタビューしに来たです!」
「そんなに面白い回答が、できるかわかりませんが…」
3人は食堂に移動し、オレンジジュースを飲みながらまったりと開始した。
「ポンタールさんは何歳ですか?」
「えーっと、今年で50ですね」
「え、本当ですか。見えませんね…」
ハルトは思わずジュースを吹きこぼしそうになった。
「そうですね、僕の種族は長命なので若く見えやすいのかもしれませんね」
「『はねのひとは、ながいき』…っと」
アデルは黙々とメモを取っていた。
「ちなみに、生物学的には『人型有翼種』です」
「そういえば動物型の有翼種もある、んでしたっけ」
ハルトももはや遥か彼方となっている記憶を呼び起こし、質問した。
「動物型は日本への入国制限があるんです。有翼種への制限も減ってきているところですが…。まあ勝手に飛べるなんて、日本側からすると脅威でしょうし」
「はい!ポンタールさんは飛べるんですか?」
アデルが右手をピンとまっすぐにあげ、キラキラの瞳で質問した。
「飛べますよ」
「見たいです!」
「ダメです」
「なんでですか!?」
「日本では禁止されているからです」
「たしか、大使館の敷地内かつ、建物の高さを越えなければ飛べましたよね。特例として」
「飛ぶと疲れるんですよ…僕は冷房の効いたホワイトカラーが向いてるんです」
「たしかに有翼種は屋外のお仕事のイメージですが…」
「国境警備隊とか王国軍など、引く手数多です。有翼種の給料も、他の多くの種族より高給に設定されていますし」
「それでもオフィスワークが良いと…」
「そういう変わり者もいるんですよ。自分で言うのもアレですが」
「『はねのひとは とべる』『でも、ポンタールさんはとびたくない』」
「このくらいで良いですかね?」
「あ!最後に、お写真いいですか?飛んでるのがいいです!」
「嫌です」
「えー!かっこいい翼で飛んでるの、見たいです…!」
「僕もポンタールさんの飛行姿、見てみたいです。アデルは物心ついた時には、もう日本で生活していたので、祖国を感じられるものを見せてあげたいんです…!」
「…はあ。仕方ないですね…」
「わあ!!ポンタールさんすごいです!!」
「かっこいいですね!」
中庭に移動した3名。ポンタールは地上から2mも離れてない高さで浮遊し、兄妹はそれぞれカメラを構え、様々な角度から撮影している。
「なんでハルト君まで撮影してるんですか?」
「あー、いやー。有翼種の職員紹介とか、SNSでウケそうだなと思いまして…」
「おやおや、ポンタールさんが飛んでいるじゃないですか!珍しいですね」
どこからともなく、フェリックス公使が爽やかに現れた。
「仕方なく、ですよ。まあ免許更新も近いですし…。また去年みたいに翼が攣る…なんてことは避けたいですし…」
「そうですよ。年に1回しか飛ばないからですよ!今年も免許更新頑張ってくださいね!」
「え、翼が攣るって何ですか…?」
「『はねのひとは、つばさがつった』」
「そこは書かなくて良いんですよ?アデルさん」
真面目にメモをとるアデルを制止しようとするポンタールと、彼女の兄だった。
「これが『大使館のどうしょくぶつずかん』ですか。拝見しても?」
「はい!どうぞです!」
厚紙の隅に穴をあけ、紐で括っているシンプルな作りだが、アデルの絵心や入念な下調べによって良い図鑑に仕上がっている、と妹バカなハルトは自信を持っている。
「素晴らしいですね…!これは、大使館で配布したり、販売しても面白いかもしれませんね」
「良いですね!俺も賛成です」
「本当ですか!嬉しいです!」
「…あれ、このページの…」
フェリックスのページをめくる手が止まった。
「あ、猫ちゃんです!」
オレンジの毛並みに、グリーンの瞳、可愛らしい猫が上手に描かれていた。シマシマの濃淡があり、足元にはネズミの死骸がマイルドに描かれていた。
「アデルさん…!この猫と仲良し…なんですか?!」
「そうですよ?お庭でよく遊んでます!」
「そんな…僕が、何ヶ月も、アプローチしても、構ってくれなかったのに…」
「よくネズミを持ってきてくれるです!」
「アデル…それどうしてるの?」
「ママ上と片付けてます!」
ネズミは病気の元になったりするので、無闇に触っていないと聞けて安心したハルトだった。
「あ、来たです!」
生垣の隙間から一直線にその猫が向かってきた。
「みかんちゃん!今日もかわいいです〜」
アデルに顎の下を撫でられ、グルグルと喉を鳴らし、しっぽをピンと立てている。
「懐いてるねー」
「日向さん…、私の事はお嫌いですか…」
各々好きなように名前をつけていたようだ。
「わかりました…最終兵器です…」
フェリックスは片膝をつき、猫に向かって語り出した。
「在日アルヴェロイザ王国大使館公使の名の下に、日向さんを大使館付き鼠捕獲隊長に任命します!」
日向みかん(仮名)隊長は相変わらずフェリックスのことは無視で、アデルの周りを頭突きをしながら匂いをつけているようだった。
「さあ、隊長!健康診断と予防接種をしなければ!医務室にご案内しますよ」
フェリックスが猫を持ち上げると、その行く先を知ってか知らずか猫は大暴れだった。
「隊長大丈夫です!病院代は大使館から…無理でも私のポケットマネーがありますよ!」
たぶんそういうことではない…と思ったが、アデルがついていったので追いかけたハルトだった。




