第20話 愛は愛を生む
「……よかったのか? アイツを行かせて」
告白の返事に向かった和樹くんと入れ替わりで、木場くんが声を掛けてくれる。
普段は辛辣なのに。こういうときは、意外と優しい声を出せる人なんだと知った。
「和樹くんの別れ際の笑顔を見ましたか? ……初めてお声を掛けた際は、無理に笑おうとして、頬を引き攣らせていたんですよ。本当に黒髪の子が苦手なのだと……」
いつから……彼は練習をしていたのだろうか。
誰かに頼まれたわけでもない。一朝一夕にはできない。
妹の陽和ちゃんに向けた、あの日脳に焼き付いた景色とは違っていたけど。
彼がずっと、私に向けてくれていた。たくさんの親愛であり愛情の結晶だった。
「生憎、俺には見えなかったが。お前の反応を見る限り……まぁ上手くやれていたんだろうな」
よかった。私だけの宝物にできるんだ。
「和樹くんは素敵な人ですから。彼の魅力に気付く女性が……他に居て当然……ですね。わ、わた……しは……これで……いい……一緒に居ない方が……いいから」
張り詰めていた糸が切れて、私はみっともない姿を晒す。
取り繕うとしても言葉が崩れて、喉から呻きに似た叫びが響いている。
本当は、私の本心は――引き留めたかった。
あの幸福に満ちた日々を失うのは嫌だと叫んでいる。
でも、それはできなかった。。
変わりたいと願い、前を進み続ける和樹くんが好きだから。
好きな人には、好きだった人には幸せになって欲しいから。
「自分は報われなくてもいいってか。お前、無理してかっこつけるのな」
「だって私は……和樹くんが憧れるかっこいい女ですから」
「はっ、なら今すぐその顔洗ってこいよ。酷い有様だぞ」
私は背中を向けてハンカチで涙を誤魔化す。
「んで、これからどうするつもりだ。ストーカーさんはよ」
「……どうしましょうか」
しばらく失恋が後を引いてしまうだろう。
一年後、二年後、卒業後もきっと、忘れることはない。
恋をするのも、失うことも初めてで。まったく気持ちの整理が付かない。
「はぁ……呑気なものだな。その分だとなにも知らないようで」
「な、なにがですか」
「和樹に手紙を寄こした相手――お前が投げたあの上級生の元カノだぞ?」
「……えっ」
私は、血の気が引くのを感じた。先ほどまで感じていた痛みが別のモノに代わる。
「ま、まさか……手紙は、私への復讐……?」
以前私に絡んできた上級生には、どうやら恋人がいたらしい。
だというのに私に乗り換えようとして、後に喧嘩別れしたと聞いている。
女性は浮気した当事者の男性ではなく、対象となった同性を責めるという。
恋愛ドラマやサスペンスなどではありがちな展開。現実でも、それほど珍しくないと聞く。妬み、恨まれるのには慣れている。でも、彼が巻き込まれるとなれば話は別だ。
「俺に他人の気持ちなんて、増しては女の考えなんて理解できるかよ。元彼の浮気への当てつけか。お前に対する復讐か。それとも純粋に和樹に好意が芽生えたのか……どちらにしろ、大事なモノを他人に委ねるということは、手を離すというのはそういうことだ」
「……木場くんは、最初からわかっていたんですよね!? どうして黙っていのですか!」
「部外者だった俺が他人の恋路にどう介入しろってんだ。それができる立場だったのはお前だろ。お前が自ら、戦いの舞台から降りたんだ。どうすることもできねぇよ」
私は……どうして。どうして見ず知らずの相手を信頼してしまったのだろう。手紙のことで――自分のことで精一杯で。告白の相手が誰なのか、調べようともしなかった。前もってわかっていたら、引き止めることもできたはず。
詮索は、よくないことだとはわかっている。
よくないことだからと思考停止するのは、違う。
彼の幸せを願っていたのに。最後の最後で無責任な後押しをしてしまった。
「和樹は昔からどうしようもない人間を惹き付けるみたいでな。アイツも無駄に面倒見がいいからか。引きずり込まれて貧乏くじを引く。まぁたとえクソ女に引っ掛かっても自業自得ではあるんだが。……昔のアイツだったら、返事を聞く勇気もなかっただろうな。誰かさんに影響を受けたのか、変に自信だけは付いたようで」
身体の力が抜けていく。倒れそうになり、椅子にしがみつく。
最後まで向き合う覚悟もない癖に。中途半端な気持ちで関わって。
ごめんなさい和樹くん。ごめんなさい陽和ちゃん。
視界が真っ暗になる。もうなにも考えられない。もう……。
「あーあーみっともなく泣くな。今のは少し脅しただけだ。和樹は九割九分断るから安心しろ」
「…………え?」
木場くんは、狼狽する私を見下ろして言う。
「万が一付き合ったとしても、どうせすぐ別れるだろうよ」
「ど、どうして……そう言い切れるのですか」
「和樹は、学生らしさとやらに飢えているらしくてな。今は学生特有の、恋愛至上主義の空気感に流されてはいるが。結局のところアイツはまともに恋愛ができる環境にいない。お前も実際に見てきたはずだ。ある種ワーカホリックの状態で、恋人にあてる時間がどこにある? 現状はまだ余裕があるかもしれないが、一年後、二年後はどうだ。あんな生き方を続けても、いずれどこかで破綻するだろうよ。そんときは……間違いなく家族を優先すると断言できる」
和樹くんは、恋愛に興味があるようでいて、実際のところ線を引いていたように思う。少なくとも他の男子のような、異性に対する特別な視線を感じたことはなかった。和樹くんのは、それはまるで小学生の男の子が女子と接するようなもので。
和樹くんにとっての恋愛は……パートナーが欲しいのではなく。コンプレックスを埋めるもっともらしい代替品でしかないんだ。それを本人自身も気付いていない。
完全に興味がない、というわけではないと思う。年相応に欲はあるはず。それ以上に、亡くなったお母様への想いが。託された陽和ちゃんを護ろうとする純然たる想いが強すぎるのだろう。そこに救えなかった初恋の女の子のトラウマも合わさっていて。
「つまりだ。今のお前が告っても結果は同じってことだがな。ざまぁ」
悪い笑顔を向けられる。しかも本心からそう思っているはず。
他人を泣かせて、期待させて更に落としてくる。やっぱり酷い人。
「……和樹くんはこの先もずっと一人で、生きていくつもりなのでしょうか」
「さぁな。そうかもしれないし。そうじゃないかもしれない。腹立たしいことに本人に自覚はないが無駄にスペックだけは高いからな。陽和が自立して落ち着いた頃にでも、適当な相手を見つけるかもな。いや……捕まるといった方が正しいか」
「……そのお相手の方はきっと、私では到底敵わない女性なのでしょうね」
現状、進学ではなく就職の道に進もうとする彼とは、卒業後は離ればなれになる。
「……ちっ、しけた面しやがって。不服ならお前が、アイツを変えてやればいいんじゃねぇのか」
木場くんがこちらを睨むようにして吐き捨てる。
「別に、相手の幸せを願うことと自分の望みを叶えること。やろうと思えば両立できるだろうがよ」
「私が和樹くんを……変える?」
「ああそうだ。家族よりも自分を優先しろと。恋人の方が大事だと思わせる。どの道このままでも破綻する可能性のが高いんだ。和樹は、陽和もそうだが……失った母親の影に囚われ過ぎているんだよ」
二人が亡くなったお母様を深く尊敬していることは知っている。
陽和ちゃんのバターブロンドに染めた髪は、生前の姿を模したもので。
和樹くんはおそらく内面を、その生き方まで含めて、お母様を目標としている。
遺された子たちが親の背中を追いかけ続ける。一見して大衆受けのいい美談にも思える。でも、私はそこに危うさを感じていた。きっと身近にいた木場くんも。
私は両親を尊敬している。
特に母は一番距離の近い大人だったのもあり。
幼い頃は、それこそなんでもできる超人なんだと思っていた。
そんな母だって、失敗する。体調不良の際は仕事を休むこともある。食事を出来あいで済ませることだってある。それは人間である以上、常に完璧であり続けることは不可能であると、実際にこの目で見てきて、理解している。
でも、二人にとってのお母様は、幼少期の記憶で止まっているんだ。
かつて私が母に抱いていた、すべてを完璧にこなす理想の大人の姿で。
外見を真似るだけならまだ、写真などを頼れば明確な終着点が存在する。
目に見えない内面はそうはいかない。そして思い出は時と共に美化されていく。
どこまでも際限なく。ゴールの存在しない長距離走をしているようなもの。
私自身も、周囲の願望によって肥大化し続ける理想の湊姫華になろうとして、完璧であろうとして心が壊れそうになった。それでも最悪――私の場合は途中で諦めても恥をかいて、失望される程度で済む。
遠坂くんの場合――諦めることは即ちお母様を切り捨てることになるのでは。
もしかしたら彼は、自分では立ち止まることができない状況に追い込まれているのではないだろうか。
「俺も、陽和も親父さんもだが。これまで身内として散々世話になっておいて、今さら母親の真似事をやめろと強制するのも難しくてな。赤の他人から始まったお前なら可能性はまだある。事情を知らない女共にいいようにされるくらいなら、アイツをよく知るお前が傍に居た方がマシだろ」
ここで私が諦めたところで、なにかが好転するわけじゃない。
代わりの誰かが、和樹くんと陽和ちゃんに寄り添ってくれる保証はない。
「もちろんすべて解決するまで、告白なんてするなよ? 仮に和樹から告白されても断るしかない。今のままじゃ、たとえ付き合えたとしても結果は見えているからな。アイツは身内以外の人間関係に関してはわりとドライだぞ。卒業までにチャンスは二度もないと思え。お前の望みは……その先にあるんだろ?」
自称恋愛通のゆーきちゃんもよく語っていた。
恋愛はお付き合いすることが終着点じゃない。そこからが本番なのだと。
ここで焦って関係を進めても、近い将来破綻するのは木場くんが警告したとおり。
「…………」
家族のために自分の人生すら犠牲にしてしまう和樹くんを変える。
それはつまり彼の中に宿る理想のお母様を超えるということ。私が一生敵わないと劣等感すら抱いた相手に、所詮凡人でしかない私が、正面から打ち勝たないといけいない。
できるだろうか。できないと一生彼の隣には立てない。
「それともなんだ。お前の気持ちはたかだかその程度なのか。この程度で諦めるような覚悟で、俺を利用していやがったのか?」
「……わ、わたしは」
『次からは同罪だよ』陽和ちゃんの言葉が重しとなっていた。
これからもずっと迷惑を掛け続ける。好きな人を困らせてしまう。
「先ほど後悔したんじゃなかったのか。手の届かない場所で、アイツが他の誰かに奪われていいのか」
「……っ」
彼の中で私との記憶が薄れていき、いずれ誰かに想い出が上書きされる。
向けられる愛情のすべてを独占されて、あの特別な笑顔を、宝物も奪われて。
残された私は、過去の優しい想い出に縋りながら。一握りの後悔を抱いて生きていく。
「……やだ。そんなの、いやです……これまで積み重ねてきた時間が、私の想いが、知らない誰かのためにあっただなんて。これが身勝手で醜い感情であったとしても……認めたくない」
私は臆病者だった。都合のいい優しさに甘えて逃げていた。
彼のためだと身を引こうとした。本当は、自分に自信がなかっただけ。自分が傷付きたくなかっただけ。あとで一生後悔するとわかっていたのに。まだ目先の見栄を気にしている。
気持ちなんて、最初からわかりきっていた。足りなかったのは覚悟。
「誓います!! 私が和樹くんを幸せにします。彼が他人のためにしか生きられないのであれば。自分勝手な私が、私の幸福のために彼を愛し続けます!」
できるかどうかじゃない。やるんだ。見苦しくても、泥臭くても、私は変わると決めたのだから。和樹くんにとってかっこいい私であり続けると。それは、決して聞き分けのいいお人形さんでいることじゃない。たとえ誰かと争い傷付けることになっても、わがままだったとしても、自分の想いを貫き通すこと。そして――結果に責任を取ること。
「はっ、ようやく本性を出したな。ちっとはマシな顔もできるじゃねぇか。――ちょうどあのバカも、その場で告白を断ったそうだ。よかったな」
木場くんはスマホを確認して、和樹くんの告白の結果を教えてくれる。
「もしかして……最初から私を試していたのですか?」
「俺がやられっぱなしでいると思ったか? これで脅迫の件はチャラにしてやるよ」
「だから私は脅迫なんてしてません!」
どこまでが木場くんの思惑通りだったのか。
実は告白も仕組まれていたものではないかと疑う。
「一応、伝えておくが。俺は女に嘘告を強要する鬼畜じゃねぇからな? アレはガチの告白だった。和樹のやつ、指の怪我が治るまでの間、裏で浮気された女のフォローというか、愚痴に付き合っていたみたいでな。その誠意に惹かれたんだとよ。まぁ浮気した男に対する当てつけでもあったんだろうが」
「和樹くんが……?」
どうして、なんて聞くまでもない。
怒りの矛先が私へ向かないようにするため。
「ん? 追伸だ。お姫様が悔しがる顔を見れなくて残念だとよ。こえーな女は。どうやら答えは三つとも当てはまっていたようで」
元恋人の復讐は果たされなかった。私は、もう一度チャンスを得られた。
「とにかく。逃げるなよ。そして自分の発言に責任持てよ?」
言いたいことは山ほどある。文句もたくさん。
「その、木場くんにはご迷惑をお掛けしました。そしてこれからも、頼ることになるかと思いますが……」
「今さら、これまでもお前のわがままに付き合わされてきたんだが」
彼には散々嫌味なことを言われた。
それでも、見捨てられることはなかった。
それは、もちろん私のためなんかじゃないのはわかっている。
「ひとつ教えてください――」
木場くんにとって和樹くんはどういった存在なのだろう。
人間嫌いの彼がどうして、和樹くんには心を開いているのか。
私の疑問の問いかけに、木場くんは眉をひそめて、
「俺は……まぁ色々あって親に捨てられ施設に放り込まれた――厳しい大人に躾けられて育ったんだよ。だから同年代の連中がガキに見えていた。当たり前のように親に甘え、養ってもらってる癖に、不平不満をぶちまけて一人前の面してイキってる連中を、内心見下していたんだよ」
「恵まれていながら迷い続けていた私も……貴方に見下されて当然ですね」
「別にお前だけに限った話じゃねぇよ。和樹は……初めて――敵わないと思ったんだ。喧嘩も弱いうえにすぐ泣く癖に、強情でどんなに痛めつけられても意思を曲げない。見下していたはずの、同級生の男子に何度も思い知らされた」
あの日の路地裏での喧嘩だけでなく。
それ以前にも二人は何度も争ってきたんだろう。
「俺はこれまで、たった一人でも、自立して生きていけることこそが男らしいのだと思っていた。でも、考えてみればそうだよな。孤高を気取って問題があれば自分のケツだけ拭けばいいのと。託された者を、他人の人生まで背負って生きていくのと。どちらが強く、かっこよく見えるのか。人にもよるだろうが俺は――自分という男が酷くちっぽけに思えた。アイツの傍に居るとな、時折すっげぇ惨めな気分になんだよ」
木場くんはそう言って苦笑する。
いつも冷めていて、大人びている彼が、初めて見せてくれた年相応の男の子の姿だった。
「それでも一緒にいるのは、男の子の友情というものでしょうか?」
「そんな大層なもんじゃねぇ。そもそもアイツ俺の母親面してくんだぞ? いい加減負けっぱなしは性に合わないんでな。復讐の機会を待ってんだよ。ただ……今の和樹に勝ってもスッキリしねぇ。俺は、本気になった和樹自身を全力で打ち負かしたい。ただ、それだけだ」
「つまり、奇しくも今の私と同じ目的というわけですね」
「別にお前じゃなくてもよかったんだけどな。もっと有能な女が見つかればそっちに乗り換える予定だったんだが」
「見つからなかったということは……木場くんも素直じゃないですよね?」
「調子に乗るな」と、悪態をついて。木場くんは私から視線を逸らす。
彼が語ったことがすべてではないはず、本心は、きっと別にあるはず。
気にはなるけれど。私がそれを知る機会は訪れないのだろう。
私と彼はお互いの目的のために協力している共犯者の間柄でしかない。
「とにかく、今後もわがままに付き合ってやる。ただ……陽和を泣かせたら――俺の家族を不幸にしたら。たとえお姫様だろうとぶっ飛ばすからな。そこんとこ覚悟しろよ」
「それから――湊姫華。お前は自分を凡人だと思っているようだが。その気持ち悪い程の真っ直ぐな一途さは。和樹と同じで、十分に化物の素質があるぞ」
「ばけっ、本当に貴方は失礼ですっ!」
最後にやっぱり意地悪な言葉を残して。木場くんが部室から去っていく。
「それは貴方だって……同じでしょうに」
◇
「湊さん大丈夫? 授業中も瞼を擦ってたけど。最近いつも眠そうにしてるよね……?」
「へ、へっちゃらです。ゆーきちゃんにお願いして、朝の六時に起きるようにしていまして」
「すごっ……くはないな。六時起きはわりかし普通――あ、でも朝が弱いってこの前言ってたよね。委員長に愛を囁いてもらってるんだ」
「もちろん。愛情たっぷり大音量でお届けしてます。今朝はコール三回目で起きられたね。偉いぞヒメ。でだ、肝心のお弁当の出来はどうだい?」
「……まだまだ理想には届きません。母に怒られてばかりです」
和樹くんの手料理は、身内に対しても厳しい母が手放しで褒めるくらい。
もちろんプロと比較するものではなく、あくまで学生としての評価だけれども。
彼のお弁当はいつも相手を思いやる気持ちに溢れていた。
好き嫌いに配慮して、食べやすいよう工夫を凝らし。それでいて健康にも気を遣って。
それは大衆へ向けて商売しているプロとは違う。
目の前の相手をよく見て、心に寄り添わないとできない。
勉強すればするほど、どこまでも道は険しい。
「今でも家庭的な女子で通っているのに。そんな修行パートまで挟んで。湊さんどこかお嫁にでも行くの?」
「私は……決して家庭的とは言えませんよ。母は働きながら家を守っていますし。父も仕事の合間に道場の管理をしていて。休日には家族サービスも。だというのに私は、時間に余裕があるときに自分都合でしか行動していません」
「あーそういわれると。普段親がなにしてるか考えたこともないかも。こういうの一人暮らしを始めたときに有難みを実感するんだろうなぁ。両親がやってることを一人で全部やるとか無理ゲーじゃない? 汚部屋まっしぐらになりそう」
「でもでも世の中には一人暮らしでも仕事や勉強をしながら家事をして、更に趣味まで両立させる化物みたいな大学生や社会人もいるらしいじゃん」
「そーいう完璧彼氏欲しいなぁ。好きなものなんでも作ってくれてさ、周りに自慢できるし。優騎もそう思うでしょ?」
「うちは普通がいいかな。別にヒモになりたいわけじゃないから。だって一人で完結してるんだよ? 一緒に居ても惨めな気持ちになるだけじゃん。そういう超人って当たり前のこと当たり前のようにしているだけだから。どこか自覚もなさそうで。絶対家族の目だって肥えてるよ。恋人になっても苦労するだけ」
私も――ただの憧れで終わっていたら。きっと同じ感想を抱いていた。
自分とは生きている世界が違うのだと、諦めて、遠巻きに眺めているだけだった。
けれど私は知っている。どんなに優れた人にも弱点はある。悩みがある。十人十色で凸凹なんだと。
「ゆーきちゃん。完璧な人なんていませんよ。きっと、その人は隠すのが得意なだけです。私だってこうみえて苦手なことはたくさん――」
「えっと、お姫様は……割と最初からボロが出ていた気がするけど?」
「テストの答案受け取ったときも、音楽の授業でも石造みたいになってたしね。歌声も……なんか独創的だったし」
「男子に近付かれるたび不安そうにするから、女子みんなでガードしてました」
「ヒメってば、ずっと隠し通せるつもりだったんだ。愛いやつよのう、もう」
「……みんなしていじわるです」
私は――お友達にすべて洗いざらい告白していた。
今まで無理をして優等生ぶっていたこと。本当はできないことがたくさんあること。そして、苦手克服を手伝って欲しいと。私のわがままにみんなを巻き込んだ。
これから目指そうとする場所は、一人の力だけでは到底届かない、間に合わない。
だから周囲を頼る。必要となれば神様からの贈り物だって利用するつもりだ。
両親との約束を破るわけじゃない。
強さも弱さだって全部、自分のものとして生きていく。
それが私の新しい覚悟。
「ポンコツでも湊さんはかわいいよ。というか見た目よくって中身まで完璧なら私たちの立つ瀬ないじゃん。むしろ好感度あがったというか」
しかし誰も気にしていない様子。共学で育ってきた子たちは想像以上に強か。
ううん……そうじゃない。みんなも同じ。どこかで見栄を張って生きているんだ。
「言いたい放題して……もうっ、たくさん勇気を出したのですよ!」
「ごめんごめん、今度カラオケでさ、歌の練習しようよ。あ、その代わり、勉強教えてくれない? いやーテストの結果がヤバくてさ。これで追試も落としたら夏休みがなくなっちゃうんだ。湊さんは、今回はかなりよかったみたいだし」
「もちろんです。私ができることなら、なんでも協力します」
「……いい顔してるじゃん。よかったねヒメ。共学を選んで」
私は瞼をこすって、笑顔で「はい」と答える。
振り返ると女子校時代。私は自分のことばかり考えていた。
他人からよく見られたい。外見だけでなく中身を評価して欲しいと。
偽りの自分を演じ続けながらそう願っていたのだから。今思うとおかしな話だ。
いつだって自分、自分、自分。誰とも親しい関係を築けなくて当然で。
和樹くんと出会って、彼を好きになって。私は気付くことができた。
私が両親や弟が好きなのは、家族から深い愛情を注いでもらっていたから。
こうしてお友達と打ち解けられたのは、私が真摯に向き合いたいと行動した結果。
とても簡単なことだった。
「愛されるためには――まずは自分から誰かを愛せるようにならないといけなかったんですね」
今度は私から届けるんだ。
彼から受け取った想いは大きすぎて、今の私では釣り合わない、だから。
待っているだけじゃダメだから。これからもかっこいい私であり続けるために。
「――んん? つまり好きな人ができたってこと? 愛ってそういうことだよね!? どおりで最近の湊さん、以前よりもすっごい魅力的になったわけだ」
「マジ? お姫様にそこまで言わせる超人がいるんだ。やっぱ年上のイケメンエリート社会人!? ねぇ今度紹介してよ」
「同性のパターンもありえるよ。相手は家庭的っぽいし……まさかの禁断の恋! 湊さん詳しく!!」
「な、内緒ですっ」
「まーたクサい台詞を吐いちゃってさぁ……様になっちゃうのが憎いというか。ヒメらしいけど。あれ~そういえば~どこかのお寝坊さんは電話越しにうちを誰かさんと間違えたのか、超甘々ボイスを披露してましたなぁ」
「ゆーきちゃん……?」
「はいはい。喋らないし狙ってないし睨まないの。まっ――今のところはね。うかうかしていると、学生恋愛は早い者勝ちだよん!」
「ゆーきちゃん!?」
今はまだ、これ以上関係を進めることはできないけれど。
これからも親友として、貴方の傍に居続けることを許してください。
そうじゃないと、絶対に和樹くんを好きになる人が増えてしまう。特にゆーきちゃん!
【大切なお話があります。本日の放課後、和樹くんのお時間をいただけないでしょうか】
スマホを隠しながら、メッセージを入れる。
遠巻きに彼を見つめながら、私は願いをこめる。
――いつかこの想いのすべてが、彼の心に届きますように
ここまでお読みいただきありがとうございました!
前話が勘違いオチになっていますが、一話と比べるととても未来ある終わり方になっています。
大体ラノベ一巻分の文章量で、恋愛物の一巻というのは付き合う一歩手前ぐらいで終わるイメージ。
ヒロインの想いが少々デカすぎる気もしますが……これでまだ40なんだ。
もしよろしければ感想や評価をお願いします。次回作へのモチベに繋がりますので!




