瞬殺宣言?
ようやく体調とやる気が復活
お兄ちゃんの店でアルバイトをして四日目、その人は来た。来たんだけど……。
「予想以上に早く来たね。来たけど…」
予想外過ぎて、思わず鷹空さんと目を合わせてしまう。
リバルバーブラック二十三才、本名は黒井元埼玉在住で都内の中堅会社に勤務。
資料のリバルバーブラックは長い髪を総髪にした凛々しいイケメン。ヒーローのプロフィールの写真なのに、なぜか銃を構えてニヒルに決めている。
そして写真の中の彼は自信に満ちあふれていた。
「同一人物なんだよね」
鷹空さんも信じられないようだ。今のリバルバーブラックにはヒーロー時代の面影はゼロ。
鋭くどかった目つきは前髪で隠れてどんよりと淀んでいるし、髪からは艶が失われくすんでいる。
テーブルには二人分のケーキと写真立て。恐らくスナイパーホワイトさんの写真だと思う。
「俺の知っている闇落ちヒーローと違い過ぎる」
俺の戦った闇落ちヒーローは、世の中全てを憎むような目をしていた。ハザーズの様な残忍な笑みを浮かべ、人を躊躇なく殺す。
でも、リバルバーブラックさんからは殺意を感じない。感じるのは絶望と失意だけ。
「あの席、彼女さんとの思い出の場所みたいなの……失恋からまだ立ち直れないみたいなの」
天舞さんが悲しげに呟く。
そりゃヒーロー引退まで追い込まれた上に高校生に彼女寝取られたんだし。簡単には立ち直れないと思う。
「女なんて星の数ほどいる。次に行けばいいのに」
「恋愛なんて、振られて当たり前。落ち込んでいる暇あったら前に進めばいいのに」
お兄ちゃんとほぼ同時に返事をしたけど、兄弟で内容は天と地の差があった。
同じ前に進めばいいのになのに、ここでも兄弟スペック格差が。
「吾郎君は告白する前に諦めるタイプでしょ」
天舞さんがからかう様に笑う。流石は元同じ戦隊で現在義姉。良く分かっていらっしゃる。
「さて、どうすっかな。元カノが戻って来ても、闇落ち問題は解決はしないだろうし……でも、一回シュライバーラバーズに釘さしておいた方が良いかもな」
前にボッチコイにぼろ負けしたから、シュライバーラバーズは戦力強化を望んでいる。
新しいメンバーを見つけるより、引退した女性ヒーローを狙う可能性が高い。
「そのバフ系ヒーロー、翼ちゃん達バーディーアンをスカウトしに来る可能性もあるんだよね?」
天舞さんがポツリと呟いた……可能性はゼロではない。現在バーディーアンは俺のサポート役になっている。でも、個人的つながりは公表されいない……まあ、ただのクラスメイトなんだけど。
「俺に援護を依頼する。その間共闘を名目にしてパスを繋ぐ。可能性は十分ありますね」
あるけど、そこま節操ないか?でも、バフ役はイケメンが多いし。
リバルバーブラックさんの二の舞い……いや、俺は付き合っていないから、寝取りじゃなくてBBSな独り相撲になるんだよな。
一気に不安が押し寄せてきた。
「つまり僕が囮になれば良いんですね?そんなナンパ君には興味ないから大丈夫です。それより吾郎、大阪案内して。たこ焼き……大阪グルメデートしよ」
鷹空さんが俺の目を見てにこりと笑ってくれた。
さっきまでの不安が一瞬で吹き飛んだ。真面目にヒーローやってて良かった。
「それにブロークンハートクラブレベルのハザーズなら、俺一人で倒せます。パスを繋ぐ隙も与えません」
絶対に瞬殺してやる。そして鷹空さんと大阪デートをするんだ。
◇
日曜、今日は朝から本部詰め。いつもならテンションが下がるんんだけど、今日は鷹空さんと一緒の勤務。
「吾郎、大阪に美味しそうなお店チェックしてきたよ」
満面の笑みでスマホを見せる鷹空さん。行動が早いんですけど。
「そういうのフラグうになるよ……大阪は行きたいけど、出来たら自分達で対処して欲しいな……でも、鷹空さんの援護と転移の経験になるんだよな」
でも、そんな都合よく援護要請が来る訳ない。素直に報告書を作ろうとした職員さんが大慌で部屋入ってきた。
「コカトイエローさん、シュライバーラバーズから救援依頼です」
まじでフラグが立った。
現れたハザーズの名前はデバガーメンカメコ。亀のハザーズらしい。女子高の前で暴れているとの事。
「防御力が高くて手も足も出ないと……本当かよ?しかも、シュライバーラバーズの担当区域じゃん」
行きたくない。絶対にクレームが飛んでくる。
鷹空さんの前で“横取りヒーロー”とか“空気読めないガチヒーロー”“絶対中身不細工”とか言われたくないんだけど。
「吾郎、どうしたの?」
テンションが下がりまくりの俺を見て鷹空さんが尋ねてきた。でも、言えない。シュライバーラバーズファンからのクレームが嫌だから行きたくないなんて。
「上級ヒーローは援護に行くと、要請をかけてきたヒーローのファンからクレームをつけられる事があるんですよ。特にコカトイエローは女性人気が低いから、どぎついクレーム受けるんです」
職員さんがフォローしてくれた。地元ヒーローのファンが見たいのは、推しの活躍。推しヒーローが苦戦したハザーズを鼻歌まじりで倒す。絶対に面白くはないと思う。
「は?助けてもらった癖に吾郎にクレーム?どんなのがあるか見れますか?」
部屋の温度が一気に下がった。俺のクレーム一覧を見ている鷹空さんの眉間に深い皺が刻まれていく。
「吾郎の顔も知らない癖に……吾郎、安心して悪質クレーマーから守のも、サポートの役目。何か言われたら僕が怒ってあげるから」
嬉しいけど、俺の顔が分かったら、クレームが増えると思うんだけど。
◇
違う意味で帰りたい。ブロークンハートクラブって、まともなハザーズいないのかよ。
「うひょー、シャッターチャンスだ。パンチラゲット。そこ邪魔」
亀のハザーズが女子高生を盗撮……いや、かなり堂々と撮っているから盗撮とは言えないか。
そして邪魔と蹴飛ばされたのがペンを持ったイケメンヒーロー。
「シュライブサンダー、大丈夫?」
「よくもシュライブサンダーを……絶対に許さない」
「シュライブサンダー君、痛かったよね」
そしてシュライブサンダーに駆け寄る女性陣。
その目はシュライブサンダーに釘付け。俺をチラ見すらしてこない。
ギャラリーからは悲痛な叫び声。上級ヒーロー、空気です。
「あの援護に来たヒーローなんですけど……もう倒して良いですか?」
遠慮がちに尋ねるも無反応。まじで瞬殺しちゃおうかな。
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