寝取られ?
目を覚まして奇妙な違和感を覚えた。自分が生まれた家の筈なのになぜか寂しさを感じたのだ。
自分の家なのに、どこか落ち着かない。親戚の家に泊まった時の感覚と似ている。
(この家から出て、もう四年経つんだよな)
部屋は家を離れた時のままなんだけども。なぜか疎外感を覚えて落ち着かない。
もう小さくなった学習机に、昔読んでいた漫画。どれも思い出が詰まっているけど、どこか遠くに感じてしまう。
カーテンを開けると一面の銀世界。旅行者ならテンションが上がるだと思う。でも、北国の人間にしてみれば大雪イコール雪片付けなのだ。
身支度を済ませて一階へ向かう。階段を降りると、味噌汁の香りが漂ってきた。
「吾郎、おはよう。まだご飯は出来てないわよ」
一人暮らしをして、心の底から思う。母親って凄いって。朝早く起きて料理や洗濯をする。昔は当たり前に思っていたけど、今は頭が下がる思いだ。
「雪かきしようと思って」
一宿一飯の恩義って訳じゃないけど、体力はあり余っている。総司令に少しは家の手伝いをしたかって聞かれるし。
「まだ早いわよ。ご近所さんも寝ているし、たまに帰って来たんだからゆっくりしてなさい」
そういって母さんは優しく微笑む。確かに俺は昨日帰ってきたばかりだ。
でも、寂しさの理由がなんとなく分かった。この家では俺はお客様扱いなんだ。
「そうだぞ。皆明日から仕事なんだ。今日くらいゆっくりしていいんだよ」
父さん、そういうけど息子は正月早々ハザーズを壊滅させたんですけど。
でも、両親の言いたい事は分かる。雪かきは一軒が始めると、他の家も動き出す。五日まではゆっくりは暗黙の了解だ。
「新聞読ませてもらうね……へぇ、新しいヒーロー出たんだ」
習慣なんだろうか。新聞を見て最初にチェックするのは、ヒーロー関連の記事。
地方欄に新ヒーロー誕生とデカデカとインタビュー記事が載っていたのだ。
(新しいヒーロー誕生したんだな。でも、こいつら大丈夫なのか?)
誕生したヒーローの名前はハーモニーオーケストラ、丁十級のバフ系ヒーロー。
それはまだ良い。記事を読んだら、物凄い調子に乗っているんですが。私がこの町の平和を守ります?甲二級の俺でも、そんな大口叩けないぞ。
(名前は獅子王光か……インテリ系イケメンだな)
バフ役は、役割上イケメンが、殆どだ。俺みたいなボッチヒーローと違って、戦闘もしないし。
ふと、顔を上げると父さん達が気まずそうな顔をしていた。
「吾郎、お前バフ系ヒーローにも詳しいのか?」
父さんが重々しい表情で、尋ねてきた。当然、両親は俺の正体を知っている。
ハーモニーオーケストラ絡みで何かあったんだろうか?
「うーん、上級ヒーローにバフ系はいないから、援護に行った時に話す位かな……まじかー」
ヒーローサイトで、ハーモニーオーケストラの事を検索してみた。
オーケストラっていっているけど、バフ役の男と女子二人の三人だけらしい……三人でオーケストラって名乗って良いのか?
オーケストラの名前の通り、楽器を使うらしいけど、演奏者はピアノとリコーダー。どっちもあまりオーケストラでは出番のない楽器の筈。
(バフ役の指揮者の力が弱いから、オーケストラにおける主要楽器を使えないってとこか)
ソシャゲでいうコストが足りない、もしくは、無料ガチャしかひけていない、そんな感じなんだと思う。
早い話が音楽の才能がある人を仲間に出来ていないのだ。
「葉琴さんの家に獅子王君が出入りする様になってから、律君との仲が疎遠になっているみたいなの。律君落ち込んじゃって……吾郎、貴方幼馴染みなんだから励ましてあげて」
母さんの話によると一か月位前から響ちゃんは獅子王と一緒にいる事が増えたそうだ。当然、律との仲は冷えていく訳で。
ちなみに響ちゃんはピアノを習っていた。そして律と響ちゃんの仲がこじれ始めた期間とハーモニーオーケストラが誕生した期間も一致している。
(里帰りした俺が律に会いに行くのは不自然じゃない。そしてトラブルにあってもハザーズ絡みのトラブルにあっても解決出来る)
でも、お母様。気まず過ぎて行きたくないです。
◇
幼馴染みへの心配、ヒーローとしての責務、何より母親からの厳命には勝てず律の家に。
「大酉です。東京のお土産を持ってきました……律だよな」
俺の知っている律は爽やか系のイケメン。しかし家から出て来たのは、ボサボサの髪の陰キャ男子。
(生まれた時から一緒だった幼馴染みを奪われたら落ち込むよな)
俺はこの件に関しては無関係だ。でもヒーローが関わっているので、妙な罪悪感を覚えてしまう。
「あ……吾郎、帰ってきたんだ。元気そうだね」
律はそう言うと力なく笑った。痛々し過ぎて見ていられない。
昨日までは響ちゃんと惚気話をされたら、鷹空カウンターをきめようとしていたんだけど、流石に自粛する。
「なんとかね。バイト漬けだよ。東京に住んでいても地味な生活だし」
芸能人に知り合いいるけど、地味な生活を送っているのは間違いない。
「私達が平和を守っているんですから、もっと元気にして下さい。ねえ、響」
不快な声がしたので振り返ってみると、そこにいたのは嫌な笑みを浮かべたイケメンがした。
(こいつが獅子王か……成長しても丙十級が限度だな)
響ちゃんは獅子王の後ろにいるけど、かなり気まずそうだ。
「響ちゃん、久しぶり。友達は選んだ方が良いよ」
獅子王は無視して響ちゃんに話し掛ける。そこまで仲が良くないけど、響ちゃんも幼馴染みだ。不幸になるのが分かっているから、早めに止めておきたい。
多分、獅子王は仲間の人数が増えたら、響ちゃんを控えに回す。
「君は誰ですか?君がハザーズに襲われても助けてあげませんよ」
俺の嫌味に気付いたのか、獅子王が絡んできた。いや、お前が勝てる相手なら変身しなくても勝つ自信あるぞ。
何よりハザーズに襲われるのは日常茶飯事だ。正確には俺がハザーズを襲っているんだけど。
「律、寒いから中へ入れ。俺は夜には東京に戻る……それじゃな」
律の背中を押して家に押し戻す。これから爺ちゃんの家に行ったり、お土産を買ったり等忙しいのだ。
「後から泣いて謝っても、助けてあげませんよ」
ヒーロー失格の発言である。でも、なりたてのヒーローって、テンション上がって万能感に酔いしれる奴多いんだよね。
「そりゃ奇遇だ。俺も援護しなくて済むし」
後から青森支部に援護拒否の申請をしておこう。
◇
……お土産売り場ってなんでテンション上がってしまうんだろう。今回もかなりの大量購入です。
(鷹空さん個人へのお土産どうしよう)
リクエストにあったジュースとかは、鷹空家へのお土産だ。鷹空さん個人に買っていっても、ひかれない筈。
普段使い出来て、高校生に喜ばれる物。お菓子を買いながら、お土産コーナーを物色していく。
(これ良いんじゃないか?)
総司令に買うお酒を探しいたら、それはあった。青空をイメージした津軽びいどろ
の青いコップ。下の方が青くて、空を連想させる。
もし、鷹空さんが家で使ってくれたら、凄く嬉しい。
(重いとか迷惑って思われないかな?)
反応が微妙なら間違えたとか言って回収しよう……いや、先に写メを撮ってライソして反応を見るべきか。
吾郎『鷹空さん、こういうの好き?良かったらお土産に買っても良いかな?それともきんぎょねぷたの飾りの方が良い?』
女子受けしそうなお土産も一緒に添付して断りやすくしておく。これで嫌なら婉曲に断れる筈。
翼『大好き。欲しいな。一緒に写っている黄色いグラスは吾郎のイメージだね』
……両方買って、こっそりお揃いにしておこう。
ハーモニーオーケストラは元になった短編にも出てきます つまり




