里帰り 故郷ではモブなのです
弘前に着いたのは夜の八時。既に日は沈み、町は闇夜に包まれている。
積もった雪に音が吸い込まれるのか、街は驚く程静かだった。
そして、久し振りの里帰りなんだけど……。
(懐かしいけど、なんか他人の家にお邪魔している感じがするな)
故郷が嫌いって訳じゃない。愛着は、それなりにある。
小四でヒーローになって、小六の時に東京に。
そしてヒーローになる前の俺は地味な子だった。運動も勉強も苦手、見た面はフツメンで引っ込み思案。何でも出来るお兄ちゃんのおまけの様な存在。
ぶっちゃけ地元なんだけど、大酉吾郎よりコカトイエローを知っている人の方が多いと思う。
はっきり言おう。故郷に会いたい友達がいないのだ。
仲の良かった可愛い幼馴染み?あんなのは創作の中にしか存在ないものだ。可愛い以前に、仲の良い異性の幼馴染みがいません。
男友達はいたけど、遠距離&ヒーロー活動のコンボで疎遠に……ライソどころか携帯番号すら知らない。
真冬だけあり、弘前の気温は氷点下。しかも、吹雪まくっています。寂しさとに寒さが加わり、妙に人恋しくなる。
「迎えはまだ来ないな……みんなにライソしておくか」
鷹空さんや月山達と作ったグループライソに『弘前ついた。雪が凄い』と駅前の写メを添付して送る。
秒で既読がついて、心が温かくなる。
翼『凄い、寒そう。風邪ひかないでね。この後、どうするの?』
一番最初に返事をくれたのは鷹空さんだった。個別ライソに移ろうか悩んだけど、既読が増えたので断念。
吾郎『今日は実家に戻って寝るよ。明日は先ず、墓参りへ。その後爺ちゃんのの家に挨拶行くと思う。実家で昼飯を食べて、お土産を購入。夕飯食べて、夜の十一時には東京に戻るよ』
結構なハードスケジュールだ。正月帰省だからって、ゆっくり出来ないと思う。ちなみに一番時間が掛かるのはお土産選びだ。職場絡みだけで、毎回三万は使ってしまう。
職場各部署への箱菓子。総司令に日本酒。上級ヒーローに個別のお土産。ブルーキャッツにも毎回お土産を買っている。
健也『正月休みって感じじゃないな。ダチや幼馴染みと遊ぶ余裕がないだろ』
うん、健也には可愛い可愛い幼馴染みがいるんだよな。健也自身もイケメンだし。
皆がお前みたいなリア充生活を送っていると思うなよ。
吾郎『幼馴染みはいるってばいるけど、仲が凄く良いって訳じゃないんだよ。小学校の時の友達も仕事が忙しくて自然消滅だよ。街で会っても気付かないと思う。ところで、お土産リクエストあるか?』
幼馴染みは男一人に女の子が一人……でも、その二人が凄い仲良しで自然に距離が開いてしまった。
故郷の友達に関しては薄情かもしれないけど、ヒーロー稼業で手一杯なのだ。次々出てくるハザーズに、新しいヒーロー。
掃除はしてもらっているけど、一人暮らしはやる事が多いのです。
月山『里帰りしている時位、気を使うなよ。ゆっくり出来ないかもしれないけど、少しは休め』
そういえば、健也以上に創作キャラみたいな奴がいたんだよな。幼馴染みがアイドルで、しかも恋人なんて漫画の最終回後じゃないんだぞ。
吾郎『職場には買っていく必要があるんだよ。ヒーロー仲間もそうだけど職員さんにもお世話になっているし。一人一個はリクエストして』
何よりお土産を喜んでもらえると、嬉しいのだ。故郷の者で知り合いが喜んでくれる。
自分が褒めらている感じがして嬉しい。
翼『僕じゃないけど、ママが前にもらったりんごジュース美味しかったって言ってたよ。パパはお煎餅にチョコがかかったやつ』
鷹空さんのご両親からにリクエスト。これは是が非でもゲットいなくては。
◇
不思議なもので実家に帰ると自然に子供に戻れる感じがする。長旅の疲れもあり、俺は居間でだらけていた。
「吾郎、疲れているの分かるけど、届いたお土産誰からもらったか教えてちょうだい」
俺が毎回お土産を買ってくる事もあり、ヒーロー仲間がお土産を持たせてくれたのだ。
結構な量だから宅配で送りました。
「これは俺のお土産で、こっちが総司令からのお土産。こっちがピースガーディアンさん。そっちはサンサンクの三人から……それでこれがパワーナックルさん……それで、これが鷹空さんから」
ふと思った。ヒーローにはファンが多い。ここにあるお土産ってファンからみたら、垂涎の的なのでは?
でも、いくら積まれても鷹空さんからもらったお土産を渡す気はない。
(俺の分も合わせると八人分……日持ちするものが中心だけど、実家だけで食べきれるか?)
「明日で良いから、貴方が買ってきたお土産のどれかを、調さんの所に一つ届けて。律君と何年も会ってないでしょ?東京の友達も大切だけど、幼馴染みも大事にしなきゃ駄目よ」
調律は俺の幼馴染みだ……でも、あまり一緒の遊んだ事はない。
律はもう一人の幼馴染み葉琴響と仲が良く、いつも一緒にいた。二人の親も仲が良く、旅行やお出掛けするのも両家一緒。
なんとなく気まずさを感じて、俺は他の友達と遊ぶ様になったのだ。
健也と月山に言いたい。お前らの陰で泣いていた幼馴染みがいる筈だと。
「律なら響ちゃんとデートに行ってると思うよ」
折角の休みにお邪魔虫になりたくないんだけど。
(前なら心が折られていたけど、今の俺には鷹空さんがいる)
片想いは継続中だけど、仲の良い友達にはなれている筈。昨日もライソしていたし。
「それが、そうでもないのよ……吾郎、貴方はまだ竜司のお店に行ってないでしょ。天舞さんも翼ちゃんに会ってみたいって言っていたし。東京に戻ったら、翼ちゃんやお友達と竜司のお店に行く事良いわね」
どうやら、お母さんは鷹空さんのお母さんと良く電話をしているらしい……苦情とか言われていないよね?
◇
同刻、巣護真理は緊張で胃を痛くしていた。
彼女が今いる場所はヒーロー時代に一度も来る事が叶わなかった本部……の総司令室である。
バーディーアンが吾郎のサポート役になったので、担当である彼女が招集されたのである。
本部に来る事が出来るヒーローは、上級ヒーローか、そのサポート役のみ。
総司令室に来れるヒーローは、そのなかでもほんの一握り。上級ヒーローでも、呼ばれずに終わる者の方が多い。
(迫力が凄い。このお方が九稲総司令……やっぱり、バーディーアンが上級ヒーローのサポートをするから釘を刺されるのかな?)
真理は自分が担当するヒーローバーディーアンが、上級ヒーローのサポートをする事を聞き驚いた。しかも、そのヒーローが吾郎だと聞き、さらに驚いた。
あの無害そうな少年が、まさか甲二級のコカトイエローだとは夢に思わなかった。
「そう、硬くならずとも好い。今度から貴方は私の直属の部下になるのだぞ。もっと楽にしろ」
九稲総司令は、そういって優しく微笑む。慈母の様な優しい微笑み。
しかし、圧倒的な強者を前にして真理は身を縮こまらせる事しか出来なかった。
「総司令の直属の部下となったからには、粉骨砕身の覚悟で働く覚悟です」
真理はそういって深々と頭を下げた。
担当しているヒーローが、上級ヒーローのサポート役になれば、当然監督者の待遇も変わる。
だから真理は総司令が警告の為に、自分を招集したのだと思っていた。
「頼むぞ……一つ聞きたい事がある。うちの馬鹿、勘違いして迷惑を掛けていないか?もし、鷹空翼が迷惑をしているのなら、サポート役から外すぞ。バーディーアンも大切なヒーローだ。階級が上だからといって、迷惑を掛けて良い訳ではない」
しかし、九稲総司令が真理を呼んだのは、吾郎が勘違いしているのではないかという疑念からであった。
当然、九稲総司令は、鷹空翼の資料を確認したし、サンサンクからも報告を受けている。
その結果、素の状態の吾郎に鷹空翼が好意を持っている事に疑念をもったのだ。ヒーローとしてならまだ納得出来た。
しかし、鷹空翼はクラスメイトとしての大酉吾郎に好意を抱いているというのだ。
そしてある心配が生まれた。吾郎は、お友達としての好意を勘違いしているのではないかと。
「その点なら大丈夫です。もしサポート役を外したら闇落ちの危険性もあるので……いざとなれば、私が翼を止めます」
そしてここでもある勘違いが生まれる。真理は総司令が、翼の強すぎる好意を警戒しているのではないかと思ったのだ。
翼の吾郎への好意は、微笑ましいを通り越し、ヤンデレ目前となっている。
付き合う前から合鍵をゲットし、今や私物を吾郎の家に増やし計画を立てているのだ。
「闇落ち?…何が起きているか、詳しく聞かせてもらえるか?」
闇落ちヒーローは、本部でも大きな問題となっている。もし、鷹空翼が闇落ちすれば吾郎は自分を責めるであろう。
「お恥ずかしい話なのですが」
真理は翼が吾郎に救われた事で、勇気の戦士から愛の戦士に変わった事。そして強すぎる独占欲と犯罪一歩手前の盗撮コレクションや、合鍵合法ゲットなどを報告した。
「つまり、鷹空翼は吾郎自身に好意を抱いていると……それなら安心した。吾郎……コカトイエローの相手は、それ位でちょうど良いと思うぞ」
満面の笑みを浮かべる九稲総司令。その頭の中では、吾郎を弄る計画を建て始めていた。
「あの……それは、どういう事でしょうか?」
総司令の微笑みを見て、真理の頭の中は?マークで溢れていた。総司令は、あのストーカー目前の行為を否定するどころか推奨したのだ。
「吾郎は、小学校四年生からヒーローをしている。当然、何度も裏切りにあい、自然と人を疑う癖が身についておる。何より厳しい戦いや凄惨な被害現場を見た所為で、自己評価が著しく低い。特に恋愛では、駆け引きは逆効果。相手が一歩ひけば、吾郎は三歩引く。三歩引かれたら、圏外ににげてしまう。あやつの恋人になれるのは、強引にでも私を見てってタイプでなきゃ難しいのじゃ」
この日、真理は初めて安堵の溜息を漏らしたのであった。




