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(恐るべき)怪物の正体

折角(せっかく)訪ねて来てくれたのだ。小生(しょうせい)が持つ知識の枝の中で、君の疑問解決に役立つであろうものは全て授けよう。エメラルドシティに現れた怪物というのは、顔に縫合痕(ほうごうこん)のある怪力の男で間違いないか」

「はい。壁を突き破ったり、鋼の(おり)を壊したり……だけど町の人たちは遠くに逃げるだけで……むしろ、街中で魔法を使ったジャックさんの方に敵意を向けていたんです。チェシャは、オズが討伐(とうばつ)を約束しているからだって言ってましたけど……でも、その場で怪物をやっつけようとか、どうにかして追い払おうとか、そういう動きが無くて……変だなって思いました」

「なるほど。勇者アリス、簡潔に答えよう。その怪物は我々とは違う、創られた者だ」

「創られた……?」

「言うまでもなく本来の生命誕生のプロセスは踏んでいない。オズが魔力の存在を(おおやけ)には否定しつつ、秘密裏(ひみつり)にその力を独占しようとしていることは、マーリンに聞いているのだろう?」

「聞きました。医学で成し遂げられないことを、魔力を使って試そうと…………もしかして!」


 行き着いた結論に言葉を失ったアリス。ワイズ・ワームはゆっくりと頷き、告げた。


「左様。偉大な権力を得た者は、総じて生死をも自らの力でコントロールしようと試みる。オズは、年齢を重ねるにつれ衰えてゆく自身の肉体を憂い、そしてある結論に至った。朽ちない肉体を創造し、自分が(つちか)ってきた知識と自らの人格をトレースすれば良いのだ、と」

「それがあの怪物だとしたら、どうして……オズが、秘密の研究を外に出すなんて、」

「細かな経緯は小生の知るところではないが、推察するに、脱走したのだろう。怪物には自我や知性があったのでは?」


 工場地区でのことを思い出す。怪物は、本能のままに暴れまわっていたのではない。用のないジャックを払い()け、アリスに向かって圧力をかけた。


「……多分、ありました。俺と来いって、私に言ったんです。何で私なのか、どんな用件なのか、今はまだ何も分からないままですけど……」

「理由が何にせよ、君をこの世界に呼んだのがあの者だというのも、小生には納得がいく。エメラルドシティの住民の大部分はオズによって平和と安寧(あんねい)を約束されている。その例外があの人造人間……フランケン・シュタインであるからだ」


 その名を聞いて、アリスは元いた世界の海外文学を思い出した。実際読んだのは小学生の頃なので記憶はおぼろげだが、人造人間のSF小説だったことは確かに覚えている。

 やはり、このワンダーランドに出てくる登場人物は、童話の登場人物とリンクしているようだ。


「フランケンがオズに対しどのような感情を抱いているのか、そもそも感情を持ち合わせているのか……小生にも確かめようがない。小生が知るのは、フランケンという存在は、オズが、オズ自身の欲望のままに創りあげた生命(いのち)である、ということなのだ」

「あの、オズは朽ちない肉体を目指してたんですよね? ということは、フランケンの怪力も、オズがそうプログラムしたから……?」

「無論。だが現在、フランケンは怪物として不定期にエメラルドシティに現れ、物資を強奪し、帰ってゆくのみ。創り手である自分の言うことを聞かないあの怪物に対するオズの考えは、想像に(かた)くない」


 アリスの脳内で、情報がカチリと繋がっていく。バラバラだったブロックのピースが、規則的に並んで、積み上がっていくように。

 住民がフランケンの出現に驚きながらも攻撃しなかった理由、フランケンの声がアリスをこの世界に呼び寄せた理由、オズが魔力を否定しながら独占しようと画策(かくさく)する理由……全部まとめて考えれば、とても単純でバカバカしく、迷惑極まりない話だ。


「フランケンに、会いに行かなくちゃ……オズより先に、私が」

「ならば住み処を伝えよう。フランケンが拠点にしているのは北方の乾燥地帯、ノザン」

「ノザン……町の名前ですか?」

(いな)、あの辺りは一年を通じて草木が枯れ、木の根も凍る。まともな動植物は育たない。そのため町が発展するどころか、未だ何人も居住地にしておらなんだ」

「だから逆に、フランケンは住めるってことですね」

「いかにも。小生らもノザンについては語れることがないのだ。フランケンがどのように暮らしているのかも、また(しか)り」


 伏し目がちに言うワイズ・ワームに、アリスは膝を折って下から表情を覗き込んだ。


「顔を上げてください、ワイズ・ワームさん。今の私には、今日いただけた情報で充分すぎるくらいです。おかげで私、次にやるべきことが分かったんですから」


 笑顔で礼を言ってから、今度は苦笑する。


「というか、私の方こそ情報を頂いてばかりで申し訳なくて……ワイズ・ワームさんやバターフライさんに、何かお返しできればいいんですけど」

「……珍妙(ちんみょう)なことを言う」

「へ?」

「小生らは義務として動いたのでも、報奨ありきで動いたのでもないのだ。どうして君が何かを返そうとする必要がある?」

「そ、そんなの! 必要に決まってます! 助けてもらったら同じだけ、場合によってはそれ以上助ける。そうやって世の中は回ってるんです。少なくとも私の周りはそんな感じで……300年前のこの世界で出会った皆さんだって、そうでした」


 目を閉じれば、思い出される。ロゼ女王を始め、マーチ・ヘアやヴァン・ヘルシング、アーサー王に、伯爵にランスロット、トー卿やリトル・ジョン……出会った全ての人に優しさを貰い、その優しさを無駄にしない道を考え、アリスは行動した。

 だから、今は彼らの役に立ちたいと思う。牢獄から出してくれたバターフライと、この時代を生きるための情報をくれたワイズ・ワームに恩返しできることは、何かないだろうか。

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