花柄のワンピース(2)
「フルカンがあなたをここまで殴りつける理由にもなったボイスレコーダーには何が録音されていたの?」
勿論そのことについて全てを話すつもりはなかったが、メルべが納得できるようなこと話さなければ、ウムトにも落ち度があったと考えられてしまう可能性もあった。メルべも、この状況を理解した上でウムトにこの質問をぶつけていた。
「フルカンにとって重要なことが録音されていたんだ。ただ、何をしようとしていたのかは知らない、僕には何も知らされていなかった。ただ部屋にボイスレコーダーを置いて回収したんだ」「それじゃ、あなたは録音を聴かなかったみたいね」
なぜその結論に達したのかは分からなかったが、ウムトにとっては好都合だった。不自然なくらいウムトは大きく頷き、その勢いのままに口から言葉が漏れていた。「この間、フルカンが風邪を引いたって会社の来なかった日も、外で見かけたんだよ」
不動産屋のことは話すなと言われていたが、話してしまうところだった。「それで?」「あれは絶対にフルカンだった」「だったら話しかければよかったじゃない」「遠くにいたから・・・」「病院に向かうところだったのかもしれないし、フルカンのことを疑いすぎじゃない?私は彼のことを詳しく知らないから・・・」
メルべは声量を下げ、なぜか視線を逸らした。誰がその場にいても不自然に感じただろう。
「ところで、どうしてボイスレコーダーを壊したの?あまり賢い方法だとは思えないけど?私ならもう少し上手くやったと思うから」
「即興だったんだ、僕だって少しは考えたよ。大胆な方法かもしれないけど、上手くいったと思ってる」
「本当に?包帯を巻かれて、ベッドから起き上がれないのに?」
メルべは笑いを抑えきれなくなって背中を向けた。肩は小刻みに震え、笑っているのは明らかだった。それから、いくつかウムトに質問をしたが、ボイスレコーダーの核心に触れるものではなかった。何を思ったのかメルべは突然フルカンとユルマズの過去について話しはじめた。
二人がウムトや、メルべのような二十代半ばの若い頃に起きたことが今でも尾を引き続けているようだった。二人は知らず知らずの内に同じ記事を書かされていた。どうしてそんなことになったのかは分からないが、上手く書けている方の記事を採用するつもりだったのだろう。
その記事によって二人のことを見定めたかったのかもしれない。二人も薄々勘づいていたが、フルカンも、ユルマズも自分の記事が選ばれることを信じて疑わず、立場が似たような二人にとってどちらが上かその記事が示してくれると思ったのだろう。
ユルマズは自分に対して全く遠慮のしないフルカンの態度が気に入らなかった。生粋のエリートであり、誰もが名前の知る学校で教育を受け、最終的には海外の有名な大学を卒業していた。そんな彼がどうしてこんな小さな会社で働いているのか、疑問に思っている社員も少なくなかった。
それとは反対に、フルカンは公立の学校に通い、それこそ受験など空想の世界だったのかもしれない。大学もユルマズとは天と地ほどの差があった。
ただ結果として選ばれたのはフルカンが書いた記事だった。ユルマズにとってこの結果は許し難いものだった。深く刻まれた傷はフルカンへの復讐の誓いとなり消えることはなかった。ユルマズが人生で初めて味わう敗北だった。




