雨と雷(2)
「君がピアノを弾くのをいつか聴いてみたいな」
サラの答えを予想するのは難しくなかった。ただ、聴きたいのは本心だった。
「機会があればね・・・」もちろんそんな機会が訪れないことを分かっているような返事だった。
手に持ってるフランスの作家の本を読みはじめた。アフメドは、窓に打ちつける雨を聴きながら、コーヒー、紅茶のパック、チョコレート、クッキーが入ったカゴの中を整理し、何度かサラに視線を向けていた。
サラはアフメドの視線に全く気がつくことなく、ただ本を読み続けていた。ページをめくる紙の音が雨の音に混ざって聞こえてきた。サラがこっちを見ていた。何か飲みたいのかと思ったが、そうではなかった。
何の前触れもなく「あの日も、まさにこんな雨が降っていた。私の猫が死んだ日も・・・」とサラは言った。アフメドは何て答えるべきだったのだろうか?彼女が座っているソファーに一緒に座るべきだったのだろうか?アフメドは何もしなかった。近づくと逃げてしまう美しい蝶を遠くから眺めるように、ただ台所からサラのことを見ていた。
「もう若くはなかったけど、元気な猫だった。ただ体調を崩しているのは分かっていたから、心配はしていたの。これまでにも何度かそんな事があったけど、一週間しないうちに良くなっていたから、そこまで心配をしていたわけじゃなかった。
それでも時間が過ぎる中で、回復の兆しが見えないことに不安が大きくなっていたし、今思えば、猫に近づく死の足音が私には聞こえていたのかもしれない。早く何かしなければならないと思ったけど、私にできることはただそばにいてあげることだった。
月の綺麗な夜、どうしてそれを思いついたのかは覚えていないけど、神様に手紙を書くことに決めたの。その手紙に猫が元気になるためなら何でもすると書いて、祈りと共にベッドの下に置いて、部屋の明かりを消したの。
朝一番にベッドの下を覗いたら、そこに手紙はなかった。神様がそこから私の手紙を取って、読んだと思ったわ。いつ返事がくるか分からないから、その日以来、毎日朝起きるとベッドの下をまず確認したの。幼い私は単純で、純粋だったし、傷つくやすく、繊細だった。本気で返事が来ると信じていたんだから。
でもそう信じること以外に猫を救う方法が見つからなかったのも事実よ。今思えば、私より早く起きた母が見つけたのよ。読んだかどうかは知らないけど、今となってはそんなことどうだっていいの。とにかく、返事はなかったし、猫も死んでしまった。
それでも、私はできる限りのことをしたの。普段は絶対にしない家事を手伝ったり、すべては猫のためだった。残念だけど、私の祈りは届かなかったようね。もしくは私の一連の行動は、傲慢だったのかもしれない。とにかく、さっきも言ったようにこんな雨の日だった。
外には行かないで、家で過ごしていた。天気が良かったとしても、外には行かなかったと思う。雨が窓に勢いよく打ちつけていて、雨が猫の命を奪いにきたかのような不思議な感覚を今でも覚えてる。その日は少し寒かったから、毛布で包んで体温が奪われないようにしたけど、あまり役に立たなかったのか、猫の体温が下がっていくのを手から感じていたし、どうすることもできなかった」
雨の音に消されることなくサラの声はアフメドに届いていた。




