美しい香水の瓶(4)
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ウムトはアトリエを出た後、職場に戻った。就業時間を過ぎていて人が少ないのをいいことに、フルカンは悪びれることなくタバコを吸ってた。
アフメド医師と病院の記事についてフルカンはただ「好きに書いていいぞ」とだけ言い放ったが、その言葉を鵜呑みにしていいはずなかった。ウムトは顔の近くに漂う煙が不快だった。
「退屈な記事を載せるつもりはないし、どこにでもあるようなくだらない記事を書いたら二度と記事を書く機会はないからな」
フルカンは煙を吐き出してから「期待してるぞ」と心に微塵もない事を口にした。机の上にはフルカンが読んだであろうアフメド医師に関する資料がどっさりと置かれていた。ウムトがそのことに気が付いたのを確認すると、手にあるタバコを灰皿に押しつけて消した。
フルカンの机の上に堂々と灰皿が置かれているのに、誰も何も言えなかった。タバコの煙と匂いから逃げるように資料は家で読むことにして、机の上にあるアフメド医師の資料を脇に抱えた。
「おい、いつからシャワーを浴びてないんだよ?髪型もダセーな」ウムトは呼び止められることすら嫌だった。
「シャワーは毎日浴びています。髪だってそのうち切りますよ。もういいですか?」
「よくそんな犬みたいな髪型で外が歩けるな」
笑い声を気にすることなく、返事もすることなくウムトは職場を出た。
ウムトは古い木製のアパートに住んでいた、そこに決めた理由は安いのと、職場から遠くないことだった。真っ暗な部屋に入り、スイッチを押しても照明は点かず、もう一度押すと部屋を照らしてくれた。
すぐにシャワーを浴びて、夕飯として朝食と同じようにパンの間にチーズを挟んで食べた。机にアフメド医師の資料を置き、ひとつ手にとって読みはじめたが、あまり興味を引くようなものはなかった。
いくつか読んだところで、同じ記事を読んでいるような気さえした。それからも似たような記事の繰り返しで、ひとつ読めば十分だった。アフメド医師がどれだけ優秀なのかはプロフィールに書かれた大学や、病院の名前から嫌でも伝わってきた。




