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しかし、その右手首を牙狼の左手が掴む。
「ちいっ!!」
陽炎の右ひざが牙狼の顔面へ飛ぶ。
これも牙狼は労せずに、かわした。
そして。
持ち上げている陽炎の身体を力任せに地面へと叩きつけた。
「がはっ!!」
陽炎が、うめく。
牙狼が陽炎に、のしかかった。
ずらりと並んだ牙の間から落ちるよだれが、陽炎の顔にかかる。
「さあ、どうしてやろうか?」
牙狼が楽しげに言った。
牙狼は獲物をいたぶるのが好きであった。
少しずつ、少しずつ牙や爪で敵を弱めていくのだ。
牙狼の口が陽炎の脇腹に噛みついた。
「ぐあっ!!」
陽炎が叫ぶ。
牙狼は陽炎が死なぬよう手加減している。
「ぐふふ! 良い声だ! もっと泣け! わめけ!」
興奮で牙狼の両眼が血走る。
牙狼が大口を開け、再び陽炎に噛みつこうとした、そのとき。
空気が変わった。
二人の頭側の木々の合間から、しずしずと進み出た者が居る。
一人の女。
顎の辺りまでの銀髪。
肌は抜けるように白い。
くりりとした瞳の上に、赤い染料が眼に沿って塗られていた。
美しい顔立ち。
白い百合模様をあしらった淡い赤色の着物をすっきりと着こなしている。
黒い帯に一輪の大きな真っ赤な華が挿してあった。
両手には、西洋の黒いレース手袋をつけている。
右手にはキセルを持っていた。




