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「あなたは」
陽炎が言った。
「何故、こんな役目を引き受けたのですか? もしかしたら、命を落とすかもしれないのに」
無法丸は一瞬、きょとんとした。
「俺は、こういう性分なんだ」
にやりと笑った。
「行く先々で他人の事情に首を突っ込んでる。一応は、自分に合う刀を探してはいるんだがな」
「刀?」
「ああ。いろいろあって、刀が無い。なかなか、しっくりくるのが見つからない。この刀は」
無法丸が武龍の刀を手に取った。
「しっくりはくるが、借り物だしな」
顎に手を当てる。
「よく考えたら、心の穴を埋めるための旅を始めるはずなのに、刀探しだけで手間取ってる」
「心の穴?」
「そうだ、俺は孤児なんだ」
陽炎は、どきりとした。
自らも、里の頭領に集められた孤児の一人だったからだ。
「どうもいつも、心にぽっかりと穴が空いてる気がする。まあ、世の中の全ての孤児がそうだなんてことはないだろう。たまたま、俺と…」
無法丸はそこで、やや言い淀んだ。
「昔、恋仲だった女も同じ境遇で、そう思っていた」
無法丸の瞳が悲しみに沈んだ。
「そいつは心の穴を無理に埋めようとして死んだ。俺は何も出来なかった」
「そうですか…」
陽炎は、それしか言えなかった。
(心の穴…)
陽炎にも覚えがある。