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唇をぺろりと舐めた。
一方、蜜柑と春馬は白帯と忍びたちから必死に逃げる。
忍びたちはすぐには近づかず、やや遠巻きに蜜柑たちを追った。
これは前回の戦いで春馬が使った「エレメントシェル」の存在を蛇美羅から聞き及び、警戒しているということか。
とにもかくにも、まずは二人の少年少女には有利に事は運んだ。
霊を呼べない蜜柑と、威力のある武器はあるものの、そもそもそれを敵に当てる技量が無い春馬では、もしも強引に迫られていれば、あっという間に斬り殺されていただろう。
走り続ける蜜柑たちの前に突如、小さな洞窟の入口が現れた。
入口の大きさが丁度、小柄な二人に通れても、追っ手には入れないものであった。
「あの中へ!」
春馬の声で、まずは蜜柑が洞窟へと飛び込んだ。
すぐに春馬も続く。
暗闇の洞窟をしばらく進むと、やや道は広くなった。
背後から追ってくる気配はない。
「とりあえず、運が良かった」
春馬が胸を撫で下ろした。
背中のバックパックから、ろうそくを取り出し、火打ち石で火を点ける。
「師匠から『ライト』って物をもらったけど、もしものときに取っておくね」
春馬が、にっと笑った。
明かりがつくと洞窟の壁面のきらきらとした鍾乳石の輝きが、二人の瞳に映った。
「奥へ行こう」
春馬が促す。
二人は洞窟を進んだ。